集英社ヤングユーコミックスワイド版コーラスシリーズ上下巻
新人女優・三神妃子は大物俳優・三神力の娘である。「親の七光り」という言葉にはやや過敏だ。妃子は新人賞を受賞したブルークラウン賞贈呈式会場で、優秀監督賞を受賞した乃木サンジの企画を持ち込まれる。共演は山本燿に天水キリ。若き実力者揃いである。妃子は相手役の新人に付き人の生田理一を推薦するが…四人の心を映し出すカレイドスコープ。
雑誌連載時に『+α』の方は途中からでしたがなんとなく読んではいて、でも所々よくわからないのは最初の方を知らないせいかとばかり思っていたのですが…こんな構成になっていたとはねええ!
なんて鮮やかなことでしょう!!
劇中劇を独立した作品にするような企画は時々見掛けますが、ドラマシリーズ『α』と、それを演じる役者たちを描いた『+α』がコミックスでは交互に収録されて、その形で読まれて初めてひつとの形になるという…いや、美しい。
ただ、雑誌に『α』として連載されていたときは、読者はどう思っていたのでしょうか…あの扉絵に入っている「CAST」という文字は雑誌掲載時も入っていたのかしらん? 入っていたとしてもその時点ではなんのことやらわからなかったでしょうが…不思議、不思議。
ドラマシリーズの作品はどれもキュートでラブリーです。特にトップを飾る『α♯1』は、この作者がこんなバリバリの異世界ものを描けるなんて、と個人的にかなりびっくりしました。ところでここのアサダとローズウッドって別に恋仲ではなかったんですよね? 同郷で良き友人で、手っ取り早く考えを伝えるために手をつないでいたのであり、ローズウッドが身を引いたのでもアサダが心変わりしたのでもない…と私は解釈したのですが。アサダのサクラへのこういう嘘の愛想尽かしのシチュエーション、こういうのが私はまた好きで萌え萌えでした。しかしキリはわかってこの役回りに徹していたんでしょうけれどいい面の皮でしたね。まあ異邦人とはこうしたものか…ラストのサクラが涙ぐむ様子は『α♯6』のラストでミノルが涙ぐむ様子とちょうど対になって見えますが、偶然でしょうか?
しかしこの作者は本当に、こういうちょっと難しいヒロインを描くのが上手いなああ。大物俳優の一人娘で、母亡き後15年間男手ひとつで自分を育ててくれた父を尊敬していて、美人で色白でおっとりしたお嬢さんふうで、でもコンプレックスの固まりで、でも愛想笑いしてカオ作って生きている、女の子。普通に描いたら絶対嫌味な悪役キャラか嫌われるぶりっ子いじめられ役なのに、ちゃんと主人公になっているんですよね。『A-Girl』のヒロインなんかも難しいけど妃子も難しいですよ。でも、ちゃんと共感できる、好感が持てる。そういうふうに描いている。すごい。
だからこそ、もうちょっとだけ、私にはこの作品に対して欲があります。このままだとちょっと、この構成のためだけの物語に見えてしまう気が私にはするのです。最後に上梓された『α』写真集そのものを表している作品だとしても、もう一歩だけ、妃子のドラマを見せてほしかったのです。
キリと燿が若かりしころ結婚した、あまり世に知られていない夫婦だということはわかった。そこにまだ男女の愛情はあるのか。ふたりの結婚の事実を知って一度はメンバーを外れた妃子は、では戻ってきて、理一のことが
「少し見えてきた」
と言うが、それは恋なのか。妃子がキリに
「天水さんを好きなんです」
というのは「厳密に」はどういう意味なのか。優れた役者同士が実生活で恋愛することよりも役を演じることで相手のあらゆる面と「恋愛」することを選ぶ、というのはなかなかスリリングだけれど、これって本当にそういうことを意味しているのか。妃子って本当に天才的ないい役者なのか。要するにラストシーンの状態で妃子は幸せなのかどうか、それが私は知りたい。私は少女漫画はやはりヒロインのものなのではないだろうかと思ってしまうアナクロな人間なのですよ。四人のこの関係の一瞬を描きたかっただけ、と言われてしまうと、私は寂しいのですね。出もまあ、そういうこととは別に、とにかくよくできたすごい作品ではあるのですけれど。
ところでコミックスの装丁にはもう少しケレン味があってもよかったのでは…せっかくの上下巻、ベタだけど赤と黒にするとか金と銀にするとか、何かもうちょっとわかり易いコンセプトがあってよかったと思います。(2003.4.8)
新人女優・三神妃子は大物俳優・三神力の娘である。「親の七光り」という言葉にはやや過敏だ。妃子は新人賞を受賞したブルークラウン賞贈呈式会場で、優秀監督賞を受賞した乃木サンジの企画を持ち込まれる。共演は山本燿に天水キリ。若き実力者揃いである。妃子は相手役の新人に付き人の生田理一を推薦するが…四人の心を映し出すカレイドスコープ。
雑誌連載時に『+α』の方は途中からでしたがなんとなく読んではいて、でも所々よくわからないのは最初の方を知らないせいかとばかり思っていたのですが…こんな構成になっていたとはねええ!
なんて鮮やかなことでしょう!!
劇中劇を独立した作品にするような企画は時々見掛けますが、ドラマシリーズ『α』と、それを演じる役者たちを描いた『+α』がコミックスでは交互に収録されて、その形で読まれて初めてひつとの形になるという…いや、美しい。
ただ、雑誌に『α』として連載されていたときは、読者はどう思っていたのでしょうか…あの扉絵に入っている「CAST」という文字は雑誌掲載時も入っていたのかしらん? 入っていたとしてもその時点ではなんのことやらわからなかったでしょうが…不思議、不思議。
ドラマシリーズの作品はどれもキュートでラブリーです。特にトップを飾る『α♯1』は、この作者がこんなバリバリの異世界ものを描けるなんて、と個人的にかなりびっくりしました。ところでここのアサダとローズウッドって別に恋仲ではなかったんですよね? 同郷で良き友人で、手っ取り早く考えを伝えるために手をつないでいたのであり、ローズウッドが身を引いたのでもアサダが心変わりしたのでもない…と私は解釈したのですが。アサダのサクラへのこういう嘘の愛想尽かしのシチュエーション、こういうのが私はまた好きで萌え萌えでした。しかしキリはわかってこの役回りに徹していたんでしょうけれどいい面の皮でしたね。まあ異邦人とはこうしたものか…ラストのサクラが涙ぐむ様子は『α♯6』のラストでミノルが涙ぐむ様子とちょうど対になって見えますが、偶然でしょうか?
しかしこの作者は本当に、こういうちょっと難しいヒロインを描くのが上手いなああ。大物俳優の一人娘で、母亡き後15年間男手ひとつで自分を育ててくれた父を尊敬していて、美人で色白でおっとりしたお嬢さんふうで、でもコンプレックスの固まりで、でも愛想笑いしてカオ作って生きている、女の子。普通に描いたら絶対嫌味な悪役キャラか嫌われるぶりっ子いじめられ役なのに、ちゃんと主人公になっているんですよね。『A-Girl』のヒロインなんかも難しいけど妃子も難しいですよ。でも、ちゃんと共感できる、好感が持てる。そういうふうに描いている。すごい。
だからこそ、もうちょっとだけ、私にはこの作品に対して欲があります。このままだとちょっと、この構成のためだけの物語に見えてしまう気が私にはするのです。最後に上梓された『α』写真集そのものを表している作品だとしても、もう一歩だけ、妃子のドラマを見せてほしかったのです。
キリと燿が若かりしころ結婚した、あまり世に知られていない夫婦だということはわかった。そこにまだ男女の愛情はあるのか。ふたりの結婚の事実を知って一度はメンバーを外れた妃子は、では戻ってきて、理一のことが
「少し見えてきた」
と言うが、それは恋なのか。妃子がキリに
「天水さんを好きなんです」
というのは「厳密に」はどういう意味なのか。優れた役者同士が実生活で恋愛することよりも役を演じることで相手のあらゆる面と「恋愛」することを選ぶ、というのはなかなかスリリングだけれど、これって本当にそういうことを意味しているのか。妃子って本当に天才的ないい役者なのか。要するにラストシーンの状態で妃子は幸せなのかどうか、それが私は知りたい。私は少女漫画はやはりヒロインのものなのではないだろうかと思ってしまうアナクロな人間なのですよ。四人のこの関係の一瞬を描きたかっただけ、と言われてしまうと、私は寂しいのですね。出もまあ、そういうこととは別に、とにかくよくできたすごい作品ではあるのですけれど。
ところでコミックスの装丁にはもう少しケレン味があってもよかったのでは…せっかくの上下巻、ベタだけど赤と黒にするとか金と銀にするとか、何かもうちょっとわかり易いコンセプトがあってよかったと思います。(2003.4.8)