「ふりだしに戻る」「時の旅人」といったノスタルジックファンタジー小説、時を越える物語で有名なジャック・フィニィの短編集です。最近、梶尾真治さんの作品(「つばき、時跳び」 「未来(あした)のおもいで」など)をよく読んでいるのですが、ジャック・フィニィはそのモデルとなったような人です。
読んだのが図書館で借りた古~いハードカバー(かなり傷み&日焼けあり)だったこともあって、”全体にやや古めかしいかな?”という印象も受けましたが、非常に良かったです。
タイムスリップもの、あるいはタイムトラベルものと思いこんで読み出したのですが、そういう要素のみではなく、ノスタルジー・ファンタジー・モダンホラー・ユーモア・恋愛小説といった要素が散りばめられていました。全10編を簡単に評価すると以下のようになります。◎印を付した作品だけで評価すれば十分にオーバー90点クラスなのですが、短編集全体としての評価は5点低くなりました。短編集をどう評価するかは非常に難しいです。
◎ ゲイルズバーグの春を愛す
悪の魔力
○ クルーエット夫妻の家
△ おい、こっちをむけ
△ もう一人の大統領候補
◎ 独房ファンタジア
○ 時に境界なし
◎ 大胆不敵な気球乗り
△ コイン・コレクション
◎ 愛の手紙
「ゲイルズバーグの春を愛す」
少しずつ近代化が進んできた街・ゲイルズバーグ。
古いものは次第に壊され、失われていく。更に新たな変化が起こり
そうになったとき、街から既に姿を消してしまった路面電車が、
荷馬車に曳かれた旧式の消防車が、古い自動車が現れて現在を
撃退する。
街の抵抗・・・、街そのものが、街の過去の歴史そのものが近代化の
流れを阻止しようとするとは!何という発想!
古いもの・ことが全て素晴らしいというつもりはありません。
しかし、歴史を積み重ねてきた街の力は凄いのである。熱烈支持!
※「クルーエット夫妻の家」も建物・家の持つ魂を描いています。
「独房ファンタジア」
スティーヴン・キングのモダン・ホラー小説やその映画化作品
「ショーシャンクの空に」「グリーン・マイル」を思わせる刑務所を
舞台とした不思議な不思議な物語。
刑の執行が7日後に迫った死刑囚が独房の壁に描いた絵の謎。
このラストは誰にも予想できないでしょうね。
「大胆不敵な気球乗り」
ジブリ映画を彷彿とさせる浮遊感が最高。
家々の数メートル上を、街路を通り抜ける微風に乗ってカーブ
していく感覚が素晴らしい。
ゴールデン・ゲート・ブリッジのタワーの頂上に記されたイニシアル
2つ。いいなあ。
「愛の手紙」
先に読んだ梶尾真治作品はこの短編がベースだったのでしょうか。
古い机に隠された3つの抽斗(ひきだし)。
たった3回しかできないやりとり。
ヘレン・ウォーリィが年月の隔たりを越えて伝えた気持ちに涙。
この短さで、これだけ深い愛を描くとは!
脱帽です。
「もう一人の大統領候補」
宮部みゆきの短編集「我が隣人の殺人」の中の名作
「サボテンの花」と少し似た味わいがありました。
「時に境界なし」
送った人間が、すでに他の物体によって占有されている時空に
現れるという危険がある-
ハインラインの名作「夏への扉」に同じような表現が出てきた記憶が・・・。
(違いましたっけ?)
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◎参考ブログ:
tenncyann1gouさんの”本ミシュラン”
和井八凪さんの”真・問わず語り的空飛び日記”
mit_yamaさんの”もんと黄色MR-Sとのアンニュイな日常”
36歳独身ニートさん(?)の”読書感想文”
orange-skyさん(?)の”日本人ひとり駐在日記”
月野ホネさんの”月野ホネ/ブックレポート”
ベックさんの”読書の愉楽”
sirius2xanaduさんの”羊@哀切系の『これが好き!』”
四季さんの”Ciel Bleu”
アカガネヒロさんの”A-METALical Days”
ユキノさんの”時間旅行~タイムトラベル”
ザムザさんの”きまぐれザムザの変身願望”