新・ほろ酔い気分

酔っているような気分のまま、
愚にもつかない身辺雑記や俳句で遊んでおります。
お目に留めて下されば嬉しいです。

こんな別れ

2009年01月08日 08時57分11秒 | 写真俳句・エッセー

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臘梅やこんな別れはこれっきり

 いつだって私より遅れたことはなかった。

 天候がどんなに悪かろうと、彼女は必ず私より早く着いていた。

 よほど早く着いているのだろうか。怪訝に思った私は、約束の時刻よりも30分ほど早く行ってみた。やはり、彼女の姿があった。

「もっとゆっくり来ればいいのに……」

 あるとき私は、そんなことを言ってみた。

「うーん?いつだってゆっくりよ」 彼女は笑って言った。

 そんなことがあってからは、彼女が現れる時刻に気を使わないことにした。私自身が遅刻しなければいいと思うことにした。

 その日のデートも、いつものように、公園前10時30分とした。松過ぎのある日だった。

 その頃はなぜか、穏やかな日が多かった。空はスッキリと晴れていて、風も少なかった。

「ずいぶん待ったかなあ」

 そんなことを思いながら、10時30分ちょっと前に、私は公園前に着いた。

 不思議なことに、彼女の姿はなかった。

「へーえ、珍しいこともあるもんだな」 気楽な私は、そのあたりをぶらついた。

 公園入り口付近には、臘梅が幾本かあった。満開に近いらしく、いつもの香りが、あたり一帯に漂っていた。私の馴染んだ香りだった。

 10時40分になっても、彼女は姿を見せなかった。

 いつもの彼女からは、とても考えられない事態だった。

 携帯電話にかけてみた。電源が切れていた。

 家に電話をするのは、なぜか憚れた。私とのことをどのように話しているか、まだ確かめてはいなかった。

 10時50分になった。腹を据えて、彼女の家に電話をした。

 留守番電話に切り替わっていた。

 あとで知ったことだが、彼女は自動車事故に遭っていた。私が公園前に着いたころ、彼女は救急病院のベッドにいたのだ。意識不明だったそうだ。

 幸いなことに、幾時間かの後に意識は戻ったとのこと。

 あれから一年、彼女はまだ入院中だ。

 公園には行っていないが、臘梅の香りが漂っているに違いない。

 私は彼女に会っていない。私と会うことを望んでいない様子なのだ。

 なぜ会ってくれないのだろうか。

 早く会いたいと、せつなく思った。

   臘梅やこんな別れはこれっきり   鵯 一平

 他愛のない空想物語でした。

 どうぞお笑い下さいませ。

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コメント (22)
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