海炭市叙景
★★★★:80点
久々の映画感想です。
自宅から徒歩10分強の場所にありながら、これまで行ったことがなかったミニ・シアター「シネ・ヌーヴォ」で「海炭市叙景(かいたんしじょけい)」を見てきました。少し前の新聞夕刊でこの映画の評を読み、これは面白そうと思って出かけたものです。
ちなみに、先日発表された2010年度キネマ旬報ベスト・テンで日本映画の第9位に選出されています。
映画の公式サイトはこちら
******** <ストーリー>公式サイトより ********
その冬、海炭市では、造船所が縮小し、解雇されたふたりの兄妹が、なけなしの小銭を握りしめ、初日の出を見るために山に昇ったのです…。
プラネタリウムで働く男は妻の裏切りに傷つき、燃料店の若社長は苛立ちを抑えきれず、父と折り合いの悪い息子は帰郷しても父と会おうとせず、立退きを迫られた老婆の猫はある日姿を消したのです…。
どれも小さな、そして、どこにでもあるような出来事です。
そんな人々の間を路面電車は走り、その上に雪が降り積もります。
誰もが、失ってしまったものの大きさを感じながら、後悔したり、涙したり、それでも生きていかなければならないのです。
海炭市でおきたその冬の出来事は、わたしたちの物語なのかもしれません。
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函館をモデルにした北の町、海炭市を舞台にした日本映画らしい情感あふれる作品だった。映画全体を覆うややもの悲しく暗いムードは、冬の北の町という季節・風土とも関係しているのかもしれない。
しかし、生きるということは何と厳しく、切なく、哀しいものなのだろう。自分の思うように生きることができなかったり、一生懸命生きようとしても空回りしたり・・・。ここで描かれた5編では、小さな喜びはあるものの、悲しみ、怒り、いらだち、虚しさ、あきらめ、無常感、疲労感などが際だっていたように思う。特に、「まだ若い廃墟」(谷村美月ほか) と「裂けた爪」 (加瀬亮ほか)の2編が強く印象に残った。若い兄妹には貧しくとも幸せに暮らして欲しかったのだが・・・。
プラネタリウムや市電のシーンなどで数組の登場人物がわずかにクロスするのであるが、映画的にはもう少し接点を持たせても良かったかとも思う。
谷村美月さん。映画「ボックス!」の感想でも少し書いたのであるが、この若手女優さんはちょっと古風な雰囲気の役をやらせると抜群に上手い気がする。一番身につまされたのは、仕事で家庭で様々な問題を抱える加瀬亮の苛立ちだろうか。ただ、全般的にはもの悲しい結末の物語ばかりであるが、やはり最後は人が拠るべきところは家族なんだろうなとか、頑張って生きていればそのうちにちょっとは良いことも起こるんだろうなと感じた。市電で、夫婦が親子が並んで座っているシーンに僅かな光を見たような気もする。
ミニ・シアター系劇場での公開だが、この映画がキネ旬をはじめとしてベストテン入りしたり、幾つかの賞を受賞しているのは嬉しく思う。
◎参考ブログ
苗坊さんの苗坊の徒然日記(2011-3-24追加)
*原作について書かれています。
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「シネ・ヌーヴォ」は確かマンション(orビル)の地下にあり、最初、ちょっと場所が分かりませんでした。昔よく行った名画座(大阪では「戎橋劇場」や「大毎地下劇場」などが有名でした)ともちょっと違った雰囲気でした。これがミニ・シアター系映画館の佇まいなのでしょうか。映画関係の色んな雑誌や本も多数並んでいましたし、近所の方を中心に根っからの映画好きの人が集まっているようでした。
しかし、当地に住んで10数年、すぐ近くにこんな映画館があったとはなあ。。。
新鮮な驚きでした。