製鉄天使(桜庭一樹)
東京創元社
★★★★:75~80点
あの衝撃作「赤朽葉家の伝説」に出てきた赤朽葉毛鞠(けまり)と穂積蝶子。本作の赤緑豆小豆(あずき)と穂高菫(スミレ)。2つの物語が見事に重なる。
内容に関して殆ど予備知識なしで読んだので、「赤朽葉家~」での毛鞠と蝶子の物語と本作における2人の物語が大筋で同じなのに驚いた。双子のような作品かなとか、似ていても、いずれどこかで異なった形になるのではと想像していたら、まるで「赤朽葉家~」の追体験をしているようであったことに更に驚いた。。。「赤朽葉家~」のスピンアウト作品(既存の作品(本編)から派生した作品)のようだが、桜庭一樹が本作を書いた意図・目的は何だったのか?
Amazonのカスタマーレビューを見ると賛否が大きく分かれていたが、私は「赤朽葉家~」でも毛鞠の物語を最も面白く感じたので、追体験的とはいえレディースたちのハチャメチャで元気な物語を再び味わえるのは嬉しかった。当然のことながら前作よりもディーテールの書き込みが多く、会話の面白さも含めてそれを楽しんだ。私の解釈は、赤朽葉毛鞠が赤城山の山中で出会った男に、名前などを少しずつ変えて自らの物語を語ったといったところか。
新聞評で重松清氏が書かれていた”レディースの疾走感 荒く切なく”に、この作品の魅力が凝縮されていると言える。あるいは”女の心意気と純情”や”疾走する喜びと悲しみ”とも言えるだろうか。特に悲しみについては、スミレに裏切られた悲しみ、スミレを失った悲しみ、大人になってしまうことの悲しみ。。。総番のタケルがプロボクサーを目指して先に大人になっていく部分も印象的だった。
ただ、重松氏は「赤朽葉家~」との関連性のことを書かれていないが、これは意図してのことだったのか?
**************** Amazonおよび「BOOK」データベースより ****************
レディース〈製鉄天使〉を結成し、中国地方にその名を轟かせた伝説の女、赤緑豆小豆の唖然呆然の一代記。里程標的傑作『赤朽葉家の伝説』のスピンアウト長編、全貌を現す!
辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す―あたしら暴走女愚連隊は、走ることでしか命の花、燃やせねぇ!中国地方にその名を轟かせた伝説の少女の、唖然呆然の一代記。里程標的傑作『赤朽葉家の伝説』から三年、遂に全貌を現した仰天の快作。一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。
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鉄に愛された小豆。愛機の赤いバイクや鉄製武器が生き物のように動き、彼女の意のままに操られる。その不思議な面白さ。道に迷った山中の暗闇の中でも進むべき道が分かる小豆の能力。最後にはその能力を発揮して。。。荒唐無稽であるが、「赤朽葉家~」も不思議な不思議な作品であったので、私はそれらは全く気にならず。コミカルというかファンタジーと感じた。赤いバイクが”うぉん”と返事をするかのような音を出す忠義さが微笑ましい。
赤いリボン、赤い特攻服、鮮血・・・。やはり”赤”が印象的。また、総長・小豆がなかなかの美貌の持ち主であるのは「少女七竈と七人の可愛そうな大人」とも相通じると感じた。
真の中国地方統一を成し遂げた直後に忽然と姿を消した製鉄天使が赤城山の徳川埋蔵金発掘をしているのは痛快!サブキャラも良し。悪の花・スミレは別格としても、特攻隊長・花火、詩人&書家である(?)親衛隊長・ハイウェイダンサー、理論派の参謀・レディ。緑が丘中学の総番・大和タケルの最強にしての純情ぶり。その伯父でかつての伝説の総番・イチたち。
読み終わって新たに心に深く残るものは少ないが、元々そういうことを意図しての作品ではなかったのだろう。小豆の元気さを味わえれば十分であった。
◎参考ブログ
苗坊さんの”苗坊の徒然日記”