平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
駿河土産 6 清正へ異見の事(前)
梅雨の厚い雲から出て、たけ山方面へ沈む夕日。
駿河土産の解読を続けよう。
(5)清正へ異見の事
一 権現様には、加藤清正と本多佐渡守と、挨拶よきと有る儀を御聞き及び遊ばされ、その方、存じ寄りたるごとくにて、清正へ異見を加え見候えと仰せ付けられたる儀これ有り、
※ 挨拶(あいさつ)- 人と人との間柄。仲。
※ 異見(いけん)- 道理や利害を説いて他人を戒めること。説教。
ある時、佐渡守、清正の宅へ相越され、談話の節、申し出られ候は、我ら儀、其元(そこもと)と心安く御意を得候に付、いつぞ折りを以って、申し入れるべきと存じ、罷り在りたる儀、これ有る旨、申され候えば、清正聞かれ、それは何より過分の事に候。譬え何程の義なりとも、少しも御心置きなく御申し聞き給わり候様に、とこれ有るに付、佐渡守申し出され候は、其元へ申し入れたき事、三ヶ条これ有り。
一つには、只今は以前と替わり、中国、西国筋の諸大名方、大坂へ着岸あられ候えば、その儘、直に駿河、江戸表へ罷り越されごとく、これ有り候処に、其元には大坂表に逗留あらせ、以前のごとく秀頼卿の機嫌を相伺われ、その以後ならでは、駿府、江戸へは御越しなく候。
二つには、当時世上物静かに候えば、諸大名何れも参勤の節、召し具せられ候家来の数をも、減少致され候所に、其元には只今とても、以前に相替わらず多人数にて御登り候を以って、殊の外に目立ちて相見え候由。次に、今時大名の中に、其元のごとく顔に髭多く置かれたるはこれ無く候。おなじくは、御剃落し候様に致したく、殿中惣(総)出仕る御列座の節などは、前で目立ちて相見へ候となり。
清正返答申され候は、只今其元の御申し聞けらるゝ事どもの儀は、兼ねて我らも心付きの有りたる事にて候。定めて人々の取沙汰致すをも御聞け及び、日頃御心安くその意を得候に付、御内意御申し聞くと、過分浅からぬ事に候。去りながら、右三ヶ条ともに相心得候、その通りに致し申すべきと申しがたく候。
※ 過分(かぶん)- 態度や振る舞いが、分際をわきまえないこと。また、そのさま。身分不相応。
その子細は其元にも御存じの通り、我ら儀、太閤の時代には肥後半国を領知致し候処に、去る慶長五年より当御代に成り候て、小西が領知の跡をも手前へ拝領仰せ付けられ、肥後の国主と成られ候と有るは、御当家の厚恩と申す物にて候。去りながら、いかに大身に罷り成り候えばとて、以前より大坂着岸の節は、秀頼卿の御機嫌を伺い候、格式を相止め、大坂を直通りに致し候と有るは、武士の本意にあらずと存じ候に付、今更相止め難き事に候。
※ 格式(かくしき)- 社会的に格付けされた身分・階層などに応じた生活上のしきたりや礼儀作法。
※ 直通り(すぐどおり)- 立ち寄らずに通り過ぎること。すどおり。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )