29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

二部作の後半ながら前半と全然音楽スタイルが異なる

2016-05-25 12:35:14 | 音盤ノート
Milton Nascimento "Geraes" EMI/Odeon, 1976.

  MPB。ミルトン・ナシメント全盛期の作品。1975年の"Minas"との二部作の後編で、タイトルを合わせて彼の故郷の州名「ミナス・ジェライス」となる。本作冒頭の'Fazenda'は"Minas"の(CDのボートラ二曲を除いた)最後の曲'Simples'からオーケストラが繋がり、本作最後の'Minas Geraes'は"Minas"の最初の曲'Minas'と同じメロディーという仕掛けとなっている。アルバムの流れもよろしく、個人的にはナシメントの最高傑作としたい(全作聴いたことがあるわけではないけれども)。

  音楽スタイルはかなり変化している。サンバからサイケデリック・ロック、プログレをごちゃまぜにした"Minas"は、同郷の仲間をバンドメンバーに従えて流行の音をいろいろ出そうと試みた、という趣きだった。本作では、ゆったりした曲をじっくり歌いあげるという趣向で、サウンド面での実験は後退してルーツミュージックを掘り下げる方向に変わってる。このため同時代の感覚が希薄で、おかげで今聴いても古さを感じさせない。ロック的要素は後退し、ファドやフォルクローレなどを民族音楽をベースとした、ブラジル的というよりは汎南米的・ラテン民俗音楽的な音作りとなっている。アルゼンチンの女性歌手メルセデス・ソーサやシコ・ブアルキをゲストに迎えた曲もある。(CDには、ボートラとしてシコ・ブアルキとの共作・共演曲がさらに二曲追加されている)。

  全体としては派手さが無くて、地味に聴こえるだろう。しかしながら、各曲のクオリティは高い。前述の'Fazenda'と'Minas Geraes'や、ロックバンド編成でのバラードの'Menino'、アコギとストリングスによる浮遊感溢れる'Carro de Boi'、Toninho HortaとRonaldo Bastos作かつエレピが美しい'Viver de Amor'など、控え目に始まって後半盛り上げるという構成で出来た、ベタベタな歌い上げ曲が非常に素晴らしい。ナシメントの地声には震えみたいなものが感じられて、曲の出だしでそれを耳すると聴く側に方向不明の手探り感がもたらされるように思う。この点が、普通なら「くどい」と感じられる歌い上げバラードを、さもスリルのある曲展開であるかのように感じさせる要因だろう。技術というより天与の才なんだろうな、これは。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 経済発展によって不平等を解... | トップ | 公費に依存しない地域再生と... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音盤ノート」カテゴリの最新記事