駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

内田春菊『ファンダメンタル』

2010年02月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名あ行
 新潮文庫。

 「愛ってなんだか知らないけれどそれでも私は愛してる」という巻頭言のショート・ストーリー44本。

 妙に好きなのが、『一緒に暮らそう』というお話。まあ読んでみてください。
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川原泉『空の食欲魔人』

2010年02月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名か行
 白泉社文庫。

 適齢期をこえても結婚する意欲のない一橋みすずは家族の心配のタネ。そんな彼女にもプロポーズする男性が現れた。幼なじみの吉川弘文は誠実で二枚目で制服姿も凛々しいパイロット。だがその正体は、食欲の前にはプライドも男の意地もない「恐怖の食欲魔人」だったのだ…シリーズ6作に『進駐軍に言うからねっ!』『3月革命』『月夜のドレス』を収録した短編集。

 リアルタイムでは何故かほとんど素通りだった作家さんでしたが、「卓抜な着想と意表をつく設定、そしてつねに読者の死角へと向かうストーリー展開でカリスマ的人気を博」し、「その不思議なセリフまわしは哲学的ですらある」と高く評価されていることはもちろん存じ上げておりました。このたび白泉社文庫版をひととおり読んでみまして、畏れ多いことながら、正直言ってぴんと来ない作品がいくつかあったことは事実です。
 多分もっと若く(幼く)感受性が豊かで人間的に柔らかかったころにきちんとめぐり会えていたら、すごくすごく好きになった作家さんだったのかもしれません。今や私は頭が固くなり自分の好みができあがってしまっているきらいがあるので、そこらへんで微妙にフィットしない部分があるのでしょう。心酔している方、ごめんなさい。
(でも私マジで、たとえば『甲子園の空に笑え!』『メイプル戦記』とかってどう読んでいいのかわからないんです。『バビロンまで何マイル?』もわからない。恐竜滅ぼしてるうちはよかったんだけれど、チェーザレ・ボルジアはなあ…歴史ドラマにはまっちゃった漫画家がそのまんまそれを描いちゃうようなのって、萩尾望都が『あぶない丘の家』で義経をやったときも私は楽しめなかったんですぅ~『中国の壷』『殿様は空のお城に住んでいる』『フロイト1/2』もわからない。『Intolerance』は好きじゃない。『たじろぎの因数分解』『真実のツベルクリン反応』『花にうずもれて』『かぼちゃ計画』なんかは好きです。リリカルだし、基本的な少女漫画ですよね。『銀のロマンティック…わはは』を名作と称えることに否やはありません。うーむむむ…)

 この短編集に収録されている作品は、どれもいいですね。良さの種類がちょっとずつちがうけれど、どれもいい。解説で詩人の伊藤比呂美が書いていますが、確かに私も読んでいてこの人の世界は大島弓子につながるものがあるなあ、と思っていました。薄幸の身の上だけど性格的にのんきな少女とやや不器用な中年(失礼!)男性とか、拾われっ子の弟とか、繊細さ故に奇矯な行動に出てしまうクラスメイトとか、大島弓子がそのまま取り上げていてもおかしくない題材ですよね。食欲シリーズの中では、ヒロインの手料理にインスピレーションを得に来る天才ミュージシャンのお話が近い。でも、この作家が描くからこういう作品になっている。この表裏一体さ加減がすごいなあと感心します。そしてどちらも、まぎれもなく優れた少女漫画なんですよねえ。

 少女漫画というのはつまり少女の夢・理想を描いてみせるもので、大昔の端的なスタイルはいわる「ドジでのろまでそんなには(「そんなには」ってところがけっこうポイントだと私は思う)美人じゃないワタシだけれど、学園一のモテモテのカレが、そのままのキミが好きだよ、って言ってくれて幸せ」ってヤツですね。それが、「ワタシ」や「カレ」の設定というかあり方が世につれて変化していく訳です。
 大島弓子の繊細すぎて神経質とも不安定とも言える「ワタシ」や「カレ」は新しく、画期的でした。川原泉は似たタイプの「ワタシ」や「カレ」で、大島弓子とはネガポジ反転したようなのんきで怠惰な物語を描くのですが、ちゃんと「好き」で「幸せ」で、そこにはリリカルさもせつなさも、確かにあるのです。すごい作家だなあ。少女漫画ってすごいなあ。少女ってすごいなあ。
 あ、『メイプル戦記』の「よかったねよかったね/女の子でよかったね…」って、このことか!? ちがいますね、すみません。

 こんなようにしか考えられない私ですが、この作家が好きです。本当です。
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河原泉『笑う大天使』

2010年02月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名か行
 白泉社文庫、全2巻。

 史上最強の名門お嬢様学校・聖ミカエル学園に学ぶ三乙女あり。元伯爵家の血をひく司城史緒、大名華族出身の母を持つ斎木和音、一大レストラングループ総帥令嬢の更科柚子。彼女たちはお互いの本性を知らぬまま、それぞれに巨大な猫をかぶり続け、うるわしい学園生活を送っていたが…川原泉の長編代表作。3本の続編も収録。

 何がすごいって『空色の革命』の俊介さんです。川原作品は少女漫画にあるまじきことに、恥じらいやときめきや照れを表現する漫符(漫画表現上の記号、お約束)である、頬や鼻にかかるあの斜線の出てくる頻度が極端に低いのですが、3頭身ギャグでなく真面目に描かれた男性の絵にこの線が描かれている、これはいたって希有な例です。この線をこんなにも出さずにラブストーリーが描けるんだから、すごい作家です。俊介さんと和音の行き違いも、和音の両親の二十年にわたる行き違いも、実は個人的にツボでして、ニヤニヤしながら読んでしまうお話です。

 しかし『オペラ座の怪人』の、泣き笑いしたまんまでくたりと「眠ってしまった」ルドルフ君のあの口元も、すごいです。泣かせてくれるなよ、川原教授…

 そしてそしてすごいのが大ラスも大ラス、『夢だっていいじゃない』の三人の「そして…」の最後。史緒の「--独身。」というところです。ずうううーんときましたね。

 私は、人は学校が終わって大人になったら、食べていけるだけの仕事をして、生まれた家庭を離れて新たな家族を得るため異性と恋愛し結婚していくべきだ、と思っています。生き物として次の世代を産み出すため、という意味もありますが、それまで赤の他人だった相手をその先一緒に暮らしていけるくらい愛せる度量を持つことが、人間としての真の成熟の証かななどと思ったりするからです。史緒は誰かの妻にも母にもなっていないので、これにはあたりません。でも、史緒は義務教育もすっかり終わったあとで、一臣と出会ったのです。夫ではなくて兄という、新たな家族を得た訳ですね。だから、(おそらく)恋愛も結婚もしなくても、これはこれでいいのかもしれない、ということです。セックスもキスも手をつなぐことすらも描かれない、およそスキンシップというものからことごとく遠い、でも絶対に愛も情熱も幸せも存在する川原世界なのですが、ここにいたって史緒は性愛なしに人としての生をまっとうしちゃうんですねえ。すごいです。

 本編では黒犬ダミアンの愛らしさにつきます。耳の先っちょが折れているところが激ラブリー。「人生ってすばらしい」よな、犬だけどな。(2001.10.12)
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河原泉『美貌の果実』

2010年02月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名か行
 白泉社文庫。

 ブドウの収穫とワインの仕込みを目前にして、交通事故で父と兄を一度に失ってしまった母娘。途方にくれるふたりを助けるために、葡萄の精が現れて…3部作に『架空の森』『森には真理が落ちている』『パセリを摘みに』を収録した短編集。

 表題作や『架空の森』などは大島弓子に描かせたらかくや、という部分もありますが、『愚者の楽園』『大地の貴族』は川原泉にしか描けない作品です。すごい作家だ…ゴジラの着ぐるみ着たヒロインと金髪の青年が寄り添うラブシーンもすごいけれど、何がすごいってひとりでケーキにろうそく灯すヒロインの誕生日のシーンがすごい。このせつなさ・美しさはこの絵柄でなくては出せません。すごい作家だ…
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