ひろの東本西走!?

読書、音楽、映画、建築、まち歩き、ランニング、山歩き、サッカー、グルメ? など好きなことがいっぱい!

蒼煌(黒川博行)

2005-06-29 21:56:00 | 本と雑誌
soukou蒼煌(文藝春秋)
★★★★’:75点

日本芸術院会員の補充選挙をめぐる画壇のドロドロした争いを描いた異色作。
選挙戦、派閥抗争、情実審査(弟子・愛人!)など内輪ものとしては抜群の面白さです。

「芸術院会員は棚から落ちてくるぼた餅とちがう。私は会員に立候補しますと手を挙げて、生命を削るような運動をせんと絶対になられへん」
「室生先生、一億円を撒かんとあかんのでっせ。投票まで二月半。もうピストルや機関銃はあきまへん。大砲を撃つんですす」
「十万なら突っ返しても百万なら受け取るのが人間というもんですがな。なんぼ棺桶に片足突っ込んでたかて、金は邪魔にはなりまへんわな」
「ありがとうございます。このご恩は決して忘れはいたしません」「室生さん、それをいうのは選挙に勝って日本芸術院の玉砂利を踏みしめたときです」

やわらかな京都弁ですごい会話がボンボン飛び出してきます。
これだけでも読む価値はあるかもしれませんね。

「白い巨塔」の大学教授戦よりもはるかに生々しく露骨な接待・賄賂。また、それを要求する側もすごいもので、票を握っている人間はしたたかです。票を握っている画家の絵の購入はもちろんのこと、現金・掛け軸・壺・花瓶をせっせと贈り、弟子の大学やカルチャースクール講師の話をとりまとめるなど涙ぐましい努力。
あの寺の障壁画を僕に描かせてもらえないかね・・・なんていうのまであります。

1件で数千万円単位の金が動くこともざら。当然、選挙参謀なるフィクサーも暗躍するし、弟子や取り巻きたちも奔走します。みんな自分への見返りを期待してのことなのですが・・・。

芸術センスや技量が優れているだけでは一流になれない。政治力、運、上からの引き、押しの強さ、あくどさなどありとあらゆるものが必要です。もちろん、お金も。
登場人物はみんな物欲・権威欲・名誉欲のかたまりです。魑魅魍魎や古ダヌキの集まりといったところでしょうか。
ただ、そんな人間ばかりだからか、読んでいても「おー、そこまでやるか」と思うだけであまり嫌悪感などはありません。室生の対抗馬の稲山も自分が収集したなけなしの逸品を贈る作戦に出るのですが、人柄がよい分すごくまともで善人に思えてしまいます。

さてさて、すべて自腹を切って必死に戦った室生先生ですが・・・。

芸術家は年をとってもボケてなんかいられないようです。
ボケてたらお金もたまりませんしね。
めざせ、文化功労者→文化勲章→冠美術館!
ああ、恐ろしー。。。

この作品で描かれている内容のどこまでが本当なのかな。かなり誇張して面白おかしく書かれているとは思いますが、著者は京都市立芸術大学卒ですし、うーん。
深く心に残るといった小説ではありませんが、面白いことは間違いなしです。



DEVOTION(スターダスト・レビュー)

2005-06-28 22:07:12 | 音楽
devotion私のお宝CDのうちの1枚で、さきの入院中に一番よく聴いたのがこのCDです。

HMVレビューより
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ライヴではお馴染みになっているスタレビのア・カペラ・コーナーですが、今回その発展版としてこのアルバムが生まれました。全くの声だけではなくサンプリングやピアノという音も少し入っているので、彼らはヴォイス・オーケストレーションと呼んでいます。ずらりと並んだ12曲は、いずれも彼らが深く感銘を受けた曲。それらを「DEVOTION」=愛着を込めて歌ったのが本作です。アイルランドやアメリカの民謡からブラジル音楽、バート・バカラックにビートルズ、ディズニーもあれば竹内まりやまで…。
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上を向いて歩こうやスウィート・メモリーズが入った同様なア・カペラCDの「CHARMING」も名作だったのですが、それを上回る素晴らしい出来映えです。アレンジ、ハーモニーともに絶妙の味わい。

ボーナストラック的なクリスマスソングも良かったのですが、ダニー・ボーイ、IN MY LIFE、雨にぬれても、元気を出して、不思議なチ・カ・ラ、ジャスミンが出色です。
とくに、元気を出して、不思議なチ・カ・ラ、ジャスミンの3曲はこれまでに何十回聴いたことか。
このCDを聴くと、心が安らぎ、元気が出て、不思議な力もつきます。絶対のオススメ!



ルパンの消息(横山秀夫)

2005-06-27 23:10:00 | 17:や行の作家

rupanルパンの消息(カッパノベルス)
★★★★’:75点

サントリーミステリー大賞(1991年)佳作となった横山秀夫の“幻の処女作”。
約15年前の作品を改稿したとのことですが、後年の傑作群と比較すると、やはり全体の深み・味わい・ムードといった点に乏しいでしょうか。人物の描き込みにもそれが当てはまります。
3億円事件も重要なファクターなのですが、ちょっと扱い方が変則的で散漫になったような気も。
但し、これがなかったら薄っぺらな事件(各種設定にもかなり無理あり)とも言えるのですが。

しかし、終盤の謎解きとドンデン返しは見事でした。いったんこれで解決かと思わせておいて・・・。鑑識のヤナさんのひとことで事件が再び動き出す。そしてとっくに時効になった3億円事件にもあっと驚く新展開が・・・。
このあたりはなかなかの追い込みで、さすがは横山秀夫と思わせるものあり。もう少し緊迫感とムードが伴っていたら、より一層盛り上がったと思います。
秋間幸子については、全く考えも予想もせず完敗。お見事。

以下、参考ブログにあげた”ゆきうさぎさん”とは異なった観点で刑事たちを中心に感想を書いてみると、

班長の溝呂木は、「第三の時効」の3人の凄腕班長(朽木、楠見、村瀬)の強烈なキャラクターに比べると全然物足りなかったです。しかし、事件が煮詰まってくると小部屋に一人こもって誰も寄せ付けず誰の意見も聞かず、一人で考えて考えて考え抜くという「六角堂」のエピソードは良かったです。部下のコントロールはさすが。

上野で巣鴨で、重要な2人を見つけた谷川(溝呂木班の末席刑事)と新田(所轄の新米刑事)。「ルパン」「ルパン三世」といったひねりもあっただけに、ここはもうちょっとじっくりと描いてほしかったところ。
大抜擢で鮎美の取り調べをまかされた谷川。それまで二人の被疑者の取り調べ競争にカリカリきていた寺尾。谷川の補佐役に回された寺尾の焦り・やっかみが秀逸でした。「ウタうな!」

事件が(一応)解決した後、同じ溝呂木班の主任刑事でありライバルでもある寺尾と大友の会話も味がありました。
  「寺尾-」「ん?」「何か食いに出るか」
         :
  「大友-」「なんだ?」「病院に行ってみるか」
         :
  「いや、ラーメン屋だ」
このシーンは「第三の時効」の第4話(密室の抜け穴)での東出と石上の会話を思い出させてくれました。東出と石上の方がもっとライバル心むき出しでしたが。

刑事訴訟法225条(その他の理由による時効の停止)は結構有名かもしれませんが、これも「第三の時効」で再び取り上げられています。

傑作と信じてやまない「第三の時効」につながるエピソードが幾つかあったとして、これは高く評価しましょう(^_^)。
また、横山の持ち味である警察内部のドロドロした部分もきちんと描かれていました。

ああ、また長文かつまとまりなし。
感想文ではなく、書評らしい文章を書けるのはいつの日か。。。

参考ブログ:ゆきうさぎさんの♪ウサギ・絵・花・本・ケータイ写真・・・♪
        本の虫さんの”本の虫” (5/10追加)


九州遺産(近現代遺産編101)

2005-06-26 18:20:00 | 本と雑誌
kyuusyuuisankassuigakuin






九州遺産(弦書房)

九州本土7県の近現代遺産101点が豊富なカラー写真と共に紹介されている本です。
本書によると、近現代遺産とは、原則として幕末から1955年(昭和30年)までに建造・製作された産業、交通運輸、軍事、政治、教育、文化、生活等の近代化に関わるか、寄与した建築物・土木構築物・施設などのことです。

今回選定されたものは、
 ・意匠が美しいもの、時代背景を物語るもの、関わった人びとの心情に
  触れることができるもの
 ・保存活用されているもの、保存活用に値するもの、今後失われるならば
  記録しておきたいもの
が対象です。

具体的には、ダム、発電所、橋、鉄道施設、機関車、鉱山・炭坑施設、工場施設、軍事遺産、各種の建築物(学校施設、宗教施設、商業施設:銀行・ホテルなど)です。
有名どころでは、門司港駅や旧門司税関、雲仙観光ホテルが挙げられていますが、それら以外の全国的には無名の、山奥にひっそりと佇んでいるような土木構築物などがことのほか素晴らしいです。

建築関係の本は言葉でいくら説明してもダメなんですよね(^_^;
建築や土木に興味のない人でも、写真を見れば、「あっ、昔こんなの田舎で見たことある」とか「近所に似たような建物があるけど、長い歴史があって大切なもんなんやな」などと感じられるかもしれません。
ちょっとでもそのような感想を持ってもらえたら建築ファンとしては嬉しゅうございます。
ただ、この本は大きな書店にしか置いてないやろなあ。建築本の宿命か。。。

そうそう、映画「解夏」で出てきた「活水学院本館」の建物がこの本でも取り上げられていたのです。
こんな素晴らしい建物が大正15年築とは!
しかも現役バリバリらしいのが最高です。
(右側の写真は活水女子大学のホームページより)

※小説の感想文を書く予定でしたが、変更しました。




解夏(映画・DVD)

2005-06-26 12:40:01 | 映画
gege解夏を見ました。★★★☆~★★★★’:70~75点

あえて言えば、難病(ベーチェット病)を題材にした純愛映画でしょうか。
つらいシーンはあるのですが、あまり深刻になりすぎず、淡々とした静かな描写が美しい長崎の風景と相まって印象的でした。同じ題材でも、アメリカ映画だったら異なった描き方をするだろうなと思いながら見ていました。
その意味で日本的な映画でしたね。

ストーリーは類型的とも言えるのですが、主人公の大沢たかおの脇を固める俳優が良かったです。彼の目となることを決意した陽子の大きな愛。石田ゆり子は理知的で頑固で愛くるしい陽子役にぴったりでした。
田辺誠一 :友として、べたつきのない明るい接し方が好ましい
渡辺えり子:ほどよい笑いを提供
松村達雄 :久々にお顔を拝見。枯れた味が見事。隆之にとってこれからの人生の師
        となるのか
富司純子 :母としてつらい立場にありながらも気丈にふるまう。そばに陽子がいて
        くれる嬉しさ

小学校の教諭として生徒たちから慕われていた隆之。
病気のために職を辞したのですが、教え子から来た手紙が胸を打ちます。
「先生、岡部が(?)いじめにあっているようです。先生、助けに来てください」
かなり進んだ病状。子供達のもとへ助けに行けないもどかしさ・悔しさ・・・。
このシーンは良かったですね。

徐々に進行する病気の恐怖と闘いながらも、生まれ故郷の景色を、愛する人々の顔を脳裏に焼き付けておこうとする隆之。そんな彼を何とか支えようとする周囲の人々。
隆之の人柄の良さもあるのでしょうが、人々の優しさが心にしみ入りました。
”人はみな一人では生きていけないものだから”(さだまさし ならぬ 中村雅俊)

■参考ブログ:jura'file+++movie
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映画の本質から外れますが、この映画は建築ファンとしても嬉しかったです。

実はこの日、「九州遺産」という本を購入。そこにあった活水学院の写真に目を見張ったのですが、その建物が夜に見た映画に出てくるとは!何という偶然。
隆之の実家の家も良かったですね。
外観全景は映らなかったのですが、下見板貼りの外壁。玄関脇の丸窓。室内には味わいのあるステンドグラスが間仕切り的に使われていました。
インテリアも含めて喫茶店のような感じだなあと思いましたが、実際の建物もそうだったのかな?
緑の多い庭も美しかったです。

長崎は行ったことがないのですが、素敵な街ですね。
長崎の街がこの映画をより印象づけてくれました。