ひろの東本西走!?

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警官の血(上・下)(佐々木譲)

2009-06-02 23:26:36 | 12:さ行の作家

Keikan2_2Keikan1警官の血(上・下)(新潮社)
★★★★:80点(上:75点、下:85点)

上巻で描かれた戦後のドサクサ~昭和30年あたりの日本。貧しいけれどもある種の歪んだ熱気があり、ノスタルジックなムードもあって興味深かった。
安城清二の駐在所時代良し。
ただ、所々すっと数年が経過するシーンがある。これは小説としては効果的な反面、やや描き込み不足のようにも感じられ、ズッシリとした小説好きの私としてはちょっと物足りなく思った。

例えば、清二の息子・民雄が過激派学生グループへの潜入捜査で精神的に次第に追いつめられ、破綻をきたす経緯が不明な点などである。このあたりの感想は直木賞選評での井上ひさし氏のものと似ていた。また、他の評者も大作・力作と認めつつも、ミステリー仕立てにしたこと、それが物語の深みに繋がったかどうかといった点などで若干の疑問を呈する人が多く、これが惜しくも直木賞受賞に至らなかった理由だったようだ。ちなみにこのときの受賞作が桜庭一樹の「私の男」(ブログでの感想はこちら)。

昔起こった2つの迷宮入り殺人事件と父(祖父)清二の不審な死の真相をめぐる下巻は、上巻を読み終えてから2ヶ月以上経って読了。結果的には上巻よりも面白く感じ、ラスト200ページくらいはほぼ一気読みだった。

祖父・清二、父・民雄に続いて三代目の警官になった和也。マル暴担当の四課で”独立愚連隊”とも呼ばれる敏腕だが”汚れた刑事”の加賀屋、和也の恋人になった美人の救急救命士・永見由香。下巻では、特命を帯びた和也から見た加賀屋の仕事ぶり、その汚れの実態・真相にしだいに迫っていく様子が臨場感たっぷりに描かれていたことが実に興味深かった。加賀屋と由香がある意味で生き生きとしていたことが本作にリアリティと深みを与えたと思われる。加賀屋がもっと無茶苦茶なことをやるシーンがあれば、なお一層盛り上がったか。私は和也を裏切り、結局は逆に罠にはめられた人物が”ハチの一刺し”のような行動に出るのではと予想したのであるが、これは外れました。

終盤、和也はとある人物との対決で衝撃的な真実を知ることになる。最後の真実については上巻で多少なりとも伏線が張られていたのか?これは唐突の感が否めず、惜しいと感じた。

警察内部の不正や服務規程違反を取り締まる警務部や警務課の存在。数年後、和也もその捜査方法などで警務から事情聴取を受けることになるが・・・。
「親父さんをこえてるな。ふてぶてしい警官になった」
映画「LAコンフィデンシャル」のラストを彷彿とさせるシーンにニヤリ。

本作が佐々木譲の渾身の力作であることは間違いない。しかし、三代にわたる警察官の物語としては更にもう少しずっしりとした重みや深み、時の流れのうつろいなどを感じたかったというのが本音である。

◎参考ブログ:

   そらさんの”日だまりで読書” (2009-6-4追加)
   ほっそさんの”Love Vegalta” (2009-6-8追加)

*********************************** Amazonより ***********************************
帝銀事件が世を騒がせた昭和23年。希望に満ちた安城清二の警察官人生が始まった。配属は上野警察署。戦災孤児、愚連隊、浮浪者、ヒロポン中毒。不可解な「男娼殺害事件」と「国鉄職員殺害事件」。ある夜、谷中の天王寺駐在所長だった清二は、跨線橋から転落死する。父の志を胸に、息子民雄も警察官の道を選ぶ。だが、命じられたのは北大過激派への潜入捜査だった。ブント、赤軍派、佐藤首相訪米阻止闘争、そして大菩薩峠事件―。騒然たる世相と警察官人生の陰影を描く、大河小説の力作。

過激派潜入の任務を果たした民雄は、念願の制服警官となる。勤務は、父と同じ谷中の天王寺駐在所。折にふれ、胸に浮かんでくる父の死の謎。迷宮入りになった二つの事件。遺されたのは、十冊の手帳と、錆びの浮いたホイッスル。真相を掴みかけた民雄に、銃口が向けられる…。殉職、二階級特進。そして、三代目警視庁警察官、和也もまた特命を受ける。疑惑の剛腕刑事加賀谷との緊迫した捜査、追込み、取引、裏切り、摘発。半世紀を経て、和也が辿りついた祖父と父の、死の真実とは―。