2019年11月28日(木) 7pm-9:15pm サントリー
望月京 むすび(2010) 15
細川俊夫 抱擁 ―光と影― (2016~17) JP 18
オルガン、クリスチャン・シュミット
Int
望月京 オルド・アプ・カオ (2019) WP 24
パーカッション、イサオ・ナカムラ
細川俊夫 渦(2019) WP 24
杉山洋一 指揮 東京都交響楽団
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今晩の現音演奏会は短めのものでは無くて、最後の作品前の配置換えに10分かかったものの終演が9時15分。休憩後の2作は共に25分におよぶ規模の大きなもので、内容も大変に充実していました。
望月、細川の作風は明確に違っていてそれぞれ、音の刻印が作曲家の固有名詞そのものになっている。これが本来の作風と言うものなのだろう。納得の4曲でした。それに、終わってから、今日のプログラム順も良かったなと。
望月京 むすび
寿ぎ、めでたい多くの事、それらのもつエネルギーのむすびの場。
和の節、ウィンズにこぶしも。それに弦を中心にリゲティ風な高濃度。全体がトーンクラスターのモードに。音の充実感がもの凄い。中間部あたりから和太鼓の様な鳴りが前面に出てくる。ここでも弦の圧力が凄くて声のように絡み合う。色々なものがぎっしりと詰まった音の塊。持続するインスピレーションを感じる。
今日この作品が一番短くて15分。時間の凝縮さえ思わせるもので聴いてて火照ってくる。特に前半が秀逸の濃さ。
細川俊夫 抱擁 ―光と影―
陰影、二面性、等々。それらを音によるメタファーで。細川の作品は多様な表現の中、根底に変わらぬ信念を感じさせる。作曲家自身がオルガン協奏曲と言っている通りその中心的役割を担う。オルガンソリストはフルシャ&バンベルク響の2017年世界初演時の方。
杉山さんの指示無しでオルガンの弱音から始まる。二つのエレメントの掛け合いで徐々にオーケストラに広がっていく。高低の抑揚の無い持続する音。節は無くて裂ける様な音の連続。伴奏越えのオケがシャープに咆える。大仕掛けの音響構築は20世紀ミドルピリオドの頃を彷彿とさせるところがある。
終始苦し気に鳴っていた二つのエレメントは融合し、最後はかすかに予定調和的な響きになり弱音終止する。最後が大きい意味を持つだろうね。
休憩。
ここまでで結構満腹。作品が本当に大きく見えますね。
望月京 オルド・アプ・カオ
秩序とカオス。人間の秘めたる暴力性にインスパイアされたものか。それの表現として打楽器を。雄弁に活き活きとプレイしたイサオ・ナカムラがいたから出来た。作品と同じく演奏家の並々ならぬ腕前にも感服。色々と惹きつけられる魅力的な作品でした。
棒を持たない杉山さんが指揮台に向かう時イサオはいなかったので、おや、どうしたのかなと思ったけれども、よくよく見るとオケのパーカス下手側に既に陣取っていて、始まると一緒にまずはそこで身体ごといかにも打楽器の扱いという感じの大きなモーション、それに着てるものも身体全体を満遍なく動かせそう。派手。
曲はグイグイ進む。イサオは、指揮者の左側にセッティングされた数個の小太鼓からバスドラまで置いてあるコンボ風なところに音を色々と鳴らしながら向かう。ジャンプして床からの音も音楽のリズムになり切っている。天性のリズムの塊。叩くだけでは無くて手でこすったり、とにかく音を出す行為。バックのオケのサウンドが大きく広がり始める。と、
それまで指揮台より大きな譜面をめくっていた杉山さんが左手で指揮台の右横の低い台からなにやら札みたいなものを取り出してオケに見せる。白地にAと書いてある。これはなに?偶然性の音楽ならソリストはどうなるの?などと思っているうちに、その札を左横の台に置き、今度はBという札を取り出して示す。結局、A、B、C、D、E、F、G、H、I。計9回。なんだかよくわからないが、わからないものもいいものだ。ので、プレトークはいつもスキップ。この種の話が有ったかどうかは知らない。知らなくてよいの。
ここらあたりまでが前半。
音楽はさらなる盛り上がりを魅せ、オケがギザギザとはっきりと克明な響きで圧倒的なサウンドで席捲。やがて、オケのパーカス連中とイサオによるカデンツァの様相を呈していく。派手派手。
暴力性の一つの極限値としてなのだろう、パーカス員がピストルを上に向けてパーンと撃つ。見もの聴きものの全体モーションは律動の世界。破格奏者イサオ前提の作品が色濃い。とにもかくにも、世界初演だからね。
本能的野生と理性の共存。イサオの打楽器の雄弁さは弱音でも変わらない。音楽は落ち着きのある世界に向かい、最後は消え入るように終わる。終始息を呑むような演奏でした。
細川俊夫 渦
これもデカい作品。世界初演。還暦を迎えた準メルクルにデディケイトしたもの。
作曲家十八番の手法によるティピカルな細川作品のように聴こえる。松風を観たことがある人なら、あのヒュ~ドロ~の世界が随所に垣間見れる。かも。
同音持続、雅楽風な響き、大太鼓のドドドドッ。まさに、アレだよねと言う感じ。
客席Lサイドトップにはホルンとトロンボーン、R側にはホルンとトランペット。それぞれ二人ずつ配置。デカい音の効果を狙ったものでは無くて、時折ミュートも有ったりで、渦という立体感の強調のようなもの。LB席の上から見るとステージ併せ、なるほど全体が見た目も渦のようだ。
沈殿する渦のような開始から、細川流の進行、ヒュ~ドロ~で最高潮に達し、彼の新しいインスピレーションも肌に感じる。2曲目の抱擁と同じく長い弱音進行を見せながらやや予定調和を魅せて終わる。
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杉山さんの現音にかける思いはその指揮を見ればよくわかる。世界初演、日本初演、自分初演、等々。良く咀嚼されたもの。この安心感。並々ならぬ熱意がこのような見事なタクトになって、むすび付き、作曲家やプレイヤー達との抱擁、ペンも乾かないうちのカオスが見事な秩序で創造されて新たな渦の空間を聴いているものにもたらす。
都響の音は冴えていて、現音における見事な立体感、研ぎ澄まされた鋭角な響き、素晴らしすぎて何も言う事は無い。圧倒的なプレイでしたね。
ということで、充実の演奏会でした。もっと長くてもいい。生の現代音楽演奏会の音を浴びる。実に愉悦のリラックスタイム。全身がほぐれました。
ありがとうございました。
ところで、望月京の秩序とカオスに出てくるピストル。演奏前の休憩でオケパカスさんがパーンとやっちまったんだよね。何事かと。
おわり
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サントリーホール 作曲家の個展Ⅱ 2019
細川俊夫&望月 京
~サントリー芸術財団50周年記念~
20191128-2766 望月京細川俊夫杉山洋一都響