昨夜、Yさんの通夜があった。83歳。
私にとっては、忘れがたい大先輩だった。大変にお世話になった。遊びもにも誘ってもらった。
経営上の面で、絶対に怒らせてはいけないKさんを、私が怒らせてしまったことがあった。
その折り、Yさんにうまく収拾してもらった。だから首が繋がったようなものだった。
「どうせ無理を言うだろうが、怒らせずに断ってこいよ」 Yさんの指示であった。
怒らせずに拒否するだけのことなら、日常的にいつもやっている。さほど難しいことでもない。
たがKさんは、特別面倒臭い人であった。誰も苦手としていた。権力を笠に着て、ムチャクチャに押し込んでくるタイプだった。理屈は通用しないのだ。
その日も、例のごとくゴリゴリと要求してきた。多少のことなら、こちらはヌラリクラリと逃げ帰ってくるのだが、その日のKさんは、いつになく無礼で執拗だった。
「子供の使いじゃあるまいし、そんなことを言うためだけに出てきたのか!」
罵詈雑言に近い言葉をぶっつけられた。繰り返し繰り返しぶっつけられた。
通常なら、その程度であればほどほどに逃げ回るのだが、「子供の使いじゃあるまいし・・・」のセリフに、私は暴発してしまった。
今までの思いの丈を、精一杯ぶちまけてしまった。しかも、私は席を蹴って外へ出てしまったのだ。
Kさんの部下が、すっ飛び出てきた。
「そう怒らずに、話し合いをしましょうよ」 部下の方は、至極穏当な態度だった。
ところが、冷静でなければいけない立場の私が、すっかり頭へ血が上ってしまっていた。誰の意見も聞きたくなかった。過去はこんなことはなかった。初めてのことだった。
席へ戻ることはしなかった。決然として席を立つ・・・そんな感じだった。
しかし、すぐに反省が私を襲った。
「エライことをしてしまったなあ」
もはや、覆水は盆に帰らずだった。
戻った私は、一部始終をYさんに報告した。すぐにバレることだったので、隠しきれる話ではなかった。
私の報告を全部聞き終わってから、
「ふーん」とKさんは言った。
「もう言っちゃったンだから、しょうがないよなァ」 それだけを言って、あとは呵々大笑。
あの呵々大笑が、私をどん底の気分から救ってくれた。
次回からは失敗すまいと、心に誓った私であった。
その後のYさんは、大きな国家プロジェクトの責任者にもなった。
成功したり失敗したりで、気苦労が多かったと聞いていた。
お通夜の席で、遺影の温顔を見ながら、昔のことを思い出していた。
冬にしては、暖かい夜であった。
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