名もなき毒(幻冬舎)
★★★★’:75~80点
この本も2日で読了。途中、ちょっと長いかなとも感じましたが、中盤以降は良かったです。前作「誰か」の自己評価を調べると、★★★★:80点にしていました。続編ということもあって、やはり新鮮味にやや欠けることと、2つの事件(1つの事件と1つの大きな出来事?)が必ずしもうまく結びついていないような気もしましたので、その分ちょっと減点かな?いや、前作に比べて劣るということはないのですが。「今夜は眠れない」よりは高く評価します。
終盤、とある人物が杉村の不在時に家に来た(来ている)との電話がかかってきたときの怖さは出色。ディック・フランシスの「再起」で、とある人物がシッド・ハレーのアパートを訪ねてきたシーンの驚きとゾゾーっとする恐怖感と似ていましたね。ここは映画的とも感じました。
この作品では連続無差別毒殺事件が描かれているのですが、私には”トラブルメイカー”原田いずみが引き起こす様々な事件やトラブルの方が印象的でした。どのようにして彼女のような人格(周りのもの・人、その全てに対して怒りをぶつけて自分を正当化するる)が形成されてきたのか。何故これまでどうにかこうにかやってこれたのか(?)・・・。編集長の園田瑛子が言った「(兄との関係について)本当だったのかもよ」との言葉。真相が明らかになることはなかったのですが、このあたりはもう少し丁寧に描いて欲しかったと思います。
印象的なシーン:
ケンジぃーと、社長は呼んでいた。
「大丈夫、だからなぁ」
両手を口に、らっぱのようにあてて、大きな声で叫んでいた。
「心配するなぁ。」ちゃんと、やって、やるから。祖母ちゃんのことは、
引き受けた、からなぁ」
外立君は頭を上げなかった。
いい社長さんでした。
連続無差別毒殺事件、ネットによる毒劇物の販売、土壌汚染、シックハウス症候群、貧困、そして原田いずみのような人物、心の中の毒?・・・多くの社会問題を含む現代ミステリーなのでしょうが、これらをひっくるめて”毒”と呼ぶべきかどうか、私にはピンとこずでした。
当然のことながら、全体的には前作「誰か」と似た雰囲気だったのですが、毒殺事件被害者の孫・古屋美知香、元気娘の”ゴンちゃん”こと五味淵まゆみはgoodキャラ。編集長の園田瑛子、副編集長・谷垣も良い味を出していました。
杉村三郎の社内での微妙な立場、家庭での妻との微妙なバランスは前作と共通で、それが不思議なムードを醸し出していました。宮部さんは様々なタイプの空気・ムードを作り出すのが非常にうまいですね。彼女の時代物は未読なのですが、やはりその手腕は凄いと思います。
◎参考ブログ:
エビノートさんの”まったり読書日記”
※目に見えない”毒”、人の心の奥底に潜む”毒”などの考察が
見事です。
苗坊さんの”苗坊の読書日記”
※ゴンちゃんの評価が高いです。同感!
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どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生だった。