書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

藤原利一郎 『東南アジア史の研究』

2012年09月12日 | 東洋史
 「東南アジア史」と銘打ってあるが、そのほとんどは王朝時代ベトナム史(基本的に黎朝以後)である。こんな面白いものはない。その理由のひとつに、重要な来源となっている『大越史記全書』をまがりなりにも通読しているので、そこからの引用がなんとなく分かりやすい気がすることもある。原史料に一通り目を通しているかいないかでこれほど違うものか。

(法蔵館 1986年3月)

クリスチャン・ダニエルズ 「清朝とコンバウン朝の狭間にある雲南のタイ人政権」

2012年09月12日 | 東洋史
 副題「一七九二年~一八一五年までの国内紛争」。
 『生まれる歴史、創られる歴史』(刀水書房、2011年3月)所収、同書55-91頁。

 朝貢国と土司制度の違いは、朝貢の他に納税と有事出兵の義務があったことをあらためて確認。土司(土官を含む)制度とは、周辺地域に存在する非漢人の中国王朝に対する隷属政権である。その土司制度においては、非漢人政権はその領地内で内政の自由を基本的には享受できるかわり――実際には同地の不安定な情勢や隣国ビルマとの緊張により、清からの干渉を受けることもままあったが――、中国王朝に対するこれら義務の不履行は、中国による処分や廃止の対象となった。後者が改土帰流=非漢人政権の領地の没収、中国の直轄支配の導入、中国の行政制度による内地化である。
 土司制度とは、朝貢国と内地の中間的な存在であると理解した。