2016年10月27日(木) 7:00pm サントリー
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番ハ短調 17′10′10′
ピアノ、エリーザベト・レオンスカヤ
(encore)
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第17番ニ短調テンペスト 第3楽章 7′
Int
ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調 新世界より 13′10′7′11′
トゥガン・ソヒエフ 指揮 NHK交響楽団
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レオンスカヤさんを聴くのは、まさか、1990年ホルスト・シュタイン&バンベルク響によるブラームス全集のとき以来なのか、いやもっと最近聴いているはずだ、と自問自答しつつ、ベートーヴェンの3番コンチェルトを。ハ短調ですな。
提示部がやたらと長いこの作品、各主題をそれこそがメインよと言わんばかりにきっちりと振りつくす、もしかしてガチガチソナタ形式大好きなのかソヒエフさん。まぁ、几帳面、きっちり系はこのオケの望むところでもあり、息はぴったり。
大柄のレオンスカヤさんの横幅以上に手は左右に広がっている印象がない。(失礼)
肘より上はあまり動かさないタイプですかね。ご自分の視界に入るところで全て弾けている感じ。右左一気に視界を決めて、あとはその中で自在に弾いていく。押しはそれほどでもない。暗いハ短調から、モーツァルトのような輝きの弾きでスタート。音価レングスがちょっとまちまちなところを感じますけれども、やつすして弾くことはない。ごまかしのないプレイです。
このホールはピアノには過酷なホール、響きの輪郭がぼけてしまう。オケ伴あるとそのフレームさえ曇る。草木を分けて聴かないといいところは聴こえてこない。ピアノを十分に楽しめるところではなくて困ったものです。今度のオーバーホールではそういった問題点も直してほしいものです。
レオンスカヤさんはピアノメインとなるパッセージでもスピードを落とすことがない。指揮者との駆け引きもあるのでしょうけれども、ぐっと落とす人が多いですよね。最近特にそうなのかどうかはわかりません。若い人に多いような気がします。
ソナタ形式ソヒエフのスタンスだとそういうところがありません。スゥースゥーと進行していきます。音楽に自然の推進力、流れが出てきますね。息の切れない音楽が絶え間なく流れる具合で、なんだか、ヤングなさわやかな風が吹いてきた。
アンコールがテンペストの終楽章。柔らかでオルゴールのような小さな響きから魅惑的に始まり、繰り返す同じ主題が出てくるたびに何種類にも色合いを変えてくる。美ニュアンスがちりばめられたビューティフルな演奏。ダイアモンド演奏。
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ソヒエフの棒を持たないときの指揮ぶりは非常に雄弁ですね。テミルカーノフのように手刀を切るようなときもあれば、おにぎりでも握っているのか、こねるようなアクションのときもある。ただ、けっして踊りはしない。
彼の振る新世界は形式好物表明のようでもあり、形式感が定まっているものをきっちりと振りぬくのが得意そう。このオケはこういったタイプの指揮者には服従することに快感をビビビッと感じ、従えば従うほど良い演奏になるというところが大いにある内部回路を持ったオケ。ソナタ形式のメリハリが完ぺき。主題のバランスも素晴らしい。またダイナミックなところ、パースペクティブもよく出る。バランスを崩さず彫りの深い演奏をするあたり指揮者とオケ、俄然一体ですな。
やりつくされている新世界、もう少し遊び心があってもいいような気がしますが。
ソヒエフは本分のオペラならどうなるのか。ボリスやホヴァンチナを手兵のボリショイともども観てみたいものです。
おわり