ひろの東本西走!?

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猫を抱いて象と泳ぐ(小川洋子)

2009-05-30 23:32:26 | 10:あ行の作家

Nekowo1 猫を抱いて象と泳ぐ(文藝春秋)
★★★★’:75点

「博士の愛した数式」(映画の感想のみブログにアップ済み)で数学と数式の奥深さ、美しさを鮮やかに描いた小川洋子さん。その彼女がまたもや何とも不思議な物語を紡ぎだしてくれた。
私などにはとても考えつかないような物語・設定で、その想像力・イマジネーションに驚嘆。やっぱり作家は凄い!それにしてもチェスを題材にした小説のタイトルが「猫を抱いて象と泳ぐ」とは!これにもビックリだった。

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伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。

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チェス文学というジャンルもあるそうだが、この小説はチェスの世界を描きながらも恐らくはこれまでのチェス文学とは全く異なっているのだろう。リトル・アリョーヒンを主人公としたチェスの世界(宇宙)は静かで密やかで、温かさともの悲しさが同居している。しかし、数式の美しさと同様にチェスの美しさ、とくに棋譜の美しさが遺憾なく表現されていると感じた。

彼が最も憧れたロシアのグランドマスターにして”盤上の詩人”と呼ばれたアレクサンドル・アリョーヒン。その手を指した人物のすべてが投影されているというチェスの棋譜。”リトル・アリョーヒン”の存在を記すほとんど唯一の証拠となった国際マスターS氏との歴史的な対局と「ビショップの奇跡」。老婆令嬢との素晴らしい戦い。後年、更に老いてすっかりチェスのことを忘れてしまった彼女にリトル・アリョーヒンがチェスを教えるシーンは感動的だった。もちろん、チェスと共に素晴らしいのが心のふれ合い、心の奥底でのつながりだった。リトル・アリョーヒンと祖父・祖母・弟、チェスのマスター、少女・ミイラ、老婆令嬢、婦長・・・。

私はチェスも将棋も囲碁も指さないのであるが、チェスの1つ1つの駒を擬人化しての性格や役割が丁寧に描かれており、その魅力や奥深さも感覚としては良く分かった。取った駒を使える将棋とは異なって、チェスの場合は決着がつくまでの手数はかなり少ないのかな?27手でチェックとか出てきましたが。海底チェス倶楽部での人形”リトル・アリョーヒン”としての戦い。横で佇む肩に鳩を乗せた少女・ミイラ。人間チェスとそこで起こった出来事。不思議な不思議な世界でした。

また、この小説がとくに不思議な味わいを醸しだしているのは、身体が大きくなることへの恐怖が描かれていることだろう。屋上から降りることができなくなった象、壁の間に挟まれて動けなくなった少女、家がわりのバスの中から外へ出ることができなくなったチェスのマスター、チェス盤の下にもぐりこんでしかチェスがさせない主人公のリトル・アリョーヒン。。。私にはこれに秘められた意味合いはよく理解できなかったのであるが。

ミイラから届いた「e4」とだけ書かれた手紙。
あまりにも突然の終幕。
ロープウェイのゴンドラのすれ違いのシーンが哀切だった。エピローグ良し!

将棋・棋士を描いた小説としては過去に、難病と闘いながら29年の短い生涯を生き抜いた天才棋士・村山聖を描いた「聖の青春」(大崎善生)が素晴らしかったのですが、全く味わいが異なるもののチェスを題材にしたとても不思議で印象深い小説が誕生した。

◎参考ブログ:

   そらさんの”日だまりで読書”
   苗坊さんの”苗坊の徒然日記”(2009-6-28追加)
   エビノートさんの”まったり読書日記”(2009-12-28追加)