ひろの東本西走!?

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劔岳 点の記(映画)

2009-07-16 01:08:06 | 映画

劔岳 点の記(映画)
★★★★’:75~80点

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~写真は、映画の公式サイトより~

日曜日の夜、レイトショーで話題の映画「劔岳 点の記」を観てきました。新田次郎の原作を読んだのは20年以上も前なので、細部はすっかり忘れていたものの、劔岳の美しさと険しさ、山の怖さ(天候の急変、雪崩、強烈な風雨 etc.)、山での測量の大変さ、地図の空白部を埋めるためと言いながらも初登頂の名誉にのみこだわる陸軍上層部のエゴなどがよく描かれていたと思います。

剱岳は私の最も好きな山の1つです。眺めて良し、登って良しの名山で、現在でも容易にはたどりつけない奥深さとゴツゴツした岩が魅力ですね。映画では雲海、岩峰、裏劔(?)の池越しの眺めなどが限りなく美しかったです。四季のうつろいも見事。柴崎たちが測量をしている間、案内人たちがのーんびりとタバコをふかしたり昼寝をしたりしているシーンも何となく好きでした。

それにしても、殆ど山の中ばかりの淡々とした静かな(ところどころ厳しい自然のシーンはありますが)映画をよくぞ作ったものですね。私のような山好きにとってはこたえられないシーンばかりなのですが、そうでない人にとってはどうだったのでしょうか?人間ドラマ部分が実に丁寧に作られていたので、誰もが楽しめる映画になっていたのかな?

さて、俳優と演技について。宇治長次郎を演じた香川照之は完全にその人になりきったかのような素晴らしい演技でした。山に生きる長次郎は山を愛し、山を敬い、山に対する洞察力やカンも優れている。皆から信頼され、統率力もあるが、あくまでも謙虚で人柄も良し。どんなに厳しい状況でも測量部の人間の安全第一を考えている。演技と言うよりも、まるで長次郎その人に同化してしまったかのような感じでしょうか。凄い役者さんです。浅野忠信演じる柴崎も、誠実な人柄と口数は少ないが決して仕事をおろそかにしない責任感と意志の強さなども感じさせてgood!先輩・古田役で柴崎を励まし、良き理解者として様々な助言をする役所広司は頼もしさと清々しさが印象的。柴崎の新妻役の宮崎あおいは可憐で美しく、小澤征悦の軍服姿は凛々しくて立派でした。生田信役の松田龍平は最初ちょっとどうかなとも思ったのですが、どんどん良くなっていきました。その他、脇の人たちも素晴らしかったです。

***************** ストーリー(Cinema Scape より)*******************

新田次郎の同名小説を数多くの撮影を手がけた木村大作が映画化。明治39年、日露戦争に勝利した陸軍参謀本部は国防の要となる日本地図で唯一の空白地、前人未到の劔岳を測量せよと測量官柴崎浅野忠信に命じた。秋、柴崎は現地の案内人・長次郎香川照之と周辺の下見に行くが山頂への登り口さえ見つけられずに帰還、登頂は困難と報告書を提出。折りしも日本山岳会の小島仲村トオルも欧州から最新の機材を持ち込み劔岳初登頂を目指していた。陸軍参謀本部は「民間人の遊びに負けることはあいならぬ。軍の威信にかけて劔岳初登頂を果たせ」と厳命。そして明治40年春、柴崎・長次郎らの測量隊は劔岳山頂へむかう。

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柴崎たちは単に登頂することだけが目的ではなく、27ケ所に三角点を埋めてやぐらを組み立て、測量しなければならず、それ故に半年もかかる大仕事である。つまり、夏の登りやすい時期だけ行動すれば良いのではなく、春~秋(初冬)という長い期間の活動となる。従って、その間には雪があったり激しい風雨があったりと壮絶さが伴うことになる。自分たちで背負う測量の器具などは長くて重そうだし、我々が真夏によく整備された登山ルートを登るのとは全くの別物であることを改めて認識しました。そして、山岳会の動きが気になりながらも、本来の自分たちの仕事を一切手抜きせずきちんとやり遂げようとする柴崎たちに、職業人&専門家としての意地とプライドを見た気がします。また、全体的に明治人のダンディズムのようなものなども感じました。

登頂の瞬間は映画ではあえて描かれずでした。これは登頂が真の目的ではないとの意図か?ただ、映画的にはちょっと拍子抜けの感が否めません。ですが、登頂の直前に長次郎が柴崎に先頭を譲ろうとした姿は、その表情と言葉に人柄が表れていてとても良かったです。日本山岳会(小島烏水たち)との関係はほぼ原作通りと思われるものの、ラスト近くの手旗信号による祝福メッセージとその返礼は映画オリジナルでした。映像的には良かったし感動的だとも思いますが、ここは原作通りに、電報による祝福の方がしみじみとした味わいがあったように感じました。

ロケ地についての予備知識は全くなかったものの、電車のシーンなどでは「おっ、このカーブの感じは明治村かな?」と思ったら、実際にその通りだったようですね。今回はパンフを買わなかったのでロケ地のことはよく分からないのですが、軍の建物などはセットだったのでしょうか?なかなか良い佇まいだったので、ひょっとして江田島?かとも思ったのですが。また、音楽にはヴィヴァルディの「四季」やバロックの曲などのクラシック音楽が使われ、これも良かったです。

新田次郎の山岳小説では「孤高の人」や「八甲田山 死の彷徨」、「聖職の碑」などの方が好きでしたが、この映画は素晴らしかったですね。

ちょっと季節はずれですが、1992年の手作り年賀状(byプリントごっこ&色鉛筆)はデザインが劔岳でした。おそらく1991年の夏に2度目の劔岳登山に行ったものと思われ、それを記念して年賀状に用いたようです。空白部は何となく白い雲海があるようにも感じられ、これはこれで結構自分で気に入っています。

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◎参考ブログ:

   shimoさんの”ランシモ”