東急シアターオーブ、2025年3月18日18時。
昭和五十年代初期。服役中に聴いた八代目有楽亭八雲(古川雄大)の「死神」に一目惚れし、押しかけるように弟子入りした強次(黒羽麻璃央)は、「与太郎」の名前をもらって意気揚々と落語の道に励むが、八雲の養女である小夏(水谷果穂)から衝撃的な言葉を聞かされる。いわく、小夏の父である助六(山崎育三郎)を、八雲が殺した、と。若き日の助六と八雲、ふたりの間に立つ女性・みよ吉(明日海りお)の因縁について、付き人の松田(金井勇太)が語り始める…
原作/雲田はるこ、脚本・演出/小池修一郎、企画/山崎育三郎、作曲・音楽監督/小澤時史。2010年に連載が開始され、16年アニメ化、18年ドラマ化もされた漫画を舞台化した、日本発オリジナル・ミュージカル。全2幕。
アニメ、ドラマは未見でしたが漫画自体は気になっていたので、舞台化が決まったときに借りて読みました。おもしろかったけれど、そんなに上手い、出来のいい作品ではない、とも思っちゃったかな…何が昭和で元禄で心中なのかよくわからなかったというか、上手く表現されていたとは思えなかったので。あんまりいい編集者がついていなかったのかもしれません。あと、これは偏見ですが、BL作家特有だと私が思っている、女性キャラクターの癖ツヨ描写が、小夏にしてもみよ吉にしてもあまりに目立っていて、より読みづらくさせていたと感じてしまったのでした…ただ、落語家の八雲の一代記として、天才の朋輩という存在に振り回されながらも長い一生を生き抜いた者の生き様を描いた作品としては、よかったな、と思っていました。
なので、ドラマ版で助六を演じたいっくんが(八雲は岡田将生、みよ吉は大政絢、小夏は成海璃子)舞台化、ミュージカル化を熱望して研音メンツ集めてイケコに企画を持ち込んだと聞いて、過去パートがメインないしすべてになるような構成になるならそれはこの物語として違うんじゃないかとか、そもそも落語を俳優がやるのってどんなにお稽古しても難しいんじゃないのかとか、てかミュージカルって…!とか、いろいろ心配していました実は。開幕してからも、濃い原作ファンからはあまりいい評判が聞こえてきていない気もしたので…ただ、そうしたファンがこだわっている点と自分のこだわりはおそらく違うだろうから、まあフラットに観てみよう、と席に着きました。
オーブなんてデカすぎるのでは…と案じていましたが、まず三階建てのセット(美術/松井るみ)がどかんと構えていて空間を見事に埋めていて、おおぉもしかして大丈夫そう…?となったのが第一印象。オケピはないものの録音のお囃子とともにチューニングの音が聞こえて、舞台奥か地下にオケ(指揮/御崎恵)がちゃんといるんだな、と思えたのもなんか心強かったです。
で、一曲目はオープニングだとして、でもちゃんとミュージカルしていて「なるほどね!」となりましたし、二曲目のアンサンブルのナンバーの感じは「いやコレは明治座では…」となったりもしたのですが、その後は舞台そのものにグイグイ引き込まれていきました。いやぁ、よくできていましたね!?
客入りも良かったし、この座組ならこれくらいデカいハコでないとファンが収まらないんだろうし、そのデカさに合わせた派手さ、エンタメ感の創出と、繊細かつ骨太な人間ドラマの芝居ががっちり成り立った、良き舞台作品に仕上がっていたと思いました。おもしろかった、よく出来ている、そしてちゃんとミュージカルだった…!! 感服しました。イケコの手腕ももちろんあるだろうけれど、いっくんの情熱や意向や、原作漫画家さんの協力なんかも大きかったのではないかしらん…?
比べて語ることではないのだけれど、ホリプロが日本発オリジナル・ミュージカルを、といって、でも海外スタッフを招聘して作ったのが『イリュージョニスト』だってんなら、こちらの作品の方がよほどその「日本発オリジナル・ミュージカル」の名にふさわしいし、キャストやハコを変えて再演されたり海外に輸出されていくだけのポテンシャルがあるのではないかしらん、とちょっと考えてしまいました。日本発なんだから和物で、といういっくんの発想は正しいと思うし、こうなると漫画原作なのもイッツ・クールジャパンなわけでさ…城田くんといいいっくんといい、作り手側にも回りたがるような、そして日本のオリジナル・ミュージカルをもっともっと、と希望し実際に動いてくれる役者さんが出てきているのって、ホント素晴らしいことですよね。
今回は特に、小澤時史の音楽もよかったと思っていて、ミュージカルのキモはそりゃ作曲に決まってんだからここにこそ日本人作家を起用し育てていくべきだろう、と私はずっと考えていたんですけれど、なんでみんなすぐワイホに依頼、とかになっちゃうの?とずっと不満に思ってきたのです。ワイホもいいけど全部同じだし(オイ)、企画に合う、合わないはあるはずでしょ? 小澤さんは『アルカンシェル』や最近なら『にぎたつ』で名前を見ていましたが、これからもどんどん活躍してもらいたい人材です。プログラムにちゃんとインタビュー記事のページがあるのも素晴らしい。そうそう、今回のプログラムは、表紙に箔押しがあるとはいえあとはそんなにゴージャスな仕様ではないのだけれど、内容が充実しているので2,500円も許容しよう、と思えた逸品でした。それで言うとチケット代も、平日ソワレ16,500円、高い…!と当初は感じましたが、この舞台の大きさになら払ってもいい、と素直に思えたのでした。そういうのが見合うことって、大事だと思います。
というわけで助六いっくん、楽しそうで似合っていて本人もニンだと語っていて、芝居も歌も絶妙ですばらしかったです。
そしてゆんゆんがホントにいい…! 顔が小さくてタッパがあってスタイルが十頭身の美しさが生かされまくる着流し姿がたまらないし、泣きが入る歌声がホント八雲にピッタリだし、絶品でした。ベスト・アクトでは!? いやルパンとかも嫌いじゃなかったけれども!!
適度なBL感、ブロマンス感、萌え感もちょうどよかったと思いました。これ以上やるとあざといし下品だしそういう売りの作品ではないのでは、と感じそうなギリギリ感…
それは、みりおみよ吉の在り方のバランスの良さもあってのものだったかもしれません。原作よりも辰巳芸者であることが強調されて、あまりだらしない、しどけない感じが強すぎず、でも清潔な色気があり、ちょっと綺麗なだけの普通の、なんならちょっと弱い昭和の女…という感じをみりおが実に上手く演じていて、とても観やすかったと思いました。歌もキーが合っていて良くて、安心して聞けました。やはり技のある人ですよね…!
黒羽くんが華もあるしちょうど良くて、松田さんと与太郎の語りで進めていく構成も舞台として観やすく、原作漫画を知らない観客にも親切だったかと思いました。多少の改変や、次世代に関しての大幅なカットもありましたが、それも全体の観やすさに寄与していたと思います。どうしても舞台化される以上、原作よりはわかりやすくエンタメ化しないとならないと思うので、その塩梅がちょうどよかったと私には感じられたのです。八雲の、まあまあキリキリさせられる面もあった一代記から、落語に人生を捧げ狂わされ愛し守ろうと生き抜いた人々の群像劇、叙事詩にシフトして、昭和の年代についてもわかりやすくなり、華やかなミュージカルとして元禄感も出て、「落語となら心中してもいい」という台詞がきっちりあってタイトルの意味が通った、良き作品になっていたと思いました。特に落語を知らなくても大丈夫な作りになっていたのもよかったと思います。もちろん落語の内容にくわしい人のほうが「おっ」と思う箇所もあったのでしょうが…
いやホントお見それしました。最近だと『ベルばら』映画同様、まあまあ暴れる気で行ったので…(笑)嬉しい裏切り、意外性でした。
福岡の大楽まであと一か月ほど、さらに練り込まれてより良きものに進化していくことを、そして後続の日本発オリジナル・ミュージカルが生まれていくことを、その未来を、お祈りしています…!
…あとは…それはそれとしてイケコ案件についてはホントどーにかしてくれ…東宝としては事実無根だから完スルー、という判断なんだろうけれど、それでは疑惑は払拭されません。安心して観劇できないんだよ、そこをわかってくれよ……(ToT)
昭和五十年代初期。服役中に聴いた八代目有楽亭八雲(古川雄大)の「死神」に一目惚れし、押しかけるように弟子入りした強次(黒羽麻璃央)は、「与太郎」の名前をもらって意気揚々と落語の道に励むが、八雲の養女である小夏(水谷果穂)から衝撃的な言葉を聞かされる。いわく、小夏の父である助六(山崎育三郎)を、八雲が殺した、と。若き日の助六と八雲、ふたりの間に立つ女性・みよ吉(明日海りお)の因縁について、付き人の松田(金井勇太)が語り始める…
原作/雲田はるこ、脚本・演出/小池修一郎、企画/山崎育三郎、作曲・音楽監督/小澤時史。2010年に連載が開始され、16年アニメ化、18年ドラマ化もされた漫画を舞台化した、日本発オリジナル・ミュージカル。全2幕。
アニメ、ドラマは未見でしたが漫画自体は気になっていたので、舞台化が決まったときに借りて読みました。おもしろかったけれど、そんなに上手い、出来のいい作品ではない、とも思っちゃったかな…何が昭和で元禄で心中なのかよくわからなかったというか、上手く表現されていたとは思えなかったので。あんまりいい編集者がついていなかったのかもしれません。あと、これは偏見ですが、BL作家特有だと私が思っている、女性キャラクターの癖ツヨ描写が、小夏にしてもみよ吉にしてもあまりに目立っていて、より読みづらくさせていたと感じてしまったのでした…ただ、落語家の八雲の一代記として、天才の朋輩という存在に振り回されながらも長い一生を生き抜いた者の生き様を描いた作品としては、よかったな、と思っていました。
なので、ドラマ版で助六を演じたいっくんが(八雲は岡田将生、みよ吉は大政絢、小夏は成海璃子)舞台化、ミュージカル化を熱望して研音メンツ集めてイケコに企画を持ち込んだと聞いて、過去パートがメインないしすべてになるような構成になるならそれはこの物語として違うんじゃないかとか、そもそも落語を俳優がやるのってどんなにお稽古しても難しいんじゃないのかとか、てかミュージカルって…!とか、いろいろ心配していました実は。開幕してからも、濃い原作ファンからはあまりいい評判が聞こえてきていない気もしたので…ただ、そうしたファンがこだわっている点と自分のこだわりはおそらく違うだろうから、まあフラットに観てみよう、と席に着きました。
オーブなんてデカすぎるのでは…と案じていましたが、まず三階建てのセット(美術/松井るみ)がどかんと構えていて空間を見事に埋めていて、おおぉもしかして大丈夫そう…?となったのが第一印象。オケピはないものの録音のお囃子とともにチューニングの音が聞こえて、舞台奥か地下にオケ(指揮/御崎恵)がちゃんといるんだな、と思えたのもなんか心強かったです。
で、一曲目はオープニングだとして、でもちゃんとミュージカルしていて「なるほどね!」となりましたし、二曲目のアンサンブルのナンバーの感じは「いやコレは明治座では…」となったりもしたのですが、その後は舞台そのものにグイグイ引き込まれていきました。いやぁ、よくできていましたね!?
客入りも良かったし、この座組ならこれくらいデカいハコでないとファンが収まらないんだろうし、そのデカさに合わせた派手さ、エンタメ感の創出と、繊細かつ骨太な人間ドラマの芝居ががっちり成り立った、良き舞台作品に仕上がっていたと思いました。おもしろかった、よく出来ている、そしてちゃんとミュージカルだった…!! 感服しました。イケコの手腕ももちろんあるだろうけれど、いっくんの情熱や意向や、原作漫画家さんの協力なんかも大きかったのではないかしらん…?
比べて語ることではないのだけれど、ホリプロが日本発オリジナル・ミュージカルを、といって、でも海外スタッフを招聘して作ったのが『イリュージョニスト』だってんなら、こちらの作品の方がよほどその「日本発オリジナル・ミュージカル」の名にふさわしいし、キャストやハコを変えて再演されたり海外に輸出されていくだけのポテンシャルがあるのではないかしらん、とちょっと考えてしまいました。日本発なんだから和物で、といういっくんの発想は正しいと思うし、こうなると漫画原作なのもイッツ・クールジャパンなわけでさ…城田くんといいいっくんといい、作り手側にも回りたがるような、そして日本のオリジナル・ミュージカルをもっともっと、と希望し実際に動いてくれる役者さんが出てきているのって、ホント素晴らしいことですよね。
今回は特に、小澤時史の音楽もよかったと思っていて、ミュージカルのキモはそりゃ作曲に決まってんだからここにこそ日本人作家を起用し育てていくべきだろう、と私はずっと考えていたんですけれど、なんでみんなすぐワイホに依頼、とかになっちゃうの?とずっと不満に思ってきたのです。ワイホもいいけど全部同じだし(オイ)、企画に合う、合わないはあるはずでしょ? 小澤さんは『アルカンシェル』や最近なら『にぎたつ』で名前を見ていましたが、これからもどんどん活躍してもらいたい人材です。プログラムにちゃんとインタビュー記事のページがあるのも素晴らしい。そうそう、今回のプログラムは、表紙に箔押しがあるとはいえあとはそんなにゴージャスな仕様ではないのだけれど、内容が充実しているので2,500円も許容しよう、と思えた逸品でした。それで言うとチケット代も、平日ソワレ16,500円、高い…!と当初は感じましたが、この舞台の大きさになら払ってもいい、と素直に思えたのでした。そういうのが見合うことって、大事だと思います。
というわけで助六いっくん、楽しそうで似合っていて本人もニンだと語っていて、芝居も歌も絶妙ですばらしかったです。
そしてゆんゆんがホントにいい…! 顔が小さくてタッパがあってスタイルが十頭身の美しさが生かされまくる着流し姿がたまらないし、泣きが入る歌声がホント八雲にピッタリだし、絶品でした。ベスト・アクトでは!? いやルパンとかも嫌いじゃなかったけれども!!
適度なBL感、ブロマンス感、萌え感もちょうどよかったと思いました。これ以上やるとあざといし下品だしそういう売りの作品ではないのでは、と感じそうなギリギリ感…
それは、みりおみよ吉の在り方のバランスの良さもあってのものだったかもしれません。原作よりも辰巳芸者であることが強調されて、あまりだらしない、しどけない感じが強すぎず、でも清潔な色気があり、ちょっと綺麗なだけの普通の、なんならちょっと弱い昭和の女…という感じをみりおが実に上手く演じていて、とても観やすかったと思いました。歌もキーが合っていて良くて、安心して聞けました。やはり技のある人ですよね…!
黒羽くんが華もあるしちょうど良くて、松田さんと与太郎の語りで進めていく構成も舞台として観やすく、原作漫画を知らない観客にも親切だったかと思いました。多少の改変や、次世代に関しての大幅なカットもありましたが、それも全体の観やすさに寄与していたと思います。どうしても舞台化される以上、原作よりはわかりやすくエンタメ化しないとならないと思うので、その塩梅がちょうどよかったと私には感じられたのです。八雲の、まあまあキリキリさせられる面もあった一代記から、落語に人生を捧げ狂わされ愛し守ろうと生き抜いた人々の群像劇、叙事詩にシフトして、昭和の年代についてもわかりやすくなり、華やかなミュージカルとして元禄感も出て、「落語となら心中してもいい」という台詞がきっちりあってタイトルの意味が通った、良き作品になっていたと思いました。特に落語を知らなくても大丈夫な作りになっていたのもよかったと思います。もちろん落語の内容にくわしい人のほうが「おっ」と思う箇所もあったのでしょうが…
いやホントお見それしました。最近だと『ベルばら』映画同様、まあまあ暴れる気で行ったので…(笑)嬉しい裏切り、意外性でした。
福岡の大楽まであと一か月ほど、さらに練り込まれてより良きものに進化していくことを、そして後続の日本発オリジナル・ミュージカルが生まれていくことを、その未来を、お祈りしています…!
…あとは…それはそれとしてイケコ案件についてはホントどーにかしてくれ…東宝としては事実無根だから完スルー、という判断なんだろうけれど、それでは疑惑は払拭されません。安心して観劇できないんだよ、そこをわかってくれよ……(ToT)
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