クローズドノート(角川文庫)
★★★★:80(~85)点
妻が勤務先の友人からお借りした本を全く予備知識なしで読み、中盤以降はあまりの面白さにほぼ一気読みで読了した。物語終盤の展開は誰でもほぼ読めてしまう(想像がつく)ものの、ミステリー小説ではないと思うので、全く問題なし。それよりも、ああやっぱりそうだったんだなあという感慨の方が大きかった。良い本です。
***************** Amazonより *****************
自室のクローゼットで見つけたノート。それが開かれたとき、私の日常は大きく変わりはじめる――。『犯人に告ぐ』の俊英が贈る、切なく暖かい、運命的なラブ・ストーリー.
堀井香恵は、文具店でのアルバイトと音楽サークルの活動に勤しむ、ごく普通の大学生だ。友人との関係も良好、アルバイトにもやりがいを感じてはいるが、何か物足りない思いを抱えたまま日々を過ごしている。そんななか、自室のクローゼットで、前の住人が置き忘れたと思しきノートを見つける。興味本位でそのノートを手にする香恵。閉じられたノートが開かれたとき、彼女の平凡な日常は大きく変わりはじめるのだった―。
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真野矢吹先生の、人として、教師としての素晴らしさ。多分に優等生的ではあるが、初めての担任となったクラスの生徒たちや親と真摯に向き合う。そこから家族のようなクラスが次第にでき、一丸となって色んなことに取り組んで、一緒に泣き笑いする。矢吹が書いたノートを読む香恵を通じて、矢吹と4年2組の生徒たちの活き活きした姿が目に浮かぶようであった。
こんな先生が本当にいるのかな?若干甘過ぎるし、理想論かもしれないなと思っていたのだが・・・あとがきを読んで、この小説にはモデルがあり、それが著者の亡くなったお姉さんだったという話にはビックリした。本書に出てくる色んな文章や言葉も、お姉さんの原文をそのまま用いたりしている部分があったりと知って、本当にこんなにひたむきで、生徒たちからも慕われた先生がいたのかという感慨持つと共に、矢吹先生に対して一気に親近感を感じてしまった。仕事や恋愛に悩む姿も良い。そんな矢吹に共感し、勇気づけられる香恵も微笑ましい。私は矢吹先生がノートをつけていた日々(過去)と、それを香恵が読む日々(現在)の間にはてっきり数年の差があるとばかり思いこんでいたのだが。
ラスト近くの香恵の言葉と共に、矢吹を慕っていた元4年2組の二人の少女(絵里と君代)との会話のシーンが最も感動的だった。特に、ひきこもりから抜けだし、何とか頑張って学校に通っている君代の言葉が胸をうつ。
序盤は本邦初の(?)万年筆小説といった趣があり、これもとても良かった。ここをくどいと感じる人もいるだろうが、私は断固支持!バーチャル全盛・効率化第一の今日であるが、リアルとしてのモノの凄さや素晴らしさ、すぐれたモノに対する憧れの気持ちや愛着・こだわり、手仕事に対する誇り・矜持と畏敬の念などが実によく書き表されていたと思う。本作品では万年筆売り場から始まる人のつながりも大事なポイントでしたしね。万年筆職人&文具店社長の娘で香恵の先輩社員でもある可奈子さんも、頼もしくサッパリした人柄などが魅力的だった。
クローズド・ノートの意味は、直訳が閉じられたノートだとすると、矢吹によって書かれ、いったんは他の人の目にふれることなく閉じられたノートが、香恵の手によって再び開かれ、読まれ、そこから新たな物語が始まったということか。香恵と隆作による新たな物語がどうなるのかは分からないが、矢吹のノートは決して閉じられてしまったのではないとも思える。
本作品は青春ラブストーリーであり、教育論でもあり、モノづくり論でもあったと言えるのではないか。
教育論に関して、先日読んだ齋藤隆氏の「教育力」(感想未アップ)という本には、あこがれの伝染としての教育、あこがれにあこがれる関係づくり、教師自身が学び続けること・・・などの記述があった。たったの1年ではあったが、矢吹先生と4年2組の生徒の関係はこれに近かったのかもしれない。
また、「教育力」には専門的力量と人間的魅力が教師にとって不可欠の能力ともあった。新任の矢吹先生は、当然のことながら専門的力量はまだこれからであっただろうが、それを補って余りある人間的魅力とか人(生徒だけでなくその親も)を思いやる心があったのだろう。
教育とは生徒たちの心の中に何かを残すこととも言えますね。絵里と君代の言葉がそれを物語っている。「教育」は大変なことだろうけれど、人の人生や生き方を変え得る素晴らしい職業であることも再認識した。他の人とはちょっと違った読み方をしたかもしれないけれど、実に素晴らしい小説だと思う。絶対のオススメです。
◎参考ブログ:
エビノートさんの”まったり読書日記”
そらさんの”ひだまりで読書”
苗坊さんの”苗坊の徒然日記”
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