駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『漂う電球』

2010年01月20日 | 観劇記/タイトルた行
 本多劇場、2006年10月5日ソワレ。

 1945年、ブルックリン。ポール(岡田義徳)はIQは高いが人見知りで吃音があり、引きこもって手品の練習ばかりをしている青年。その弟スティーブ(高橋一生)は不良仲間との遊びに忙しい。父親のマックス(伊藤正之)はウェイターをしているが、稼ぎを若い愛人のベティ(町田マリー)につぎこんでいて、母親のイーニッド(広岡由里子)の心労は絶えない。だがある日、ポールの手品を芸能界につてを持つジェリー(渡辺いっけい)に披露するチャンスがやってきて…作/ウディ・アレン、訳/鈴木小百合、演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ。2001年にケラと広岡が結成した演劇ユニットオリガト・プラスティコのプロデュース公演第三弾。

 ウディ・アレン作品をほとんど知りませんし、似ていると言われるテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』も知りません。第一幕では一瞬寝かかりましたし、確かに地味で、「笑いも救いもない戯曲」という批評は当たっていると思いました。

 もしかしたら、ラストシーン、ステッキの花を見つめるイーニッドが、もう少しだけ悲しそうでなく見えていたら、ほんのひととき夢を見られたことへの幸福感を噛み締める様子があったら、もっとちがって見えたかもしれません。それとも、イーニッドが否応無しにある現実に絶望を感じている傍らで、あくことなく手品の練習を続けるポールには確かに奇跡のような、本当の魔法のような何かが訪れていた…というやや皮肉っぽい状況をこそ描きたかったのでしょうか。その方ガウディ・アレンっぽい解釈なのかなあ。

 ともあれなんとなく落ち着きの悪い、物悲しげな、でもしみじみとしたあたたかい何かがあるような、不思議な…読後感に当たる言葉はなんなんだ、とにかくそんな感じでした。
 しかしこれは広岡由里子のプロデュース公演でもあるのだし、もっとイーニッドをヒロインとして立てるとまた見やすいのかもしれません。どうもポールがフィーチャーされて見えたので。
 しかしツボは実はスティーブです…優秀で、でも一風変わっていて、手がかかり、母親の関心を一身に集めてしまっている兄に対して、普通にいい子なのに居場所がなく、グレて見せるしかない次男坊…のナイーブさは完璧でした。くうう。
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第11回世界バレエフェスティバル・プログラムB

2010年01月20日 | 観劇記/タイトルさ行
 東京文化会館、2006年8月8日ソワレ。

 幕開きはヴィエングセイ・ヴァルデスとロメル・フロメタの『ディアナとアクティオン』(振付/アグリッピーナ・ワガノワ、音楽/チェーザレ・プーニ)。男性が「ローマの筋骨隆々の若者っ!」という感じでした。
 続く『リーズの結婚』(振付/フレデリック・アシュトン、音楽/フェルディナン・エロール)も全幕を観たことがまだないのですが、カジュアルでいい感じでした。エレーナ・テンチコワとフィリップ・バランキエヴィッチ。
 『幻想-「白鳥の湖」のように』(振付/ノイマイヤー、音楽/チャイコフスキー)はちょっと期待していたなんですが、そんなに感銘を受けなかったような…? ブーローニュとリアブコ。
 ドヴォロヴェンコとカレーニョの『海賊』(振付/プティパ、音楽/リッカルド・ドリゴ)も今ひとつの出来かと。
 ラヴロフスキー振付の『ロミジュリ』(マイヤ・マッカテリとデヴィッド・マッカテリ)は素敵でした。私はバルコニー・シーンはこちらをよく観ている気がしましたが…?
 ステパネンコとメルクーリエフの『カルメン』(振付/アルベルト・アロンソ、音楽/ロディオン・シチェドリン)はちょっとヒット。カルメンもいいけれど、ドン・ホセが本当に繊細でナイーブで、ああ、カルメンにだまされて破滅させられるのも無理はない、と胸痛くさせられました。
 セミオノワとフォーゲルのブラックスワンも今ひとつ。こんなにメジャーなパ・ド・ドゥなのに~。
 再び『椿姫』、今度は第二幕のパ・ド・ドゥをオレリー・デュポンとマニュエル・ルグリで。今さらのルグリですが、男性にしては脚が細くて繊細で美しくて、またまた涙しそうになってしまいました…
 ディアナ・ヴィシニョーワとウラジーミル・マラーホフの『ジュエルズ』(振付/ジョージ・バランシン、音楽/チャイコフスキー)よりダイヤモンド、Aプロにもありましたが、私には振付が単調に見えました。せっかくのマラーホフが…くうう…やはりAプロのデ・グリューが観たかった…
 もうひとつ『椿姫』第三幕のパ・ド・ドゥをシルヴィ・ギエムとニコラ・ル・リッシュで。美しくて泣けます…
 『三人姉妹』(振付/ケネス・マクミラン、音楽/チャイコフスキー)はロシア文学の香りで素敵。タマラ・ロホとイナキ・ウルレザーガ。
 アレッサンドラ・フェリとロバート・テューズリーの『マノン』(振付/マクミラン、音楽/ジュール・マスネ)は沼地のパ・ド・ドゥ。くたくたに死にかけているマノンを演じるのも、ぼろぼろになりかけているデ・グリューを演じるのも、きっとものすごくつらく大変で、だからこそ美しいのでしょう…涙。
 トリはレティシア・オリヴェイラとズデネク・コンヴァリーナの『ドン・キホーテ』(振付/プティパ、音楽/レオン・ミンクス)でしたが、若いのかフラフラしていてハラハラしたぞー。今回はブラックスワンや海賊やドンキといったベタなパ・ド・ドゥが冴えなかったのが残念でした。
 それとこの日は床がずいぶん鳴ったなー。ポアントがこすれたというか。Aプロを観た日はそんなことはなかったようでしたが…ナゼ?
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上海シティダンスカンパニー『アクロバティック 白鳥の湖』

2010年01月20日 | 観劇記/タイトルあ行
 オーチャードホール、2006年8月4日ソワレ。

 はるか東方の地、絵のように美しい湖のほとりで、美しい娘(ウ・ジェンダン)が花を摘んでいた。そこへ突然大きな黒鷹(ジン・ウェイイ)が現れて、娘を捉えて天空へ連れ去り、呪文を唱えて白鳥の姿に変えてしまう。一方ヨーロッパのとある国の王子(ウェイ・バォホァ)は、夢の中で白鳥の姿をした娘に出会い、彼女を妃にしようと旅に出るが…作曲/チャイコフスキー、演出・振付/ジャオ・ミン、全2幕。バレエと中国雑技を融合しためくるめく舞台。

 観られてよかった!
 今年一番の収穫となるかもしれません。
 だってこの公演は、主演のふたりが生きている間、というか体の動くあと長くて数年しか観られない、めちゃくちゃ貴重なものなのでは!?
 もう大興奮して、泣いてしまいました。最初は客席にも失笑が漏れていたくらいだったのにねえ…カーテンコールとはいえ、よもやチャイコで手拍子を打つ日が来るとは思ってもみませんでしたよ…

 バレエにはもちろんアクロバティックな要素がありますが、ただのアクロバティックになってしまわないよう、常に叙情性とかを大事にしてダンサーは日々踊っていると思うのですが、そこへわざわざ「アクロバティック」と銘打つとは何事?と、やや懐疑的でいたんですけれどねえ…

 セット美術は学芸会ギリギリ、最初にでっかいスワンの置物?が登場したときにはみんなあきれて思わず笑ったものです。
 そこへオデットというか美しい娘が現れますが、パントマイムも正しいバレエのものではないし、それなりにポーズを取っていても正式なバレエのパではなく、なんとなく観ていて居心地の悪いものを感じます。暗転が長くてセットチェンジに手間取るところも減点ですし。
 けれど、王子が旅するアジアの国々で披露される大道芸というかサーカスというか雑技がものすごいので、だんだん目を奪われていくわけです。ジャグリング、回転リング、竹馬、吊り輪、トランポリン…

 いわゆる第二幕に当たる白鳥たちはスケートを履いて舞台を滑り、第三幕の民族舞踊ではなんとスペインの踊りは一輪車、ナポリの踊りはジャグリングです。バレリーナのサポートをするべき男性舞踊手が一輪車に乗ってるんだもんなぁ~。オディールと一緒になって王子の目をくらませる蛇は軟体芸。これがまたホントにすごくて…
 と、だんだん、「すごいものはすごい」と認めてしまう気分になっていくのです。

 そして圧巻は、やはり、第二幕、三幕、四幕に当たるシーンでの王子と白鳥とのアダージョです。
 まず振付が良くて、いわゆるプティパとかの、ちゃんとしたバレエの振付をものすごくきちんと取り入れているところに感動しました。もちろんダンサーたちは、素養としてある程度バレエを納めていたりはするのでしょうが、もともと雑技に必要な筋肉や体格はバレエのそれとは完全には一致せず、だから彼女たちの体も完全なアン・ドゥオールにはなっていません。それである程度きちんとしたポーズを取ろうとするので、本当はますます違和感を感じさせるのですが、でも、それを補ってあまりあるインパクトが、王子と白鳥のアダージョにはある!!!
 王子の肩の上にポアントで立って、バランスを取り、アラベスクをする! そのあと王子のサポートを得て、なんというかものすごい開脚をする! 黒鳥も王子の脚の上に乗る! 白鳥はさらに王子の頭の上に乗って立つ! そして自力で回転する!

 なんか言葉で書くとすごく間抜けなんですが、でもそれが本当に力強くてかつ美しい。愛の力でこんなすごいことができる王子と白鳥が、悪魔の呪いに勝てないわけないじゃん、と素直に思えてしまうのです。これはすごい!
 舞台は紫禁城でのふたりの婚礼でハッピーエンドです。泣けました…

 もし、ちょっと際物・イロモノと観られてしまっているんだったら、なんとかしてあげたいなあ。すごくすごくよかったし、おもしろかったです。
 もちろん、原作のすばらしさあってのことなのかもしれませんけれど、最初は主演ふたりのわずか6分ほどのアトラクションだったものを、全幕物に仕立てた演出家の手腕はすばらしいと思いました。脱帽。
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第11回世界バレエフェスティバル・プログラムA

2010年01月20日 | 観劇記/タイトルさ行
 東京文化会館、2006年8月3日ソワレ。

 東京バレエ団創立10周年記念公演として1976年に第1回が開催され、以後三年ごとに企画されているバレエの祭典。

 トップバッターはルシンダ・ダンとマシュー・ローレンスの『ラ・ファヴォリータ』(振付/ペタル・ミラー=アッシュモール、音楽/ガエターノ・ドニゼッテイ)。緊張しているのか固く見えましたが、初々しく、上品でいい感じでした。
 『椿姫』(振付/ジョン・ノイマイヤー、音楽/フレデリック・ショパン)が今回の「めっけもん」でした。全幕をまだ観たことがないのですが、『マノン』ばりにいい感じっぽそうですね。ジョエル・ブーローニュとアレクサンドル・リアブコによる第三幕のパ・ド・ドゥは、ものすごいリフトの連続なのに技巧より叙情が勝るという、すごいものでした。刮目。
 ポリーナ・セミオノワとフリーデマン・フォーゲルの『ロミジュリ』(振付/ジョン・クランコ、音楽/セルゲイ・プロコフィエフ)バルコニーのパ・ド・ドゥはしっとり。
 これまたまだ全幕を観たことがない『オネーギン』(振付/ジョン・クランコ、音楽/ピョートル・チャイコフスキー)も美しくて感動しました。全幕が観たい。今回はアリーナ・コジョカルとフィリップ・バランキエヴィッチ。
 第二部のシメはブラックスワン(振付/マリウス・プティパ、音楽/チャイコフスキー)でしたが、ジークフリード(ホセ・カレーニョ)が背が低くてガッカリ…オディールがポアントで立たなくても負けていたのでは…そのオディールのイリーナ・ドヴォロヴェンコ、32回転では脚が低くて残念でしたが、アダージョでの王子の誘惑っぷりが実にイキイキして楽しそうでよかったです。オディールってやっぱいいですよね。
 『ライモンダ』(振付/プティパ、グリゴローヴィッチ、音楽/アレクサンドル・グラズノフ)も全幕を観たことがないのですが、今回のガリーナ・ステパネンコとアンドレイ・メルクーリエフのパ・ド・ドゥはアダージョもコーダもシメのポーズが実に素敵でした。
 4時間半の長丁場ですが、仕事で帰社しなければならず、第四部の観劇を断念。ギエムも、マラーホフの『マノン』も観られないことになり、がっかりでした…
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