ひろの東本西走!?

読書、音楽、映画、建築、まち歩き、ランニング、山歩き、サッカー、グルメ? など好きなことがいっぱい!

ボックス!(百田尚樹)

2009-01-30 23:48:25 | 15:は行の作家

Box1 ボックス!(太田出版)
★★★★☆:90~95点

早くも私にとって今年度のベスト1級の作品が出た。舞台は、過去には強い選手も輩出したこともある大阪府立高校のボクシング部。そこで繰り広げられる二人の少年の栄光と挫折の物語。

アマチュアボクシングの世界をこれほど熱く激しく濃厚に、しかし瑞々しく描くとは!大絶賛である。

これまで青春スポーツ小説は色々読んできて、”野球”の「バッテリー」 (あさのあつこ)、”飛び込み”の「DIVE!」 (森絵都)、”陸上・長距離”の「風が強く吹いている」 (三浦しをん)、”陸上・短距離”の「一瞬の風になれ」(佐藤多佳子)、”サッカー”の「龍時」(野沢尚)など名作も多い。しかし、本作はそれらの中でも1・2位クラスかもしれない。

過去の名作群の中では「一瞬の風になれ」と似たテイストがあり、描き方は青春スポーツ小説としては極めてオーソドックスかつベタとも言える。「一瞬~」の感想で書いた中の、”勝利と敗北、喜びと悔い、歓喜の涙・うれし涙と悔し涙、才能と努力、先輩と後輩、友とライバル、教師と生徒”などは共通で、恋・思慕や憧れの要素もタップリ。

そして、ボクシングの持つ怖さ(実は恐怖心との闘い)や減量の苦しさ、試合シーンの迫力、自分をトコトンまで追いつめるストイックな部分などが本作ならではのものだろう。

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高校ボクシング部を舞台に、天才的ボクシングセンスの鏑矢、進学コースの秀才・木樽という二人の少年を軸に交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。二人を見守る英語教師・耀子、立ちはだかるライバルたち......。様々な経験を経て二人が掴み取ったものは!?

『永遠の0』で全国の読者を感涙の渦に巻き込んだ百田尚樹が、移ろいやすい少年たちの心の成長を感動的に描き出す傑作青春小説!

ボクシング小説の最高傑作がいま誕生した!

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鏑矢義平(カブちゃん:ボクシングをするために生まれてきたような少年)、木樽優紀(ユウちゃん:特進クラスの優等生。カブとは妙な親友同士)、高津耀子(ボクシング部顧問。英語の教師)。まずはこの主人公3人がとても良かった。昔から男2人と女1人の関係は「恋のトライアングル」となるのであるが、ここにマネージャーの丸野智子もからんで・・・。

【注意:以下、ネタバレあり!】

超高校級ボクサー・稲村に惨敗し、いったんはボクシングを捨てたカブ。その間に秘められた才能を見事に開花させる優紀。とあることがきっかけでカブはボクシング部に戻ってくるが、優紀との試合で思いもよらぬ敗戦を喫し、一大決心をする。その気持ちを悲痛な思いで聞いた耀子は・・・良いシーンでした。

終盤、稲村をおびやかすほどに優れたボクサーになった優紀だが、国体府予選の準決勝で果敢に挑んではね返され、打倒稲村の夢をカブに託す。決勝戦。日々進化するモンスター・稲村の強さに一度はあきらめかけたカブが、優紀の悲痛な声援と耀子のとある言葉に奇跡の奮起を見せ・・・。

最初、えらく分厚い本だなと思い、こんなに分厚い必要があるのかなと思っていた。だが、ボクシングの歴史、テクニックやトレーニング、科学的な部分とメンタルな部分、危険性と特殊性、高校生の大会、プロとアマチュアの違いなどのことがよく分からないと面白さ・魅力が半減したであろうし、人物をきっちりと描くのにこの長さが必要だったんだなと納得できた。説明的なものは主に沢木先生が耀子に話すスタイルをとっていたが、素人に説明するため読者にもとても分かりやすくて良し(防御の重要性を説く沢木がかつては伝説的なファイターだったとは!)。逆に、終盤はもっと書き込んで欲しかったとも思うが、キッパリと&スパッとしたストレートの切れ味は抜群であった。

ケンカ好き/ケンカっぱやい生徒が入部してきても、練習の厳しさに根をあげてすぐにやめていき、最初は冴えなくても、才能が無さそうでも、厳しい練習に我慢してついていき、基礎を忠実にマスターしたものだけが残る。そして、彼らが実際に少しずつ強くなっていく。最近の若い人の間では”ダサイ・面倒くさい”と簡単に切り捨てられてしまう”努力することの素晴らしさ、我慢することの大切さ”。みんな、我慢して・努力して強くなり、そして、しっかりとした人格ができて精神的にも成長していく。それらの描き方がとても良い。

どこか冷めたような感じであまり熱心に教えようとはしなかった監督の沢木が、優紀の隠れた才能と成長、まわりの部員たちのやる気を見て、次第に昔の情熱を取り戻す。先輩の南野(キャプテン)、飯田(次期キャプテン)、井手、野口たち。彼らもみんないいヤツで・・・。3年間遂に1つの勝利も挙げることなく卒業する南野。大学ではボクシングはやらないと言う彼が、最後のスパーリング相手にカブを指名する。

  カブ 「まさか南野さんのパンチをもらうとは思いませんでした」
  沢木「あれはラッキーパンチやない」「ほんまにええパンチやった」
  南野「もしかしたら、俺の生涯最高のパンチやったんかもしれません」
     「カブ。ありがとな」

部員達に愛されていたマネージャー・丸野の突然の死。その通夜のシーンが哀切。彼女がつけていたノートには部員達の特徴が克明にメモされており、それを知った部員達の泣き笑い。彼女の母がカブに語った言葉。自分の命が長くないことを知っていた丸野はカブに生きる喜び・躍動する輝きを感じ、自分の命をカブに託すかのように素直に好きと口にしていたのだった。「死んだら、俺の守護天使になるって-」 涙・涙・涙・・・。

3人がそれぞれの道を歩んでいるエピローグも味わいあり。インターハイ2連覇、高校3冠の伝説を作った優紀。高校8冠を目指してそれを豪語していたものの、ハードパンチャーゆえの怪我で無冠の帝王に終わったカブ。みんなを笑わせる明るさがあり誰からも好かれたカブにはせめて1冠を獲らせてやりたかったなあ。物語は優紀と耀子の一人称で綴られ、カブの真の思いが分からないもどかしさがあった故に、カブのことが最も気になり、印象に残った。そうそう、ざっくばらんで明るいカブの家族(特にお姉さん)もとても良かった。

  「その-カブラヤという人、どんな選手やったんですか?」
   石本が聞いた。
  「あの子は-」
   と耀子は言った。
  「風みたいな子やった」 

私、昔から格闘技は割と好きで、プロボクシングの世界戦は大体見ていました。この本を読むと、ボクシングも一度やってみたかったなあ・・・と、単純な憧れですけれど。メタボ克服のために今からでも健康ボクシングをやるか!?
百田尚樹氏は関西では深夜の超人気番組「探偵ナイトスクープ」等の放送作家とのことですが、これまで全くその名を知りませんでした。そこで早速、図書館で「永遠の0」を予約。

※思い入れだけで書いた長いけど支離滅裂な感想、失礼しました。

◎参考ブログ:皆さん、とても熱い感想を書いておられます。

   藍色さんの”粋な提案” (2009-2-11追加)
   ちきちきさんの”ぼちぼち” (2009-2-11追加)
   naruさんの”待ち合わせは本屋さんで” (2009-2-11追加)


序の舞(宮尾登美子)

2009-01-27 23:12:04 | 16:ま行の作家

序の舞(朝日文庫)
★★★★☆:85~90

今年最初の読了本は、美人画の画家・上村松園をモデルにした主人公・島村松翠(本名:島村津也)の生きざまと最高峰(日本人女性初の文化勲章受章)に登りつめるまでを描いた伝記小説の力作だった。宮尾登美子の小説を読んだのは「天璋院篤姫」に次いで確か2作目と思うが、素晴らしい!のひとこと。

まだ男尊女卑の気風も根強い明治~大正~昭和という3つの時代を、脇目もふらずひたすら絵を描くことによって駆け抜けた島村松翠(津也)。その人を見事に描ききった力作といえよう。もちろん、日本画やその世界(画壇の閉鎖性、流派の争い、東京画壇vs京都画壇の対抗意識、展覧会?での審査員と入選者の関係etc.)についても丁寧に描写されているが、やはり本質は人を描いた小説といえる。

物語の主人公は津也であるが、母の勢以が素晴らしい。ある意味では津也以上の芯の強さと逞しさを持った女性である。女手ひとつで茶舗「ちきりや」を切り盛りし、娘二人を育てる。そして、津也には世間から何と言われようと好きな絵に専念させ、自分は苦しい家計をやりくりし、彼女をひたすら支えることに徹する。言葉で書くと簡単なようであるが、その覚悟のほどの凄まじさ。三重苦を克服した「奇跡の人」の真の主人公はヘレン・ケラーではなく、奇跡を引き起こした家庭教師のアニー・サリバンなのかもしれない・・・というようなことを思い出させた。勢以の覚悟に応えた津也の生き方もこれまた凄まじい。恩師の松渓や西内太鳳。彼らとの微妙な師弟関係と男女の関係。徳二・桂三との激しくも実らなかった恋。松翠は恋多き女(ひと)というよりも恋深き女・情深き女だったか。その中にあって姉の志満は、いつもぼんやりとしてあまり何もできない人というイメージであったが、島村家の人々とっては、「つうさん、やっぱりえらいなあ。。。」と言うそのほんわかしたムードに心やすらかになったのであろう。また、後に出てくる嫁のます子も素晴らしい人物だった。

津也が2人目の赤ん坊を身ごもり、出産したときの勢以の態度・言葉が素晴らしかった。前途多難としか考えようのない津也と産まれてくる子供。しかし、その不安を押し隠して産むべきと言い切り、女の子であっても男の子であっても津也にはとにかく良いことだけを言おう、話してやろう、産まれてくる子供を心から祝福してやろうとの親心。母(祖母)としては当たり前かもしれないが、島村家を取り巻く厳しい環境を考えると、心ない非難は全て私が受け止めるというその覚悟のほどが見事である。

勢以-津也・志満-孝太郎(津也の息子)という三代の人物を描いているが、三代ものの小説には面白いものや秀作が多いのではないだろうか。三世代の家族を描くにはそれだけの年数の経過を描く必要があり、自然とボリューム感や深みが出る。また、どうしても幾人かの生と死が出てくるため、時の流れや時代の変化を感じると共に寂寥感なども出てくる。従って、どんな人物の場合でも、一大叙事詩といった趣が出るのだろう。例えば、大昔に読んだ船山馨の「石狩平野」。これは女三代記で(案外四代記だった?)細かな内容は全く覚えていないのであるが、凄かった。。。との印象は今も残っている。そうそう、最近も引き合いに出した桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」も女三代記の凄い小説でした。

私はライトな小説よりもどちらかと言えば読み応えのある小説が好きだ。本作のような伝記小説や歴史小説・時代小説などを書く場合、作者は登場人物だけではなく、背景となる歴史や地理、風土や風俗などを丹念に調べなければならず、その入魂の作品には頭が下がる思いである。本作のような小説を読む場合、こちらにも相当の気合いが要求されるが、それだけの価値あり。

◎参考ブログ:

  ほっそさんの”Love Vegalta” に、

    親子3代は物語になるなあベスト3(本) として、

      佐々木譲「警察の血」
      桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」
      宮尾登美子「序の舞」

    が挙げられていました。「警察の血」は図書館で予約中ですが、順番が
    回ってくるのはまだずっと先やろなあ。。。


川西市・火打の洋館-2

2009-01-25 21:50:30 | 近代建築

川西市・火打の洋館その2はI邸から南の方を探したらドンピシャで、徒歩数分のところにありました(同じ2丁目です)。南の方に歩いたのは、北方面は上り坂となっており、単純にこれを嫌っただけでしたが(汗)。

一見すると、テイストはその1の洋館と異なるようにも見えますが、急勾配の屋根はよく似ています。そして、屋根瓦の模様(ライン)を見た限りでは瓦自体は同一のものと思われます。こちらのお宅の方が様々な形状の屋根を組み合わせて複雑になっていますね。また、外壁についても、こちらのお宅は外壁仕上げに幾つかのタイプがありますが、メインとなる妻(破風)部分などはやはりドイツ壁(通常のモルタルリシン仕上げかもしれません)と両者に共通点があります。建築データは不明なのですが、両者は近い時期に建てられ、設計・施工も同じである可能性があるかもしれません。また、このお宅も玄関周りにちょっと変化を持たせており、そのデザインはユニークです(これは後から手を入れられたのかも・・・)。地元ではこの2軒のお宅は有名で、常にペアで語られる存在のようです。

この日はとても寒かったのですが、素晴らしいお宅2軒を拝見することができて、気持ちはポカポカでした。寒い中を出かけた甲斐がありました。

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川西市・火打の洋館-1

2009-01-24 22:43:15 | 近代建築

ネットで川西市の火打というところに凄い洋館が2つあると知り、午後から時おり雪がちらつく寒ーい中を出かけました。

1つは火打2丁目の勝福寺の門前にあるI邸でした。おおーっ、これは凄いインパクトがあります。マンサード屋根にドイツ風のスタッコ仕上げの外壁といえば良いのでしょうか。木部などのデザインもシンプルですが味わいがあります。玄関周りはポーチの屋根が和風、柱などは洋風という融合デザインのようですが、いずれもオーソドックスなものを少し崩したような不思議なデザインになっています。このようなデザインは初めて見ました。

最初、遠くからこの洋館を見つけたとき、洋風アパートかな?とも思いましたが、一軒のお宅のようです。かなり広い敷地内に別途、家が建てられており、現在はそちらをメインに住んでおられるのでしょうか。

建築年は昭和初期ですかね?いずれにしても、木製窓枠も殆ど残っているようですし、貴重な凄い洋館だと思います。お寺のすぐ前の洋館というのもユニークです。
そしてこの後、もう一軒の洋館を探しにとりあえず南の方を歩いてみるとにしました。

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私の男(桜庭一樹)

2009-01-20 22:22:00 | 12:さ行の作家

Watashinootoko1 私の男(文藝春秋)
★★★★☆:85~90点

2008年最後の読了本は第138回直木賞受賞作。凄い小説だった。
以前に読んで度肝を抜かれた同じ著者の「赤朽葉家の伝説」とはまた全く異なった味わい・肌触りで、暗く寒い冬の海そのもののような荒涼とした衝撃の問題作。最初、淳悟の北の方から来たとの言葉に、てっきり朝鮮半島かロシアがらみの話かと思ってしまった。

ちょっと東野圭吾の衝撃作「白夜行」にも似た雰囲気があり、そこに、不条理・禁断・耽溺、歪んだ家族愛・父娘愛(?)、業(ごう)や性(さが)といったものが折り重なった小説といえるだろうか。

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出版社 / 著者からの内容紹介
お父さんからは夜の匂いがした。
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。

内容(「BOOK」データベースより)
優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る―。黒い冬の海と親子の禁忌を圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂。

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【注:以下、ネタバレあり】

現在から過去に遡っていく描き方は、新しい手法ではないものの本作においては非常に効果的。昔は”一応”同僚や親戚との付き合いもあり、海上保安官として働き、まがりなりににも普通の生活を送っていた淳悟。彼が花と出会い(再会し)、一緒に暮らすようになり、関係を持つようになってからは次第に他の人とも疎遠になっていく。そして、大きな2つの事件を経て、淳悟が次第に精神的にも壊れて破綻していく様子がよりリアルに感じられ、ゾーッとした気分も強まった。淳悟が花を引き取り、公務員宿舎に引っ越して、これから二人だけの生活が始まろうとするラストシーン。そこには希望とか明るさも感じられるだけに、その後の(小説としては前の方の章であるが)物語の異常さ、切なさがかえって胸に迫る。

各章で語り手の異なる一人称の文体になっているが、その人物が変わっていく(淳悟であったり、花であったり、美郎であったり、小町であったり)のも面白かった。美郎や小町が語る部分は真相が明らかにされないため、読者は様々に推理・想像することになり、それがより不可解さ・不気味さを増すことにもなっていたように思う。ただ逆に、花が美郎と結婚するに至った(淳悟から離れようとした)経緯も明確には描かれず、これにはもどかしさが残った。

直木賞の選評で林真理子氏が書いておられたが、この小説を生理的に受け付けない人も多いかもしれない。世間での評価もかなり分かれているようだ。しかし、私は「赤朽葉家の伝説」同様に支持。ただ、読後のブッ飛び感では前作の方が大きかった気も。

また、同じく直木賞選評での井上ひさし氏の解釈には、うーーーんと唸ってしまった。淳悟がなぜあれほど母の愛に飢えていたのか、その出自に大いに関係あるのだろうが、著者はそれについてもハッキリ書いていない。井上ひさし氏の解釈が正しいのかもしれない。淳悟の実の母はいったい誰?

淳悟の行方、これからの花の人生など、読者に解釈を委ねてしまうような描き方。読後は不完全燃焼にも思えたのだが、筆者の術中にはまったということか。

また、とある人物の思いも寄らぬ形での帰還には、映画「太陽がいっぱい」のような恐怖を感じた。このゾーッと感が最大だったかもしれない。

◎参考ブログ

   エビノートさんの”まったり読書日記”
   苗坊さんの”苗坊の徒然日記”