クライマーズ・ハイ(映画)
★★★★☆:90点
1985年8月12日、通信社の速報が第一報を伝える。「羽田発大阪行き日航123便が墜落した模様。乗客乗員524名-。」にわかに興奮のるつぼと化す編集局。全権デスクを命じられたのは悠木だった-。
~~~ パンフレットより ~~~
横山秀夫の名作を映画化した「クライマーズ・ハイ」を観てきました。原作が持っていた息詰まるような臨場感、圧倒的な迫力と熱気、凄まじいほどの情熱・使命感・責任感・エゴ・ねたみ・見栄・建前と本音のぶつかり合いをどれだけスクリーンに表現できるのか、期待半分・不安半分だったのですが、完成した作品は原作が持つそれらの魅力を出きる限り忠実に映像化した素晴らしい映画となりました。
横山原作がそれはそれは凄かったのですが、それを具体的な映像で見ると更に印象が鮮明になると共に、原作の凄さを再認識しました。映像化すると御巣鷹山の事故現場や救出シーンがもう少し多く出てくるかなとも予想していたのですが、原作通りあくまでも新聞社を主舞台にその人間模様をじっくりと描いたのが素晴らしかったです。
詳しくは以下に記していますが、ぜひ映画館で観てください!
【注意:以下、ネタバレあり】
主役トリオともいえる日航全権デスク・悠木を演じた堤真一、県警キャップ・佐山を演じた堺雅人、地域報道班部員・玉置を演じた尾野真千子の演技は素晴らしかったです。特に事故初日に助っ人・神沢と共にボロボロになりながらも墜落現場にたどりついた佐山の記者魂と取材ぶりの凄まじさ。絶望感・焦燥感・悲しみと狂気が渦まく現場を見た佐山と神沢が、身体も心もずたずたになりながら命がけで送った現場雑感は・・・。ここが一つの山場でした。そして神沢の悲劇・・・。
事故原因の大スクープをものにしようとする佐山と玉置も印象的でした。事故調メンバーが宿泊する旅館を山の中から双眼鏡で見張り、必死の接触を試みる。今のような携帯電話もなく、何か情報を掴むごとに、旅館や民家の電話を借りるために山を必死で駆け下り受話器にしがみつく姿にも記者魂を見ました。その胸中の興奮と震えの描写も見事。
回りを固めていた演技陣も素晴らしかったですね。販売局・局長:伊東を演じた皆川猿時のでっぷりと太った身体でくちゃくちゃとガムを噛み、にたにた笑う姿が出色。最初出てきたときは○ーさんかと思いましたが。編集局・次長:追村を演じた螢雪次朗、整理部の部長・部員コンビを演じた”でんでん”とマギーなども印象的でした。そうそう、ワンマン・エロ社長を演じた山崎勉はある意味怪物的な名演でした。西田尚美はちょっと幸薄い役柄がよく似合いますね。
新聞社内の描写ももちろん秀逸でした。大事件が起こったときの興奮。乱れ飛ぶ指示、我先にと飛び出していく記者たち。締め切り時間をにらみながらの紙面構成検討とひっきりなしの記事差し替え。怒号と喧噪、狂騒の空気がビンビン伝わってきました。編集局内での局長・次長・社会部長の立場とそれぞれの思惑。編集局と販売局の争い(これが秀逸)。悠木に対する反目と密やかな応援・支持。ダイナミックな描写に頭がクラクラでしたね。
事故原因・圧力隔壁説の極秘情報を特大スクープとして流すか否か。佐山が何とか食らいついた事故調委員の口調からも100%の確信が持てない中、時間的にもギリギリの状態に追い込まれた悠木。上司・仲間が固唾をのんで見守る中、彼が下した結論は!?映画ではこの部分の背景がちょっと説明不足かなという気もしました(原作ではもう少し丁寧な描写があったような気もします)。ここが2つめの山場でした。
途中に挿入される谷川岳の登山(岩登り)シーン。私自身学生時代に少し山登りをしていたこともあって、美しさと厳しさが共存した雄大な景色はとても印象的ではありましたが、映画としてはその映像に目を奪われすぎて多少本筋の方の印象が散漫になったかもしれません。もちろん、原作にもあった”とある”ハーケンの話は良かったのですが。安西父子を演じた高嶋政宏と小澤征悦はgood!
ラスト近くの遺書のシーンはさすがに感動的でしたが、全体的に過度に涙腺を刺激する作品になっていなかったのは良かったです。もちろん、これは原作通り。
◎参考ブログ
アイリスさんの”To be continued.アイリスの気ままに紡ぐダイアリー”