河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2204- ベトソナ、1番、テレーゼ、テンペスト、ワルトシュタイン、32番、小菅優、2016.10.14

2016-10-14 23:17:04 | リサイタル

2016年10月14日(金) 7:00-9:25pm 紀尾井ホール

オール・ベートーヴェン・ピアノソナタ・プログラム

第1番ヘ短調Op.2-1   4′6′2+4′
第24番嬰ヘ短調Op.78テレーゼ  7+3′
第17番ニ短調Op.31-2テンペスト  10+8+7′
Int
第21番ハ長調Op.53ワルトシュタイン  11′4+10′
第32番ハ短調Op.111  10+17′

ピアノ、小菅優


SACDのベトソナ全集完結記念公演。SACDは2枚1組で5タイトル、計10枚セット。しばらく前に購入済みで既に愛聴盤。みずみずしくてクリアなタッチ、録音も素晴らしい。

今日のリサイタルは満を持してのものと思う。万全な状態でのリサイタルであったと思います。ベトソナ5曲、すべての曲、すみずみまで集中度が非常に高いもので緊張感もそうとうなもの。ピーンと張りつめた空気が最初から最後まで心地よかった。完成度の非常に高い演奏であったと思います。

駆け上がるように始まる1番。形式はほぼシンフォニー的なソナタ形式、小菅さんのピアノはその形式認識と、強弱、伸縮、絶妙なニュアンスをちりばめながらのきれいなサウンドでの進行、これら両方が見事に絡み合っている。完ぺきな演奏ではないか。
この1番の頭の波形はシンフォニックなもので、まぁ、何かに似ていると言えばそうかもしれないが、それよりもなによりも、抽象的ではあるがシンフォニーという存在そのものを感じさせてくれる。すぐにオーケストラ版に編曲できそうな具合。彼女のピアノだとそういったことがよくわかる。ベートーヴェンのみずみずしい感性をこれ以上なくうまく表現している。
スケルツォ楽章のトリオの沸き立つようなフレージング、技術的にも音楽のストリーム的にも自然な滑らかさが際立っていましたね。

テレーゼは2楽章のコンパクトサイズ。歌謡性と厳格さが両立している。多彩なニュアンスは驚くべきものがありました。居心地がよくなってきた。

3曲目のテンペスト。全3楽章、濃厚です。特に第1楽章のラプソディのような中に潜むラルゴ、それをなにかインスピ―レーションでも受けたかのように隙間の中を埋めていく美しい音。瞑想。極スローなテンポ。そして、嵐。丹念に進める。
このラルゴ部分は次の楽章への伏線みたいなものを感じさせてくれる。意味深いものでしたね。2楽章の瞑想。そしてアタッカで続く狂詩曲のようなフレージングと形式感の両立、ほれぼれする。音はすっと闇の中にあっという間に隠れてしまい終わりをむかえる。
32番なんかもそうだが、魅惑的な尻つぼみ的終止は生で聴いてはじめてベートーヴェンのフィーリングが理解できるのではあるまいか。

ここまで3曲、満足状態。

後半は、ワルトシュタインからスタート。オーケストラによるシンフォニーばかり聴いている方は、この曲を聴けばシンフォニックなベートーヴェンのピアノソナタに親近性を感じるに違いない。オーケストラゴアーズでピアノ聴きたいと思う人には、とっかかりとしてお勧めですね。
小菅さんのピアノは切れ味鋭く、きれいな水のような音で、激しい第1楽章が美しい。ベートーヴェンの突進よりも、激しい美しさのようなものを強く感じます。ここでも次の楽章が暗示されます。
第2楽章は、野に咲いた花のよう。短い楽章ですが味わい深い。ここでも次のフィナーレ楽章の響きが強く示されていて、そういうところは感性のバランスを保ちながら、丹念に注意深く弾いていますね。よくわかります。
アタッカで続くフィナーレ楽章は水切りのときのような輪が水面に次々に広がっていくような具合で、音楽の振動が大きく広がっていく。この楽章、ほれぼれするする美演でした。音楽が生きている、今生まれたばかりのように。ああ、スバラシイ。それに、この楽章のグリサンド風な指技しっかりと観させてもらいました。音価が均質で同じ長さで粒立ちが良いので、よくあっているなぁとここでも感心するしかない。
このワルトシュタインと前半のテンペスト、音楽が非常に大きく感じた。表現力の豊かさという話だろうと思いますよ。

最後の32番。巨大でした。最後のソナタとはなんぞや。ほかの作品と同じように弾くだけ。淡々と、激しく、自然に、小さい一歩から始める。そのようなものが徐々に積み重なっていき、心的インテグレーション効果をもたらす。
インスピレーションの塊のような曲。ベートーヴェン、よくもこんな離れ業のような曲を作れるもんだ、ホント、とんでもねぇ。開いた口が塞がらないとはこのことよ。
ベートーヴェンを強く感じさせてくれる小菅さんのピアノ技。第2楽章なんてぇのは命がけの演奏ですよね、尾根の上を歩く紙一重のバランス、なにか狂気に近い作品ではないのか。凄い作品、凄い演奏。アンビリーバブル。

おわりたくないリサイタル。いつまでも聴いていたい。
席は左2階席やや前方で、小菅さんの指使いがよく見えました。身体全体をかなりピアノに近づけて弾いている。ですので肘がときおり背中より後ろに突き出るようになる。腕を大きくブルブルすることはあることはあるのですが、そういったアクションがメインではなくて手と指で弾いていく。両手の交錯が自然で、音も一定している。終始、非常にきれいな響きのピアノ。そんなに強い押しではないと思いますが、音が出るぎりぎりのところから、手ごたえある響きを実感できるところまで、きっちりと押しこんでいるように見えます。また、タイ、スラーなどとスタッカート的な響きが明確に弾き分けられている。あれは見事でしたね。
なんだかピアノが弾けるような気がしてきた。
充実のリサイタル。渾身のプレイでした。お見事な演奏、ありがとうございました。
おわり

希望
小菅さんの生ベトソナ、全部聴きたい。