ゼロ・マイル【0 mile】(USEN )
★★★★:80点
”建築中毒さん”から教えて頂いた稲葉なおとさん(B’zの稲葉浩志さんの従兄弟)初の長編小説「ゼロ・マイル」を先日読了しました。良かったです!
稲葉なおとさんの本は「アール・デコ・ザ・ホテル」 「近代名建築で食事でも」に続いて3冊目です。稲葉なおとさんについては、こちらのページもご覧ください。
http://www.momotown.net/beauty_health/inaba/news/naoto/naoto.html
この小説は父親と息子のロード・ムービー的な作品と言えます。そして、フロリダを舞台にそこに登場するアール・デコ建築のホテルの数々。完全に私好みの作品で、奨めていただいた”建築中毒さん”に感謝したいと思います。
旧知の雑誌編集長・國崎から与えられた最後とも思えるチャンス。吉川士朗は写真家としてもう一度納得のいく仕事をしたいと思うが、アシスタントとして連れて行くことになったのは小学校2年生の息子・登士だった・・・。
日の出という最高のタイミングを逃したくないのに、足手まといとも思えてしまう息子のスローテンポぶりにイライラ、カッカの連続。立入禁止エリアへの潜入を見とがめられてホテルの警備員に捕まり、警察に突き出されそうになったりするが、息子の前では無様な姿をさらしくたくないと何とか強がって虚勢をはろうとしたり、撮影に夢中になって息子の姿が見えないと分かったときのろうばいぶりなどは頷けました。
父親と息子の心のきずな。旅の間にくっついたり、またちょっと離れたりが面白かったです。色んな人との出会いがあり、登士はいつの間にか父を助けることに・・・。旅を通じての息子の成長も丁寧に描かれていましたね。確かに旅は人を成長させ、視野や考え方を大きくすると思います。可愛い子供には旅をさせよ。いや、一緒に旅に出よう!
そして、撮影旅行前の病弱な妻との会話、妻から旅先に送られてきたFAX。妻が出てくるシーンは僅かなのですが、とても印象的でした。
「アール・デコ・ザ・ホテル」でも書かれていたホテルとの写真撮影許可についてのやりとり(かけひき)、立入禁止エリアへの潜入などもリアリティたっぷりに描かれていて面白かったです。ホテルブレイカーズで撮影許可申込をしたのに打ち合わせを無視続けるカメラマン。これはてっきり主人公だと思いこんでいたら実は・・・。ちょっとミステリー的な要素も含まれていて、ここは見事にひっかかりました。
建築的な面からは、「ホテルブレイカーズ」を舞台にした第5章「鉄道王の宮殿」が特に素晴らしかったです。ブレイカーズの屋上から見た日の出とフラグラーの家の感動的なこと!
そして、 父親が見たかった道、息子に見せたかった道。
「その土地ならではの情景はね、ハイウェイなんかじゃなくて脇道にあるのよ」
:
「ドライブの本当の楽しさは、高速道路じゃなくて生活道路にあるんだよ」
脇道の方が面白かったり、脇道にあっと驚くような素晴らしい情景があったりは、建築探訪や街歩きにも当てはまります。できれば現地の具体的な写真を見たかった気もしますが、それでは小説と言えなくなってしまいますね。建物や道、旅に興味があるかないかで評価は異なると思いますが、私にとっては極上の作品でした。
◎参考ブログ:
えんたかさん(遠藤さん)のブログ
******************************* Amazonより *******************************
稲葉なおと初の長編小説
音声でしか存在しなかった感涙巨編
USENの朗読チャンネル放送時、多くのリスナーから書籍化を望まれた話題作。
待望の書籍化!
~番組収録中、ナレーターの涙が止まらなかった~
男にとってのあるべき父親像、仕事への姿勢などを、フロリダの世界一美しいと言われる道路を走る、父子ふたりきりのドライブ旅行を通して描きます。紀行作家として実績を残す稲葉なおとならではの、フロリダ・サウスビーチやホテルの情景やドライブの描写は、まるで現地の映像が目に浮かんでくるかのようで、この作品のもうひとつの魅力となっています。
著者について
著者紹介 稲葉なおと
東京工業大学建築学科卒。一級建築士。
建築プロデューサーを経た後に、国内外の名建築ホテルを題材にした旅行記と写真を発表し続ける。初の旅行記『まだ見ぬホテルへ』が話題となりロングセラーに。
第2作の旅行記『遠い宮殿―幻のホテルへ』で第10回JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。
初の写真展『ザ・ホテル』を資生堂ギャラリー及びハウス オブ シセイドウにて開催。
本書が初の長編小説。
主な著書に『名建築に泊まる』(新潮社)、写真集『ア-ル・デコ ザ・ホテル』(求龍堂)、『パパズ ホテル 日本』(講談社)など。
********************************************************************************