駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

レニングラード国立バレエ『バヤデルカ』

2010年02月10日 | 観劇記/タイトルは行
 東京文化会館、2008年1月10日ソワレ。

 戦死ソロル(イーゴリ・コルプ)が虎刈りから帰ってきて、苦行僧のマグダヴィア(ラシッド・マミン)に恋人である舞姫ニキヤ(アナスタシア・コレゴワ)への伝言を頼む。寺院から大僧正(マラト・シェミウノフ)や舞姫たちが出てきて、聖なる火をたたえる儀式が行われ、ニキヤが踊りを披露する。大僧正はニキヤを見初めるが…作曲/L・ミンクス、台本/M・プティパ、S・クデホフ、振付/M・プティパ、演出・改定振付/N・ボヤルチコフ。ガムザッティはエレーナ・エフセーエワ。

 2004年に同じバレエ団でこの演目を観たときの好印象がたいそう頭に残っていて、楽しみにしていたのですが…「さてどこにどう感動したんだっけ…」と思いながらの観劇になってしまいました。記憶って難しい…

 今回感じたのは、このお話のオチは、ソロルが一度は神に誓ったニキヤとの愛を、ガムザッティとの政略結婚で裏切ったことで、怒った神が人類に怒りの鉄槌を下すべく地震を起こし、神殿は倒れ人々は死す…ということなのですが、どうしても「神様像」が欧米人とは違う日本人の目からすると、神殿を崩したのは裏切られたニキヤの呪いのためのようにも見え、またソロルたち人々は一応は逃れられて、倒れた神殿の中に消えていったのはニキヤの悲しい亡霊のみ…というように見えました。
 前回の観劇で疑問に感じた、ガムザッティが最後にソロルを拒絶するというくだりは今回はなかったようで、むしろガムザッティに渡した花束にニキヤの影を感じたソロルが最後の最後に後悔の念に捉われてガムザッティを拒絶するくだりがありました。これはわかりやすい。しかし時は戻せない。ソロルの心がもしかしたらガムザッティに傾いてしまったとしても、ニキヤがそれでもソロルを思い切れなかったことも、ソロルとニキヤの関係を知ったガムザッティがそれでも自分の恋心を押し留められず結婚話を進めたことも、みんなみんな仕方がない。これはそういうお話なのかな、と思いました。
 今回も、ゲスト・ソリストが踊りタイトルロールであるニキヤより、やっぱりキャラクターとして可愛らしいのはガムザッティかなと思ってしまいました。
 ソロルも、単なる浮気者には見えないようにきちんと演じられていて好感。

 しかし、婚約式でも影の国でも、いわゆる普通のチュチュを出すのって、ちょっと物語世界を壊しませんかね…全部、謎のインドふう(笑)の衣装で通せばいいのに…
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ウクライナ国立バレエ『ライモンダ』

2010年02月10日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 オーチャードホール、2007年12月5日ソワレ。

 中世。若き伯爵令嬢ライモンダ・デ・ドリス(田北志のぶ)の家の守護神である白い貴婦人(ユリヤ・トランダシル)が月明かりの中、城に現れる。彼女は城の主が困難に出会うときに姿を現し、危険や過ちから守るのだ。ライモンダの誕生日に、婚約者の騎士ジャン・ド・ブリエンヌ(セルギイ・シドルスキー)がやってきて祝い、出征のために別れを告げる。その後突然現れたサラセンの騎士アブデラフマン(イーゴリ・コルプ)はライモンダの美しさに心奪われるが…作曲/アレクサンドル・グラズノフ、台本/ヴィクトル・ヤレメンコ、ユーリー・スタニシェフスキー、原振付/マリウス・プティパ、振付・演出/ヴィクトル・ヤレメンコ。1898年初演。プロローグ付き全2幕。

 ゲスト・ソリストがルジマトフからコルプに変更になった公演で、さらに当日タイトルロールがエレーナ・フィリピエワから変わっていました。まあいいんですけれどね。

 コルプはとても手が大きいのが印象的で、悪役であろうアブデラフマンをそれはそれは楽しそうにのびのびと踊っていて、観ていて気持ちがいいくらいでした。しかし腰に悪そうな振付だったなあ。それはともかく、出てくると場をさらいましたね。

 そんなわけで初めて観た演目なのですが、中世の騎士伝説をもとにしているようなお話だから仕方がないのでしょうが、ストーリーとしては破綻しているのではないでしょうかね…欧米のアラブ差別とカって本当に腹立たしいものがありますよね。

 アブデラフマンを完全に悪役にしたいのなら、ライモンダは拒んで拒んで拒み続けなければなりません。ちらりとでも気を惹かれちゃダメなんです。
 ライモンダの気持ちがちょっとでも動いてしまっていたら、ジャンとアブデラフマンが決闘になりジャンがアブデラフマンを刺し殺す、という展開はライモンダとしてはショックで、ジャンの活躍が万々歳にならないでしょ。
 ライモンダはアブデラフマンの死を悲しみ、ジャンを拒絶するのに、白い貴婦人が魔法でライモンダからアブデラフマンの記憶を取り上げ、ジャンとめでたく結婚式…なんて、全然ハッピーエンドじゃありませんよ!
 アブデラフマンの犬死がかわいそうすぎですよ。

 だいたいジャンってただ王子様然としているだけで、ライモンダにものすごい愛情を示すとか、騎士としていいところを見せるとかの活躍シーンが全然ない(決闘に勝つのも、白い貴婦人の魔法の助けがあったからだし)。要するに魅力を発揮するシーンがないため、どこがいいのかわからない、ただの美男子になっているんです。

 だったらアブデラフマンの方が全然いい男に見えますよ。ひと目惚れというのはイージーでも、思いのたけを踊ってくれ、貢ぎ物を捧げてくれ、愛を示してくれるんですよ? ヒロインをこれになびかず、決められた正しい婚約者を選ぶきちんとした女にしたいのなら、演出でそう見えるようにしなきゃダメですよ。今のままではダメだと思います。

 私は同伴知人とずっと「アブデラフマンがかわいそう、あの白い貴婦人は実は魔女だ」と言い合っていました。
 パンフレットの解説によれば、白い貴婦人やライモンダの叔母に関していくつもの異なる演出があるなどしているようですが、つまりそれくらい問題がある台本だということですよね…でも問題なのは白い貴婦人じゃないよ、ライモンダのあり方だよ。ラブストーリーというのはヒロインの心理をていねいに追って観客に感情移入させること以外に感動させる道はないんですよ。

 バレエとしては非常に典型的で、様式美って美しい、と思いましたし、結婚式のディベルティスマンなども豪華でよかったです。音楽も華やかでよかった。

 ライモンダの友人ベルナールとしとて日本人の菅野英男というダンサーがキャスティングされていました。テクニックが性格で端整な踊りに好感を持ちました。
 ライモンダ役の田北志のぶは、脚は気持ちいいほどよく上がってよかったのですが、アジア人らしく顔が大きくて平板なのと、メイクが良くなかったのが残念だったかなあと思いました。急な代役だったかと思うのですが、緊張しつつも健闘していたと思います。お疲れ様でした。
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レニングラード国立歌劇場オペラ『カルメン』

2010年02月10日 | 観劇記/タイトルか行
 東京文化会館、2007年12月3日ソワレ。

 1820年ごろのスペイン、セビーリャ。衛兵所に駐留する兵士たちが、タバコ工場の女工たちを待ち伏せしている。そこへ純真な村娘ミカエラ(ユリア・シモノワ)が、伍長ドン・ホセ(ミハイル・マカロフ)に故郷の母親からの手紙を届けにやってくる。正午の鐘が鳴り、仕事を終えた女工たちが工場から出てくる。兵士たちの人気者で奔放なジプシー女カルメン(ナタリア・ヤルホワ)は、女工に関心を示さない真面目なドン・ホセに一輪の赤い花を投げつける…作曲/ジョルジュ・ビゼー、原作/プロスペル・メリメ、台本/アンリ・メイヤック、リュドヴィック・アレヴィ、演出/スタニスラフ・ガウダシンスキー。1875年初演。全2幕4場。

 とてもおもしろかったです。CDで聴いていたときには、わりと台詞の多い芝居に聞こえたので、若干散漫な印象を持っていたのですが、実際に舞台で観ると、有名な曲ばかりが並ぶいたって派手な芝居に見えました。

 カルメンは、どうしてもバレエ団のダンサーと並ぶと美しさでは見劣りがしますが、押し出しのいいあくの強いいい女といった感じ。声はちょっときれいすぎるかな?という気もしましたが、いい感じでした。
 「白のヒロイン」ミカエラはお衣装も清楚にブルーでカルメンとは対照的。アリアなど聞かせますし、こちらもいい役ですね。
 花形闘牛士エスカミーリョはアレクサンドル・クズネツォフ。歌はイマイチでしたが、背が高くて版酒でいかにもという感じでこれまたよかったです。
 となると問題はドン・ホセですよ…いや歌はよかった。見栄えも若干ずんぐりむっくりでしたがまあまあ見られました。
 問題はやはりキャラクターというか演出というかで…どうしても、情けない、かっちょ悪い男に見えてしまうのは、お話としてもあまりよくないんじゃないですかねえ…

 バレエの『白鳥の湖』のジークフリートや『ジゼル』のアルブレヒトなんかもそうなんですが、浮気というか心変わりが起きる男性の場合、それを情けなくしょうもなくないように見せられると、ドラマは締まると思うのですねえ。
 生真面目で、誠実で、だからこそ誘惑に屈してしまう、あとは周りが見えなくなってしまう…というふうにはできると思うんだけれどなあ。
 その方がカルメンの性悪さが際立つわけで、彼女が殺されるラストシーンに必然性が増すと思うのですよね。

 ちなみに今回の演出では、闘牛場からわあわあ歓声が聞こえる中での、音楽的にはなんのタメも何もないところであえて、ふっと、ホセがカルメンを刺しました。同伴した知人は
「いつ殺されたのかわかりづらかった」
 と言っていましたが、確かに「あえて」の演出なんでしょうが、クローズアップとかが使える映像でだったらなかなか洒落ていたかもしれないけれどなあ…とはちょっと思いました。

 でも全然長く感じない3時間でした。「世界で最も愛され、上演回数の多いオペラのひとつ」と言われているのは、わかる気がしました。
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『レインマン』

2010年02月10日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 PARCO劇場、2007年11月6日ソワレ。

 再演は、兄弟のキャストは同じで、スザンナが紺野まひる、精神科医が佐藤誓。

 わかっているのに、また同じところで泣きました…

 ヒロインは初演の方が女っぽくてよかった。
 まひるちゃんは元宝塚歌劇団娘役トップスターですが、さばさばしすぎていて色気が足りなかったと思う。

 それからラストシーン、赤ん坊が入った乳母車を押しているんですから、もっとゆっくり歩いてきてください。これは役者の問題じゃなくて、演出家の指導の問題かもしれませんけれど。あまりにざかざか早く歩いてくるので引きました、私…

 カーテンコールはやっと見られました。明転のあと、袖から出てきたキャストがお辞儀をする、好ましいパターン。
 最初の数回のコールのうちは橋爪さんがまだレイモンドモードなのですが、そのうち素に戻り、まひるちゃんの肩を抱いて退場する桔平さんを見てくやしがり、佐藤さんと男ふたりでさびしく肩を寄せ合って退場する…というのは笑いを誘いました。

 あいかわらず「何故、今」というのはあるのかもしれませんが、いい舞台であることは間違いがないかな、と思ったり、します。
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