書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

まつばら とうる 『「子規唖然」「虚子憮然」―『仰臥漫録』自筆稿本始末記』

2012年09月21日 | 文学
 司馬遼太郎『坂の上の雲』そして『ひとびとの跫音』と続く、正岡子規とその周辺の人々を描く作品群の正当な続編第二部というべき作品。ただしノンフィクションであり、物語としてはかなり基調が辛くなる。五十年間行方不明となっていた『仰臥漫録』の原本が、不思議にもいくら探してもなかった子規庵の土蔵から“再発見”された事件に始まり、そしてさらに不思議なことに、所有権を放棄した故・正岡忠三郎や子規庵側関係者の希望に反して、国会図書館にも、松山の子規記念博物館でもなく、いったん預かった形になった正岡家(忠三郎の御子息たち)から、兵庫県芦屋市の虚子記念文学館へと寄贈されたその経緯を正岡家と子規庵の間にたって仲介役となった、当事者の一人として描く。
 いま第二部と言った。第一部は同じ著者による『隣の墓 子規没後の根岸・子規庵変遷史』(文芸社 2001年9月)。これはいわゆる昭和20年代半ばの子規庵事件(『ひとびとの跫音』でほんのわずか触れられている。『仰臥漫録』もこの時紛失した)を描くものの由。次に読む。

(文芸社 2003年10月)