くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「桜ほうさら」宮部みゆき

2013-04-21 19:24:36 | 時代小説
 当地ではまだ桜は五分咲きでございます。仙台では満開らしいですが。
 この物語の舞台にも、咲き初めの桜のもとで花の精かと思うような娘を見つける場面がありますね。和香という娘です。切り髪で、身体半分が痣のように赤くなっている。人前に出るのを厭い、頭巾をかぶっているそうです。
 染み入ります。宮部みゆき「桜ほうさら」(PHP)。
 冤罪のために自害した父。背後には何があるのか。江戸に出てきた古橋笙之介は、貸本の写しをつくる仕事をしながら情報を得ようとしますが、なかなかすすむものではありません。江戸の留守居役東谷の根回しで富勘長屋にすみこみ、近くの人々と慣れ親しんでいきます。
 しかし、笙之介に隠されていたことが後半次々と明らかになっていく。最も衝撃的なのは、父を陥れたのがほかでもないあの人だった、ということです。
 中心的な大筋のほかに、漢字なんだろうけど読めない暗号文を知りたいという「三八野愛郷録」、育ての親のもとから出奔する娘を描いた「拐かし」というエピソードが入るのですが、これがまたうまい具合に絡んでくるんですよ。さすがは宮部さん。
 特に三八野藩御用係長堀金吾郎がいい。宮部さんは少年を描くのがうまいといわれますが、わたしはそれ以上に「おじいさんを描くのがうまいよなぁ」と思うのです。うなぎや〈とね以〉の貫太郎への語り「そなたの父が真に望むことはどちらであろう」がラストで生きてくる。
 そして、父の言葉「嘘というものは、釣り針に似ている」。
 しみじみと、胸に迫ります。こんなことを語れる父を、母の里江は認めようとしません。「悍馬」にたとえられる気性が、直接表面に出てこなくても、全体に色濃く影を落としている
 そういう点ではそえばあさんも同じですよね。笙之介に「ささらほうさら」という言葉を教えてくれます。いろいろあって大変だという意味なんですって。
 実は、読みながら「江戸を斬る」の再放送を見たのでなんとなくイメージがくっついている部分があります。人情ものであり、捕り物活劇の部分もあり、非常にぜいたくなつくりですよね。
 文字というものについても、考えさせられました。現在よりも肉筆の手跡が、かなり重視されていたのでしょうね。わたしは習字がからっきしなので……。
 


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