くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「かわうそ堀怪談見習い」柴崎友香

2017-04-17 16:28:47 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 恋愛小説家という、自分からはかけ離れた肩書きが重くて、怪談作家になろうと決めた「わたし」。郷里の大阪に戻り、実家の近くで暮らし始めます。
 とはいえ、霊感も心霊体験もない「わたし」は、旧友のたまみに連絡をとります。中学時代、彼女は怪奇体験を語ることがあったのです。
 たまみは、自分が蜘蛛に怨まれている話をしてくれます。夏休み、おばあちゃんの家でつがいの蜘蛛を見たこと、おばあちゃんはたまみの目の前で片方の蜘蛛を潰したこと、滞在中ずっと蜘蛛の視線を感じたこと……。
「離婚することになったんも蜘蛛の呪いちゃうか、とまじで思ったもん」
 大阪弁があっけらかんとした印象を与えるせいか、深刻なカラーではないのですが、語りきってしまわないのがじわじわ怖い。その後「わたし」は、闇の中でLEDのように光るものを見、たまみのことを今も蜘蛛が見ていることを読者に想像させます。
 作品全体に、視線は大きな役割をもっているように思います。
 死者が見えるというリエコは、彼らも自分が見られていることに気づいて睨んでくると語り、宮竹茶舗の蔵にいる何者かは「わたし」のことを見ていたと、近くに住む女性が教えてくれます。
 「わたし」は、怪談作家を志してから、様々な怪奇現象にみまわれますが、中でも印象的だったのは読みかけの怪談集が古本屋に戻ってしまう話ですね。同じ棚の、同じ場所に。
 「わたし」は同じ本であることを確かめるためにマークを付けたのですが、次のページになんと! 「ほっておいてください!」と殴り書きがあるというのです!
 このセンス、いいなあ。
 なぜ怪異はおきるのか。それは何をもたらすのか。
 それは追及されません。一緒にトークショーをしたらしき「鈴木さん」も、結局最後まで謎のままです。
 ただ、たまみがふとつぶやいた「幽霊、見たことないって言うたやん」「それ、ウソついてるで」は、ラストでエピソードが語られます。
 天井の低い家、山道の霧の向こうで話している少女たち、中国の行ったことがない村を紹介したホームページに写った「わたし」、ホテルの無声音のテレビに映る女性がどんどん近づいてくる話など、記憶のひだに残る話が多かったと思います。 

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