臘梅やこんな別れはこれっきり
いつだって私より遅れたことはなかった。
天候がどんなに悪かろうと、彼女は必ず私より早く着いていた。
よほど早く着いているのだろうか。怪訝に思った私は、約束の時刻よりも３０分ほど早く行ってみた。やはり、彼女の姿があった。
「もっとゆっくり来ればいいのに……」
あるとき私は、そんなことを言ってみた。
「うーん？いつだってゆっくりよ」 彼女は笑って言った。
そんなことがあってからは、彼女が現れる時刻に気を使わないことにした。私自身が遅刻しなければいいと思うことにした。
その日のデートも、いつものように、公園前１０時３０分とした。松過ぎのある日だった。
その頃はなぜか、穏やかな日が多かった。空はスッキリと晴れていて、風も少なかった。
「ずいぶん待ったかなあ」
そんなことを思いながら、１０時３０分ちょっと前に、私は公園前に着いた。
不思議なことに、彼女の姿はなかった。
「へーえ、珍しいこともあるもんだな」 気楽な私は、そのあたりをぶらついた。
公園入り口付近には、臘梅が幾本かあった。満開に近いらしく、いつもの香りが、あたり一帯に漂っていた。私の馴染んだ香りだった。
１０時４０分になっても、彼女は姿を見せなかった。
いつもの彼女からは、とても考えられない事態だった。
携帯電話にかけてみた。電源が切れていた。
家に電話をするのは、なぜか憚れた。私とのことをどのように話しているか、まだ確かめてはいなかった。
１０時５０分になった。腹を据えて、彼女の家に電話をした。
留守番電話に切り替わっていた。
あとで知ったことだが、彼女は自動車事故に遭っていた。私が公園前に着いたころ、彼女は救急病院のベッドにいたのだ。意識不明だったそうだ。
幸いなことに、幾時間かの後に意識は戻ったとのこと。
あれから一年、彼女はまだ入院中だ。
公園には行っていないが、臘梅の香りが漂っているに違いない。
私は彼女に会っていない。私と会うことを望んでいない様子なのだ。
なぜ会ってくれないのだろうか。
早く会いたいと、せつなく思った。
臘梅やこんな別れはこれっきり 鵯 一平
他愛のない空想物語でした。
どうぞお笑い下さいませ。
別館として写真俳句ブログの「いのちの囁き」を開いております。
よろしかったら、どうぞお立ち寄り下さいませ。
こちらへ → http://hiyodori2.shashin-haiku.jp/
ランキングに参加しております。
↓ ↓
やはり、事実と思って読んだほうが興味深いですから、
最後の種明かしでよかったと思います。
空想といいながら、事実を少しだけ変える場合も多いですね。
世間に知れると困る、特に相手の方にかかる迷惑を
懸念して、空想に仕立てる場合も多いですね。
あくまでも一般論です。 すみません。
ひよどりさんの若さと優しさを感じました。
人を思いやると言う心を忘れないようにしなくてはいけないと言う事を教わりました。
私は介護をしているうちについ自分中心に物事を考えてしまいがちになります
そうならないように気をつけたいです。
本当かと思って読みました
人はいつまでも恋をしている方が毎日が張り合いがあっていいような気がします
ドキドキとときめく・・・・
なりたいなぁーー
と思うだけ
蠟梅にふさわしいお話でした
ごちそうさま
でした
気持ちの瑞々しさ、素敵です。
携帯でアリャと…(笑)
ほろ苦いものがたりです。
このような事をお書きになって奥様との関係は大丈夫か気に掛けながら途中まで読ませていただきました。
小説家？を夢見た元文学少年も構想の妙に感服しました。
作者の心底は計り知れなくても、登場人物の心は計ることが出来ます。
そうして読者も、あれこれ想像しながら読むわけです。新春の青春物語に、少しばかり、こちらの心も波打つものですね。
なかなか鋭い一般論をいただきました。
不幸にして私はさほど「艶」には恵まれず、幸いにも家庭は円満です。
つまり、なんとかしのぐ方法も会得していて、その範囲内の行動に終始しています。
幾つになっても願望を内側に秘めていたいですね。
私に介護の経験はありませんが、見たり聞いたりする限り、本当にご苦労が多いと推察しております。
わが家は共に両親はすでになく、私が介護を受ける順番になっています。
もちろん、先のことは分かりません。
みなさんのお話を伺いながら、今後の覚悟をしていきたい思っております。