くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「スージーの贈りもの」中川志郎

2010-11-15 07:41:37 | 自然科学
息子の音読が「ビーバーの大工事」になりました。先日、宮教大の相澤秀夫先生の模擬授業をうけたのですが、小二の説明文として奥が深いですね。読点は読みの句切り符号ではなく感心を表しているとか、比喩もたとえて話すのは感動しているからだというお話、おもしろいです。
でも、「ビーバーの大工事」は中川さんのほかの文章とちょっとタッチが違うように思いました。息子の教科書を見て、小学校低学年の文章教材には作者紹介がないことにも気づき。(しかも名前もひらがな書きです)
久しぶりにモーレツに読みたくなって借りてきました。中川志郎「スージーの贈りもの 共に生きる地球の仲間たち」(海竜社)。
タウン誌「うえの」に連載されたエッセイを単行本にしたものだそうです。長く上野動物園や多摩動物公園で活躍された中川さんですが、ご勇退されてこの時期は茨城県自然博物館の館長さんをされています。今も同職なのでしょうか。行ってみたいような気が……。
スージーとは、上野動物園で人気があったチンパンジー。売店でキャラメルを買うことを覚えた賢い猿です。
そのスージーが、まだ若かった中川さんに自分のキャラメルをくれた。これは信頼と愛情の証。手にしたときの情感が伝わります。
わたしが中川さんの文章に注目するきっかけになったのは、道徳の教科書に載っていた「父の一言」です。上野動物園の採用試験に失敗して、失意のまま帰った中川さんに、お父さんはこう言いました。
「おまえのカワウソが、さみしがっているぞ」
世話をしていたルトラというカワウソのことを思い出し、飛ぶように動物園に戻った中川さんは、夢に再挑戦を誓うのでした。
このルトラのことも紹介されていました。「ガンバとカワウソの冒険」の映画と、絶滅が危惧される事実が。試験に失敗して、ルトラのもとを訪ねると、落ち込む中川さんの様子に戸惑いながらも、しきりにけづくろいをしてみせたそうです。
また、トキをめぐる考えや、長尾鶏やパンダの思い出、全国の動物保護に向けての動きも紹介されています。
なかでも驚いたのは、前沢の「牛の博物館」に中川さんがいらしたということ。わたし、好きなんです。レストランもおいしい料理が食べられますよ。
また、「私の動物園、キボコの国」という文章がとてもよかった。キボコというのは、スワヒリ語でカバのこと。ドイツのホテルでみつけた木彫りのカバをたいそう気にいった中川さんが、このカバを買うことになり、作者の女性に会います。ジンバブエ出身だというその女性は、ドイツで名乗る名前よりもアフリカ名の方が好きだと語ります。「この名で呼ばれるとアフリカが胸の中に甦るのです……」
中川さんの文章は、すうっと胸に入ってくる美しい文体です。この文章に引かれて、貪るように著作を読んだのはもう十年以上前。この本も当時読んでいます。それ以来、新作が出版されないのはさみしいなあ。絶滅危惧種の問題とか動物とのふれあいとか、今でもあせないエピソードが多いと思うのですが。
「上野動物園サル山物語」などの川口さんもちょっと登場していました。実はまだ上野動物園に行ったことがないわたし。次の機会には行ってみたいと思います!

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