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駿河土産 9 家康、新田になぞらえ、人の進退につきさとす事

(裏の畑のビワを収穫、但し、これですべて)


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(8)家康、新田になぞらえ、人の進退につきさとす事
一 権現様、駿府に御座遊ばされ候節、江戸表より御用の義に付、土井大炊頭参上致され、かの地逗留の間には、折節、御夜詰めにも出られ候となり。
※ 土井大炊頭(どいおおいのかみ)- 土井利勝(どい としかつ)。江戸時代前期の譜代大名。徳川秀忠政権における老中として、絶大な権勢を誇った。下総国小見川藩主、同佐倉藩主、同古河藩初代藩主。
※ 夜詰め(よづめ)- 夜間の職務のため,その場にずっと詰めていること。宿直。


ある夜、大炊頭へ仰せられ候は、今以って関東筋には、新田を開き候やと御尋ね成られ候へば、大炊頭承られ、上意のごとく、只今以って、ここかしこ、新田の場所を見立て、油断なく開発仕り候旨、申し上げられ候へば、当時、二、三万石ともこれ有り、新田一所(一緒)に出来仕り候に於いては、その方ども如何存ずべく候や、と上意遊ばされ候えば、大炊頭承られ、二、三万石ともこれ有る新田の出来候とこれ有る儀は、永々の儀にて御座候えば、一かど(廉)の御為にも罷り成り、重畳の義と存ずべくと御請け取り申し上げられ候えば、
※ 重畳(ちょうじょう)- この上もなく喜ばしいこと。きわめて満足なこと。

重ねて上意遊ばされ候は、二、三万石ともこれ有る古田の場所、永荒れに成りて捨てりたりと聞き候わば、何も如何存ずべきや、との仰せに付、それは大きなる失墜の義に候えば、悔まじき儀に御座有るべきと申し上げられ候へば、

権現様、御笑い遊ばされながら仰せられ候は、その方ども新田の出来るをば悦び、古田の永荒れと成りて捨てり候をば、何とも思わずと上意有りければ、大炊頭、左様の儀にては御座なく、古田の義をば成程大切に仕り、新田などの義も、古田の場所へ相障り申す所に於いては、開発致させ申さず。堤、川渫いの御普請の義は、御物入の構いこれ無く、随分丈夫に仕り、古田の損耗、これ無き様にとのみ仕り候、と申し上げられ候へば、

重ねて仰せられ候は、その方なども、今程大役を勤め居り候が、随分と役儀を大切に思い、物毎念を入れる様に心掛け候ても、人には了簡違い、心得違いなどを以って、致し損じという事なくて叶わず。それが凡夫丈と云うものなり。
※ 凡夫丈(ぼんぷだけ)- 普通の人の高さ。

然る時は誰に寄らず、その仕落しを咎め正し候とも、これまた仕置きの一つなれば、見のがし、聞きのがしにばかり致して、差し置くと有る儀はならざるに付、その不調法の軽重に随いて、或は役儀を取り上げ、咎が、または遠慮、閉門など云い付ける様の品々は有るべき事なり。これに依り、その身も迷惑致し、先非を悔い、了簡を仕りかえて、向後の是非をさえ改め候に於いては、旧悪の義を差し許し、その身も安堵致し喜悦仕り候て、奉公をもはげみ勤め候ごとく、致す事がよきなり。

左様これ無き時は、その者に取らせ置きたる知行の分は、古田の永荒れに成りて捨てりたるも同じ道理にてはなく候や。能々了簡致して見候えとの上意にこれ有り候となり。

大炊頭、江戸表へ帰られ、右上意の趣きを申し上げられ候に付いての儀にもこれ有り候や、その砌り、二、三万石も取り申され候、御譜代大名衆一人、御番頭衆の中一人、その外その役懸りの衆一両人、不調法の義に付、御前向き不首尾にて居られ候衆中、御役など仰せられたる面々もこれ有り、またはその身には隠居仰せ付けられ、子息を宜しき品に召し出されたる衆中などもこれ有り候となり。

すべて秀忠将軍様には、大御所様の上意とさえ、これ有り候えば、殊の外御大切に御用い遊ばされ候となり。

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