2018年2月24日(土) 2:00-6:15pm 東京文化会館
東京二期会プレゼンツ
ワーグナー 作曲
深作健太 プロダクション
ローエングリン 58-75-54
キャスト(in order of appearance at prelude)
1.ゴットフリート(幼少ルードヴィヒ)、黒尾怜央(黙役)
2.ルードヴィヒ二世、福井敬(黙役)
3.若きローエングリン、丸山敦史(黙役)
キャスト(in order of appearance at actⅠ)
1.ルードウィッヒ二世、福井敬(黙役)
2.伝令(バイエルン王国首相ルッツ)、友清崇(Br)
3.ハインリヒ(プロイセン王国首相ビスマルク)、小鉄和広(Bs)
4.テルラムント(バイエルン王国医師グッデン)、大沼徹(Br)
5.オルトルート(フライアのリンゴを持つ片目の女ヴォータン)、中村真紀(S)
6.ゴットフリート(幼少ルードヴィヒ)、黒尾怜央(黙役)
7.エルザ(オーストリア皇妃エリーザベト)、林正子(S)
8.若きローエングリン、丸山敦史(黙役)
9.天井から羽根だけ白鳥
10.ローエングリン、福井敬(T)
他
キャスト(in order of appearance at actⅡ)
1.天井から落ちる首に矢の刺さった白鳥
2.白鳥を抱きかかえるゴットフリート(幼少ルードヴィヒ)、黒尾怜央(黙役)
3.書き物を投げつける若きローエングリン、丸山敦史(黙役)
この後のテルラムント&オルトルートの出以降は、3幕含めほぼ展開通りに現れる。
ゴットフリートはエルザの出るところに同じタイミングで出てくる。
二期会合唱団
準・メルクル 指揮 東京都交響楽団
(duration)
Prelude 8
ActⅠ 50
Int
ActⅡ 35+40
Int
Prelude 3
ActⅢ 51
●
この演出だと出るべくして出ていないのはパルジファルだけなのではないかと思ってしまう。といっても、フライアは出てくるリンゴ想定でイメージできるし、その流れだと第2幕の最初のシーン病棟で上から白鳥が首に矢が刺さった状態で落ちてくるので矢でパルジファルはイメージ出来るのだろう。
読み替え人物及び本来ストーリーに出る神様を上記のキャストのところにカッコ書き。これ以外にも二人のローエングリンがルードヴィヒになったりゴットフリートがルードヴィヒになったりとかなり趣向を凝らしていて一度観ただけでは多くの事を見逃しているはず。それに当時の衣装については残念ながら知識を持ち合わせていないので、眺めるだけのもったいなさもある。ルードヴィヒ二世の本は昔一度読んだだけでほぼ忘れている。ノイシュヴァンシュタインのお城には何度か入ったことがあって、絵を見ているとワーグナーの主役たちがうっすらと現れてきそう。
前奏曲が半分ほど進んだところで幕が開きマイムが始まる。理解すべきは動きの中身や小物、輪郭をおぼろげながら感じ、徐々に舞台の中に入り込んでいくのはなかなか楽しい。次の展開はどうなるんだろうと思いながら観る舞台。福井さん扮する黙役ルードヴィヒは2番の出で引きこもりの妄想膨らみがついに自らとローエングリンの境目が無くなったところで歌が始まる。1幕でのローエングリンは一番あとの出。ここでは前奏曲の黙役から最後までほとんど出ずっぱり。歌が始まる前でも動きが多く大変。
他の歌う登場人物もおしなべて同じような込み入った所作、黙役は他の人たちからは見えない存在というわけでもなくて、周りの反応がところどころみられる。舞台奥上部には24時間表示のデジタルウォッチが24時から1秒ずつカウントダウン。等々、読み替えだけではなくてあちこちに色々なものがちりばめられている。
総じて演出が濃すぎて、歌い手たちは動きへの配慮のウエイトが高く、本来の歌に集中出来ずにいるように見えた。歌唱の声が弱い。前にドーンと出てくるような感じではない。日本人歌手がよく言われるように最初はセーヴして溜めて置いて、みたいな話とは違う芯の感じられない歌唱で、メルクルのダイナミックな音楽づくりと流れ、これが多少強引に速めのように感じるところがあったのは、登場人物たちがこのテンポでは劇の動きを十分に消化できていないし、歌もその方向に弾きずられてしまったからではないのかと、演出の濃さは紙一重の世界を作り上げ、そのスリルの面白さも紙一重と思うところがありましたね。
前奏曲開始直ぐに幕を開けてマイム、そのほうが時間的な余裕もできて場慣れ感も出たはず。
2幕はテルラムントの医師グッデン想起の病棟。なんと、いきなり天井から首に矢の刺さった白鳥が落ちてくる。奇抜。それを抱えるゴットフリートもしくは幼少時代のルードヴィヒ、そこに青年時代のルードヴィヒが現れ、本かスコアか幼少のほうに投げつける。こういったあたり意味があるのかどうかよくわからないところもあるが読み替えのテイストには必要なものなんだろう。むしろ2幕のストーリー人物を見据えたものとも映る。
片目のオルトルートはヴォータンの槍を持ち歌いながらポッケからフライアのリンゴを取り出す。ローエングリン&エルザとの対立軸オルトルート&テルラムントは動きも含めエキサイティングなもの。オルトとテルラは幅広く舞台を使ってロエンとエルザを挟みこむような圧倒的な歌唱が欲しいところ。ちょっと、泳ぐようなところがあって、音符を探しているように見受けられた。2幕のドラマチックな盛り上がりはオケの管主体による執拗に連続する8分音符で駆り立てる。音ずれが多く有り乱れが感興を削ぐ。メルクルのタクトというのはこういったあたりのダイナミックな音の流れを正確に運んでいくので流れが良くなる。アマオケからプロオケまで色々と振っているメルクルは大体に素晴らしいもので、この日の2幕の乱れ以外は概ね良好だった。ブラスセクションの硬い音はもっと柔らかくなればさらに良かったと思う。
それで、翌朝のルードヴィヒとグッデンの結果に至る前に、グッデンのキャラをダークサイドから距離を置かせるような演出もあったのかもしれない。と思うのは、読み替えでテルラムントとグッデンのパターンが結構な違和感があるから。
槍持つ片目のオルトルートはフライアリンゴをプロンプターの台に置き、みんなそれを確認しながらの五重唱、合唱。ここは盛り上がりました。聴きごたえある2幕、堪能。このシーンは動きが無くて思う存分の歌だったと思いますね。
それからちょっと戻ってテルラムントの場面転換に若きローエングリンが騎士衣装ではなく、ルードヴィヒの王様然と現れるあたり視覚的なインパクトありましたね。黙役の味付けはいたるところ絶妙なもの、舞台にいる時間も長くてこちらも色々と楽しみな時間でした。
終幕はグラール語りが福井の圧倒的歌唱、素晴らしかった。いわゆるヘルデンテノールより声の横幅がありそうで、やや乾いた声質、抜群の安定感。ものの見事に歌い尽くしました。もう、舞台に、彼一人という感じで。
最後のミラクルな瞬間にオルトルートは眼帯を取り外し、両眼を開く。奥のゴットフリートの頭上にあるデジタルウォッチはゼロになり、今度はカウントアップを始める。ここから、何かが始まるのだろう。
このプロダクション、もう一度観てみたいですね。リヴァイヴァル公演希望。
おわり