駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

上原きみ子『マリーベル』

2010年02月19日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名あ行
 講談社漫画文庫、全5巻。

 18世紀末、イギリス・ドーバーにフランス人の幼い兄妹が置き去りにされた。兄のアントワーヌは失踪、残された妹のマリーベルはランバート公爵家に保護された。やがてマリーベルと跡取り息子のロベールとの間に幼い愛が生まれるが…波乱に満ちたヒロインの愛と青春を描いた往年の名作。

 小学生の頃、フラワーコミックス版で読んだとは思うのですが、まったく記憶にありません。雑誌連載に一喜一憂した世代でないことは確かなのですが。ともかく懐かしくて友人に『ロリィの青春』『炎のロマンス』と借りて読み、ついにこの作品は、自分のために買い直してしまいました。
 文庫版のカバー袖にコメントがあって、編集者に痛快歴史時代劇『紅はこべ』を読まされてこの作品を着想したとありますが、す、すごすぎます。
 私はこの小説は読んだことがなくて、宝塚歌劇で舞台化したものは観ているんですが、内容はあまり覚えていません。この漫画では義賊「青いバラ」が出てくるのは物語の終盤で、お家騒動で捨てられたヒロインから始まって身分違いの初恋、女優になってライバルと対決、フランス革命に巻き込まれ、とうねりまくる大ロマンスになっています。

 解説を寄せている脚本家の小松江里子も証言していますが、当時リアルタイムで読んでいた少女たちは本当に熱狂し、振り回されていたことでしょう。ダイナミックで、ハラハラドキドキで、話がどこへ行くかわからなくて。逆に言えば、物語の完成度としてはあまり高くないのかもしれません。けれど決してストーリーが崩壊しているということはないし、キャラクターたちは魅力的だし、やはり一級品と言っていいでしょう。

 物語の完成度の弱さというのは、巻末のロングインタビューで作者も言っていますが、後半のロベールの弱さに尽きるんですよね。
 あるいはジュリアンの、と言ってもいいのだけれど。
 レアンドルはたしかにすばらしいキャラクターでした。彼には彼の生き方と愛し方とがちゃんとありました。マリーベルに対しても最初っからぱっと惚れちゃったりしていないところがまずいい。そして何より、同情や責任感よりも、マリーベルの演劇への情熱と才能を認めて、彼女を導こうとしたところがいいのです。愛情は地に足つけて、しのびやかに育まれていた感じで。マリーベルの方がむしろ浮ついて先走っているくらいですものね。そして愛と信念を貫いて、舞台の上で死んでいった。すごい生き方でした。
 ひるがえって、まずジュリアンが弱かった。ロベールと差別化されていません。髪型だって、最初はロベールよりカールがくるんくるんだったのが後では逆にストレート気味になったりと混乱していて、これは象徴的です。性格の特徴や生き方の信念もあいまいでした。そのあたりはフランソワの方が立っていたくらいです(フランソワの無残な殺され方は、私、納得いかないわー。メインキャラクターの死に方じゃないよぉ)。物語にジャンヌとの女優対決や革命が絡んできだして、マリーベルの愛の形が見えづらいせいもあるんですけれどね。本当はこのあたりでロベールとジュリアンの違いをもっと描いて、マリーベルはやっぱりロベールが忘れられないんだけれど、目の前の幸せを取ってしまおうとする、でもジュリアンはそれではやっぱり嫌で身を引くように異国へ旅立つ、という感じを強く色濃く出すべきだったんでしょう。で、ロベールと再会するのだけれど、状況が変わっていて…とくればよりドラマティックになったのでしょうが、革命騒ぎが意外と忙しくて、愛情の行き違いや誤解や嫉妬というのが際立たなかったんですねえ。これまた作者が言うように、サン・ジュストとジャンヌの方に力が入ってしまった、というのもあるのでしょうが。
 最後にジュリアンがロベールの身代わりになるというのも、ふたりのキャラクターに実は差があまりないから、もりあがりきらないんです。
 惜しい、実に惜しい。
 ロベールがレアンドルを越えられなかった悲劇、というのはこういうことだと思います。だから物語としても、やや完成度に欠けて見えてしまう訳です。

 でも、おもしろいんですけれどね。結局は漫画はそれがすべてですけれどね。

 イントロは『メリーベルと銀のばら』かと思いましたよ。クラレンス公(すっごい好き)はロスマリネだし、サン・ジュストは摩利だし、ジャンヌは姫川亜弓だし??? いやあ、すごい漫画だなあ。

 そして、やはり印象深かったのがサン・ジュストとジャンヌの愛です。
 兄妹ったって、一緒に育ってなければ他人ですよね。このふたりがヘンに「神に背いた」とか「いけないことをしてしまった」とか言い出さなくてうれしかったです(まあジャンヌの方は知らないまま死ぬのだけれど)。
 思えば、珍しくそういう視点が出てこない作品ですね。近親相姦が罪だろうがなんだろうが、この場合は、「二人を裁くものはただ神のみ…!!」(『ベルサイユのばら』より)ってなもんです。いやあ、燃える。
 やはり、少女漫画の古典といっていい作品でしょう。

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槇村さとる『勝手にしやがれ!』

2010年02月19日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名ま行
 集英社文庫。

 師の言うとおりにピアノを弾くことに疑問を感じた温子は、コンクールを逃げ出して原宿のホコ天に迷い込む。そこには素人バンドたちのにぎやかな音楽があった…

 自分が楽器ができない分、音楽にものすごく興味があって、このジャンルの漫画も好んで読むのだけれど、この作品は音楽以前に主人公に魅力がないところが最大の欠点でしょう。作者が感情移入しきれていないんでしょうか。
 外見も平凡で好感持てないし、表情に生彩がない。
 髪を切ってからは豹変しすぎで人格が統一されていない。読むのがつらいです。

 モチーフとしては、音楽的には合うのに性格的には合わないとか、人間的には嫌いだけれど音楽的にはすごく好きでそれが恋に変わるときのためらいとか、おもしろいことをやりかけているだけに、中途半端で残念です。
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槇村さとる『まみあな四重奏団』

2010年02月19日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名ま行
 集英社文庫。

 ヴァイオリニストの父とピアニストの母を持つ小泉一家の四兄妹。末っ子の花梨は落ちこぼれ…

 純粋で天然呆けでちょっとドジででもひたむきで、という主人公を描く才能はこの人にはあまりないんじゃないでしょうか。好感が持てるように描けていないと思います。
 和音の性格もめちゃくちゃだし。
 今は技術がなくても一家で一番耳が良くて優しい音を出す、とかおもしろいモチーフがたくさんあるんだけれど、これまた中途半端なんですよ。煮詰めていないというか、描き急いでしまったというか。あんまり乱暴な仕事はしてほしくないですね。
 なのに音楽ものが好きで、手放せないのが悔しい…
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