ひろの東本西走!?

読書、音楽、映画、建築、まち歩き、ランニング、山歩き、サッカー、グルメ? など好きなことがいっぱい!

ゲイルズバーグの春を愛す(ジャック・フィニィ)

2007-01-31 23:20:00 | 15:は行の作家

Geiruzu1 ゲイルズバーグの春を愛す(早川書房)
★★★★☆’:85点

「ふりだしに戻る」「時の旅人」といったノスタルジックファンタジー小説、時を越える物語で有名なジャック・フィニィの短編集です。最近、梶尾真治さんの作品(「つばき、時跳び」 未来(あした)のおもいで」など)をよく読んでいるのですが、ジャック・フィニィはそのモデルとなったような人です。

読んだのが図書館で借りた古~いハードカバー(かなり傷み&日焼けあり)だったこともあって、”全体にやや古めかしいかな?”という印象も受けましたが、非常に良かったです。

タイムスリップもの、あるいはタイムトラベルものと思いこんで読み出したのですが、そういう要素のみではなく、ノスタルジー・ファンタジー・モダンホラー・ユーモア・恋愛小説といった要素が散りばめられていました。全10編を簡単に評価すると以下のようになります。◎印を付した作品だけで評価すれば十分にオーバー90点クラスなのですが、短編集全体としての評価は5点低くなりました。短編集をどう評価するかは非常に難しいです。

 ◎ ゲイルズバーグの春を愛す
    悪の魔力
 ○ クルーエット夫妻の家
 △ おい、こっちをむけ
 △ もう一人の大統領候補
 ◎ 独房ファンタジア
 ○ 時に境界なし
 ◎ 大胆不敵な気球乗り
 △ コイン・コレクション
 ◎ 愛の手紙

「ゲイルズバーグの春を愛す」

 少しずつ近代化が進んできた街・ゲイルズバーグ。
 古いものは次第に壊され、失われていく。更に新たな変化が起こり
 そうになったとき、街から既に姿を消してしまった路面電車が、
 荷馬車に曳かれた旧式の消防車が、古い自動車が現れて現在を
 撃退する。
 街の抵抗・・・、街そのものが、街の過去の歴史そのものが近代化の
 流れを阻止しようとするとは!何という発想!
 古いもの・ことが全て素晴らしいというつもりはありません。
 しかし、歴史を積み重ねてきた街の力は凄いのである。熱烈支持!
 ※「クルーエット夫妻の家」も建物・家の持つ魂を描いています。

「独房ファンタジア」

 スティーヴン・キングのモダン・ホラー小説やその映画化作品
 「ショーシャンクの空に」「グリーン・マイル」を思わせる刑務所を
 舞台とした不思議な不思議な物語。
 刑の執行が7日後に迫った死刑囚が独房の壁に描いた絵の謎。
 このラストは誰にも予想できないでしょうね。

「大胆不敵な気球乗り」

 ジブリ映画を彷彿とさせる浮遊感が最高。
 家々の数メートル上を、街路を通り抜ける微風に乗ってカーブ
 していく感覚が素晴らしい。
 ゴールデン・ゲート・ブリッジのタワーの頂上に記されたイニシアル
 2つ。いいなあ。

「愛の手紙」

 先に読んだ梶尾真治作品はこの短編がベースだったのでしょうか。
 古い机に隠された3つの抽斗(ひきだし)。
 たった3回しかできないやりとり。
 ヘレン・ウォーリィが年月の隔たりを越えて伝えた気持ちに涙。
 この短さで、これだけ深い愛を描くとは!
 脱帽です。

「もう一人の大統領候補」

 宮部みゆきの短編集「我が隣人の殺人」の中の名作
 「サボテンの花」と少し似た味わいがありました。

「時に境界なし」

 送った人間が、すでに他の物体によって占有されている時空に
 現れるという危険がある-
 ハインラインの名作「夏への扉」に同じような表現が出てきた記憶が・・・。
 (違いましたっけ?)

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◎参考ブログ:

 tenncyann1gouさんの”本ミシュラン”
 和井八凪さんの”真・問わず語り的空飛び日記”
 mit_yamaさんの”もんと黄色MR-Sとのアンニュイな日常”
 36歳独身ニートさん(?)の”読書感想文”
 orange-skyさん(?)の”日本人ひとり駐在日記”
 月野ホネさんの”月野ホネ/ブックレポート”
 ベックさんの”読書の愉楽”
 sirius2xanaduさんの”羊@哀切系の『これが好き!』”
 四季さんの”Ciel Bleu”
 アカガネヒロさんの”A-METALical Days”
  ユキノさんの”時間旅行~タイムトラベル”
 ザムザさんの”きまぐれザムザの変身願望”
 


三井倉庫・富島倉庫

2007-01-27 23:50:00 | まち歩き

びんみんさんが”ミニマムのライトアップ”としてとり上げておられた川口の三井倉庫(+富島倉庫)です。但し、私の写真は2年半ほど前のものです。

安治川沿いは、有名な安治川トンネル(最近、”無人運転化”の話が出て物議をかもしていますが)も含めて非常に趣のあるゾーンです。以前、私が企画してランニング仲間と西区・此花区・港区を走ったときも、あえてここを通りました。

三井倉庫は3つの小さなアーチ窓(の跡)と下の大きなアーチ状の入り口(跡)が美しいです。そこに当てられた鉄(補強用と思われます)の下部の方など、デザイン的にも凄く味わい深いです。ここの煉瓦は割とオレンジ色っぽく見えるのですが、これは太陽光線の関係でしょうか。

>芸術村構想や異人町構想があったといいますが、今はどうなんでしょう。
                             (by びんみんさん)

  これは知りませんでした。
  そうなれば良いと思います。

この煉瓦倉庫の横にも近代建築があります。そこに会社?お店?があったのですが、ここは今どうなっているのかな?

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李歐(高村薫)

2007-01-26 23:58:00 | 13:た行の作家

Riou1 李歐(講談社文庫)
★★★★☆:85~90点

何という小説、何という人物(李歐)!
読んでいる間、ずーっと微熱を感じるような不思議な味わい・雰囲気の小説だった。

ちょっと自分では理解しきれない部分があったり、細かい描写をやや飛ばし気味に読んだ箇所があったりで、採点は85~90点という微妙なものとなりました。”そらさん”、ゴメンm(_ _)m
男性と女性ではこの小説のとらえ方・感じ方がやや異なるかもしれない。特に、李歐と一彰、原口と一彰の関係をどうとらえるかといった点で。ただし、男性だから分かるといったことではないのですが。

しかし・・・、二人の人物の15年にわたる友情というか心のつながりをこんな形で描くとは!こういう描き方があるのか!高村薫恐るべし。この驚きを評価すると90点とすべきかも。

【注意:以下、めちゃ長!&ネタバレあり】

モチーフとしての桜が非常に印象的。守山工場に咲く桜。守山耕三が作業の手を止めて始終眺めていた桜は、毎年、近所の人が花見に集うそれは見事な老木だった。耕三の死後は一彰が同じように眺めて様々なことを考え、感じる。そして、中国の大地に咲く5千本の桜。李歐が想いをこめた桜が一彰を中国へといざなう。
読んでいるときに、ふと”狂気の桜”? いや、違うな・・・などと考えていたが、文中に出てきた”桜の妖気”あるいは”そらさん”が書かれていた”桜の精気”がまさしくピッタリだった。私がこの作品に感じた微熱も、桜の妖気のせいかもしれない。

この本も感想を書くのが非常に難しいので、思いつくままに書かざるを得ない。

守山工場とそこを舞台とする生活描写(技術はあるけれど商売下手な町工場・・・)や人物描写(耕三、娘・咲子、一彰、一彰の母 etc.)は見事のひとこと。従業員や近所の人々とのつながりも丁寧かつリアリティを持って描かれていたと思う。何となく最後はみんな言葉少なくなってしまう花見のシーンが素晴らしい。李歐・耕三・一彰の”最後の晩餐”も妙に明るく、それ故に味わいがあった。これらの描写は一見簡単そうに見えるが、高村薫の観察力・筆力の賜物だろう。

また、一彰の機械や油の匂いに対する親しみ、名人芸の仕事で作られた作品(拳銃もそうなのだが)に対する憧れ・思い。原口と一彰の刑務所時代からの銃を共通項とした不思議な付き合いも面白かった。

さて、李歐なのであるが、小説でもこんな人物に出会ったことがない。

華麗に舞うかと思えば、あっという間に5人を射殺する非常な殺し屋。いい加減で無謀で大雑把なのに、呆れるほど悠々として拳銃大量横取りという大仕事をこなしてしまう剛胆さ。共産ゲリラとして密林に潜みながら、ケインズやサミュエルソン、国際経済や債権先物取引市場などの本を読み、ファイナンシャル・タイムズにも目を通す知識人。一彰に見せる屈託のない笑顔(アイルランド人の司祭に託した写真と言葉が胸をうつ)などなど。
一体全体、どのようにして李歐という人物が形成されたか、作品中にある程度の説明はあるのだが、やっぱり理解できない・・・。しかし、惹かれてしまうんですよね。
かつては李歐を使って(?)人を殺させた笹倉が、自分の手首を切り落とされても李歐の夢の実現のために配下になったのも印象的だった。

一彰はこれからもゆっくりと李歐の話を聞くことができるのだが、読者は李歐その人については依然分からないことだらけ。一彰のことは事細かに書き込まれているだけに対比が鮮やかで、後は読者の想像に委ねられているともいえるのであるが、若干もどかしさがある。

これまで読んだ高村薫の作品では、「マークスの山」「リヴィエラを撃て」は高く評価しますが、「黄金を抱いて翔べ」「レディ・ジョーカー」は気に入りませんでした。いずれも色んな賞を受賞しているのですけれど。

一彰の息子・耕太の姿に「リヴィエラを撃て」のリトル・ジャックのことを思い出しました。
少年よ(青年よ)、大志を抱け!

P.S.一彰が通っていた大学と学部、非常に親近感を覚えました(^_^)

********************** Amazonより **********************

出版社/著者からの内容紹介
李歐よ君は大陸の覇者になれぼくは君の夢を見るから――

惚れたって言えよ――。美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに22歳。しかし、2人が見た大陸の夢は遠く厳しく、15年の月日が2つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。

とめどなく広がっていく夢想のどこかに、その夜は壮大な気分と絶望の両方が根を下ろしているのを感じながら、一彰は普段は滅多にしないのに、久々に声に出して李歐の名を呼んでみた。それは、たっぷり震えてかすれ、まるで初めて恋人の名を呼んだみたいだと、自分でも可笑しかった。――本文より

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◎参考ブログ:

  そらさんの”日だまりで読書” ※4回に分けて感想を書いておられます。
  すかいらいたあさんの”無秩序と混沌の趣味がモロバレ書評集”
  さがみの日記さん(?)の”さがみの日記” 
  ざれこさんの”本を読む女。改訂版”(2008-9-10追加)


近代名建築で食事でも(稲葉なおと)

2007-01-25 08:00:00 | 本と雑誌

Inaba1近代名建築で食事でも(白夜書房)
★★★☆:70点

以前、写真集「アール・デコ・ザ・ホテル」を紹介した稲葉なおとさんの近著です。かつて、森まゆみさんの「明治・大正を食べ歩く」という東京の老舗を訪ねて食べ歩くご機嫌な本がありました。稲葉さんの本書もタッチや体裁は全く違うのですが、見て・読んで楽しく美味しい本です。

~帯から~

明治・大正・昭和の時代から今なお生き続け愛されている、東京の近代建築たち。
食事と喫茶を愉しみながら、撮り、書き下ろした、建築鑑賞紀行。
高級フレンチから学食まで。

~本書から~

明治政府の近代化政策とともに世に送り出され、昭和初期にかけて建てられた貴重な近代建築。東京にもまだ残るその何軒かは一般に公開されている上に中で食事も愉しめるとなれば、これはもう矢も盾もたまらなくなってしまった。近代名建築で食事をするなら、そこがまだ残っている今のうちなのである。

さてさて、取り上げられた建物とメニューは・・・

礼拝堂風学食で頭脳ランチ
  「立教大学・第一食堂」(カキフライ)
ラ・マンチャの味
  「小笠原伯爵邸」(歓迎のピカエタ)
総栂普請の暗殺の部屋
  「高橋是清邸」(うめとしらすのピラフ)
巨匠の作品に囲まれたバニーガール
  「九段会館」(キーマカレーサンド)
長屋門の邸宅で京菓匠の品
  「葛飾区山本邸」(つばらつばら)
有形文化財の地下実験室風食堂
  「東京大学・銀杏・メトロ食堂」(やわらかチキンカツ)
フランク・ロイド・ライトの妙技
  「自由学園明日館」(瓶ビールとグリッシーニ)
「口上」と「時雨西行」の合間に
  「歌舞伎座」(数限定幕乃内)
喧騒から隔絶したモダニズムの邸宅
  「原美術館」(骨付き仔羊のソテー)
忘れられた異端の建築家
  「ライオン銀座七丁目店」(焼きたてローストビーフ)
開かれたアール・デコの館
  「学士会館」(イチゴとラズベリーを添えたクレームブリュレ)
ジャコビアン様式に凍える
  「旧岩崎邸庭園」(白玉ぜんざい)
文化勲章受章画家の部屋
  「目黒雅叙園”旬遊紀”南風の間」(特製窯焼き北京ダック)
李王家東京邸の物語
  「赤坂プリンスホテル旧館”仏蘭西料理 トリアノン”」
    (緑のベールを着飾った仔羊のロースト)
六代目社長のこだわり
  「いせ源」(アンコウ鍋)
シャトー風邸宅の思い出
  「ロアラブッシュ」(二台のワゴン・デザート)

「明治・大正を食べ歩く」と比べると、高級なところも含まれているので多少気取った感じがしないでもありませんが、立教大学や東京大学の学食も含まれているのがいいですね。以前、立教大学を探訪したときは第一食堂は閉まっていて残念でした。私がまず行ってみたいのは、小笠原伯爵邸とライオン銀座七丁目店かな?

稲葉なおとさんの本は独特のムードがあります。建物の写真は全景写真も含めてもう少し大きめで数も増やしてほしかった気はします。ひとつ不思議だったのは、本文中に読点「、」が非常に少なかったことです。読点のない長い一文でどれくらいのものがあるかちょっと調べたら、240字くらいのものがありました。150字くらいの箇所は多数あり。あとがきなどはそうでもないので、これは意図的なんでしょうか。

★最近も世界各地のアール・デコ・ホテルを巡られたようで、「アール・デコ・ザ・ホテル」の続刊も期待したいと思います。


未来(あした)のおもいで(梶尾真治)

2007-01-20 22:20:00 | 11:か行の作家

Miraino1 未来(あした)のおもいで(光文社新書)
★★★★:80(~85)点

山(熊本県・白鳥山)という舞台が良かったです。山には世俗とは別の空気があり、別の時間が流れている感じがよく分かります。

滝水浩一と藤枝沙穂流。27年という時間の壁を超えた2人の出会いと愛。互いの想いを伝えるには、石灰岩でできた洞に置かれた箱の中の手紙しかない。

******************** Amazonより ********************
内容(「BOOK」データベースより)

熊本県・白鳥山。洞の中へ雨宿りに入った滝水浩一の前に現れた、美しい女性・沙穂流。ほんの束の間の心ときめく出会い、頭を離れないおもかげ…。滝水は、彼女が置き忘れた手帖を手がかりに訪ねてゆく。そこで、彼女と自分が異なる時代を生きていることを知るのだった―。時空を超えて出会った男女の愛をリリカルに描く、心に泌みる書下ろし長編ファンタジー。

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【注:以下、ネタバレあり】

27年前のデザイン大賞作品に自分が描かれていることを知った沙穂流。
「どうしたの。泣いているじゃないか、サーホ」
沙穂流は気がつかなかった。涙が溢れ出て頬をとめどなく伝わっていることに。
(私は愛されている・・・。想いは通じていた!----ひろ注)

そして、浩一は沙穂流の両親の、沙穂流は浩一の命を救おうと全力を尽くす。自分が行方不明になるとされた12月30日。浩一は沙穂流から白鳥山には登らないようにと釘を刺されていた。忠告通り待っていればまた沙穂流と会える日が来るのか。そして、浩一がとった行動は・・・。
♪必ず、最後に愛は・・・♪

この本は、「つばき、時跳び」のコメントでミナミさんからお奨め頂いた作品です。ヒロインの沙穂流は誰もが好きになるタイプの女性で、カジシン作品に出てくる女性は描き方が類型的と言えなくもないかな・・・。でも、いい娘(こ)なんですよねー。

梶尾真治はタイムトラベル・タイムスリップの理論的なこと、科学的なことにはあまりこだわらないタイプのようです(少なくとも表現上は)。もう少しボリュームがあったり、エピソードを増やしても良かったと思いますが、胸キュンの短編がカジシンの持ち味なのかもしれません。まだまだ読むぞー。

P.S.コーヒーは貴重ですね。

◎参考ブログ:ユキノさんのブログ”時間旅行~タイムトラベル”
         ケントさんのブログ”ケントのたそがれ劇場”
         ゆうきさんのブログ”本を読んだら”