駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

西原理恵子『ぼくんち』

2009年11月28日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名さ行
 小学館スピリッツとりあたまコミックス全3巻。

 ぼくのすんでいるところは山と海しかないしずかな町で、はしに行くとどんどん貧乏になる、そのいちばんはしっこがぼくの家だ…今は亡き文芸春秋漫画賞受賞。
 2003年春の映画化に伴い全一冊になったコミックスも出たのですが、一色に落ちていたので、やはりもともとの三巻本を買いました。

 「絵本のような」この色彩の美しさは、そのほとんどがアシスタントと装丁家の手になるものだとしても、やはりこの作品の大きな魅力だと思うからです。
 最初に読んだときも衝撃を受けましたが、買って、読み返してみて、やっぱり言葉になりません。でもとにかくずっとずっと読んでいきたい作品です。

 好きはねえ、毎日ゆうとかんとかんじんな時に出てこんなるから。つらいけど、人はね、神様がゆるしてくれるまで、何があっても生きなくちゃいけない。そのうちええ天気で空が高うて、風がように通る、死ぬのにちょうどええ日がくる。それまでしんどい。誰か知らないだろうか、一番大好きな人をなぐさめる方法を。あんたが笑てくれたらワシ一生シアワセ。
 ぼくのすんでいるところは、山と海しかないしずかな町で、はしに行くとどんどん貧乏になる。そのいちばんはしっこがぼくの家だ…「ビッグコミックスピリッツ」の巻末に毎週1話2ページで連載された傑作。

 珠玉の、という言葉は…あたらないんだろうなあ。なんと評していいかわからない、言葉を失ってしまう名作です。
 ある人の言葉によれば、この作品は雑誌掲載時の、あの当時のあの雑誌であの位置に載ってるのを毎週読んでいた時空間の中でこそ真の輝きを見せた、ということですが、薄くて愛らしい寸法で天地や小口がきれいな色のグラデーションになった美しい造本のこのコミックスもまた、愛しくすばらしいと思います。
 やや露悪的というか、ブラックジョークというかギャグというかなのは最初の4話だけで、あとはもう…すみません、やっぱり言葉になりません。
 女性作家の手になるものらしく非常に美しい女性礼賛(これは母性礼賛とだけは言えないでしょう)があふれている作品ですが、1巻の後ろの方の鉄じいの台詞に、私は自分の父親をあらためて尊敬しましたよ。
「新聞が読めて、/九九ができればええ。」。
 私の父は私を大学まで出してくれましたが、その教育哲学は
「新聞が読めておつりの計算ができればいい」
 でした。掛け算ですらなかったんだよ、引き算で十分だったんだよ…
 いくぶんかは装丁家の手によるものなのかもしれませんが、非常に着彩のセンスが優れています。これも作家の故郷の海と山が育てたものなのでしょうね。各巻の口絵の、わんこの家族が増えていくのがすごく好き。真ん丸の目とギザギザの歯なの。でも表情がちゃんとある。すごい。
 ぼくの町が見えなくなって…二太、そんな笑顔で笑っちゃダメなのに。でも、これは笑うときなのだ。そんな中にも幸せはあるのかしら。でも神様が許してくれるまで、生きなくちゃいけないから。誰かに抱きしめてもらったことがあり、抱きしめてくれた誰かがいて、いつか誰かを抱きしめることがあるかもしれないから…アフリカのサバンナじゃなくても、ニューヨークのハーレムじゃなくても、砂漠の紛争地帯じゃなくても、生きていくことはきっと幸せで、しんどい。
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萩尾望都『マージナル』

2009年11月28日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名は行
 小学館プチコミックス全5巻
 モノドールの街は死にかけていた。不毛なマージナル・ワールドには男しかいない。唯一の女である「マザ」は老い、子供は年々減っていた…
 これまたすばらしくよくできたSFの傑作です。
 メイヤードというのは『スター・レッド』ペーブマンの流れを汲むのでしょうか。ちょっと手塚治虫作品のロックを連想させますね。好きだなあ。
 完全な共感力を持った「夢の子供」として作られた少年が、病んだ地球の夢見る愛と再生に共感して、命を賭して星を救う。すごい話です。
 これまた以前はラストシーンが不満でした。グリンジャもいいけれど、健全で健康でまっすぐで前向きなアシジンの方が生き方としては正しいと思うし、確かに三角関係というのは微妙で危険ですわりがよくない。
 でも、今はこれが真実か、とも思います。
 人類の未来の象徴でもある最後のキラの両隣には、生や繁栄を体現するアシジンと、死や滅亡を体現するグリンジャとがいる、どちらに転ぶかわからないし、どちらかがないのも変なのだ、ということなのだ、と今は思うのです。
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萩尾望都『A-A’』

2009年11月28日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名は行
 小学館プチコミックス萩尾望都選集Ⅱ17
 コンピュータ制御のエキスパートとして人工的に開発された一角獣種をめぐる連作短編集。
 クローンとはどういうことか、魂はどこにあるのか、感情とは何か、感覚が違う相手と恋愛するってどういうことか…といったことを考えさせられる作品群です。
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萩尾望都『エッグ・スタンド』

2009年11月28日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名は行
 小学館プチコミックス萩尾望都選集Ⅱ16
 短編集。表題作の舞台はナチス・ドイツ占領下のパリ。ルイーズは公園で少年ラウルを拾うが…
「誰がおまえを裁くだろう? 愛も殺人も同じものだと言うおまえを?」
 そう言ってマルシャンはラウルを撃った。ラウルは目を閉じて待っていた。マルシャンに殺させてはいけないのが本当なのだ。ルイーズを死なせてはいけないのが本当なのだ。ラウルのような死に魅入られた子供を作ってはいけないのが本当なのだ。戦争があってもなくても人間は「きわどいところにある」。本当のことを知っていなければいけない、と思います。
 併録は堕胎の罪悪感を扱った現代的な『天使の擬態』と、「ビッグコミックオリジナル」に掲載された二本。学生時代からの三角関係を描いた『十年目の毬絵』はともかく、『影のない森』ははたしてどうおじさまたちに読まれたのでしょう…
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