永遠の0 ゼロ (太田出版、講談社文庫)
★★★★☆’:85点
私にとって今年のベスト1候補である「ボックス!」 の著者がこんな小説を書いていたとは!いや、逆に、この小説を書いた著者が次に「ボックス!」 のような小説を書くとは!全く異なった題材と味わいの2作。これは嬉しい驚きである。
私が大感動した「ボックス!」に続いてこの本を単行本で読んだのは今年の2月である。このときは内容について全く予備知識なしで読み出し、まずは”0(ゼロ)”の意味に驚き、どんどん物語に引き込まれ、最後は宮部久蔵という人物の生き様に深く心を打たれた。
この夏、本書が文庫本化されて宣伝にもかなり力が入れられているようだ。 「ボックス!」で本屋大賞・第5位になったこと、8月15日が近づいていることなどからキャンペーンが張られているのだろうか。百田尚樹氏がより多くの読者に知られることは嬉しく思う半面、密かな愛読書(と言ってもまだ半年なのですが)が表舞台に出てくるのは、隠していた宝物を見つけられてしまったようなちょっと惜しい気もする。百田さんゴメンナサイ。
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(単行本)
日本軍敗色濃厚ななか、生への執着を臆面もなく口にし、仲間から「卑怯者」とさげすまれたゼロ戦パイロットがいた…。人生の目標を失いかけていた青年・佐伯健太郎とフリーライターの姉・慶子は、太平洋戦争で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べ始める。祖父の話は特攻で死んだこと以外何も残されていなかった。元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の姿は健太郎たちの予想もしないものだった。凄腕を持ちながら、同時に異常なまでに死を恐れ、生に執着する戦闘機乗り―それが祖父だった。「生きて帰る」という妻との約束にこだわり続けた男は、なぜ特攻を志願したのか?健太郎と慶子はついに六十年の長きにわたって封印されていた驚愕の事実にたどりつく。はるかなる時を超えて結実した過酷にして清冽なる愛の物語。
(文庫本)
「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる―。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。涙を流さずにはいられない、男の絆、家族の絆。
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感動本ほど感想を書けないという悪いクセが出て(?)、この本も感想を書けないまま約半年が過ぎてしまった。細部については忘れてしまっている部分も多く、以下はノートに残していたメモをもとに書いたものである。
【注:ネタバレあり】
戦争に疑問を感じる主人公といった観点では、横山秀夫の「出口のない海」とも共通点があり、家族への強烈な愛情といった点では、淺田次郎の「壬生義士伝」との共通点があった(但し、これも感想を書けていません)。特に「壬生~」の、凄い腕を持ちながらも給金をせっせと仕送りし、死の直前になっても家族のことを考え続けていた主人公の吉村と本作品の凄腕パイロット・宮部。この本を読んでいる間、終始二人の姿と生き方が重なり合う気がすると共に、色々考えさせられた。果たしてここまで家族を愛せるだろうか・・・。
あれほど生きて家族のもとへ帰ることを切望していた宮部は、いざ出撃という最後の最後で幸運を掴んだことを知る・・・。しかし、悩んだ末に彼が下した決断は・・・。そして、ラストで明らかになった真実に驚嘆。
最後に宮部と会った時-
あの人は別れ際に言いました。必ず生きて帰ってくる。たとえ腕がなくなっても、
足がなくなっても、戻ってくる-と
そして、宮部はこう言いました。たとえ死んでも、それでもぼくは戻ってくる。
生まれ変わってでも、必ず君の元に戻ってくると。
この夫人の言葉に全ての真実が込められていた。
そして、宮部から外套をもらった人物は・・・。
ここは涙、涙、涙ですね。
他にも良いシーンがいっぱいありました。
第十章:阿修羅、第十一章:最期、第十二章:真相。そしてエピローグと、終盤のたたみかけるような展開が凄かった。宮部の死を描き、誇りと意地、畏敬の念と愛情に満ちあふれたエピローグも秀逸。
宮部久蔵。人から何と思われようが、何と言われようが自分の信念を曲げることなく家族のために生き抜こうとした男。本書はそんな人物を見事に描ききったといえよう。
◎参考ブログ:
藍色さんの”粋な提案”
naruさんの”待ち合わせは本屋さんで”
ほっそさんの”Love Vegalta”(2010-7-27)
かわさんの”国内航空券【チケットカフェ】社長のあれこれ”(2010-10-18)
ゼロ戦という子供の頃に、憧れていた題材と共に展開してゆくストーリーには涙せずにはいられませんでした。よくぞこの小説を書いてくれた!と心から感謝したい本です。若い人たちにも是非読んで欲しい。
コメントありがとうございます。
深い感動に包まれる素晴らしい作品でしたね。
宮部久蔵という生き方が鮮烈で、戦史ものとしても優れていたと思います。
百田尚樹氏は凄い!
私も若くはありませんが、この本の素晴らしさは若い人にも十分に伝わると思います。
「壬生~~」との比較、さすがです。読んでいるときには思いつかなかったけど、↑読んで納得です。
こんにちは。
コメントありがとうございます。
こちらからはTBを送っただけで、まだコメントしにいけておらず、スミマセン。
「壬生~~」との比較を評価して頂いて光栄です。
それにしても素晴らしい本でした。
色々と本は読んでいるのですが、相変わらず感想が書けなくて・・・(汗)。
TBさせていただきました。
自分もボックス!を先に読んだので作風がとても違うので驚きましたが感動しました。特攻隊志願強制にNOと言う特攻隊員の小説は初めてで新鮮に思いました
はじめまして。
コメントありがとうございます。
>自分もボックス!を先に読んだので作風がとても違うので驚きましたが感動しました。
「ボックス!」と「永遠の0」を書いた百田さんは凄いと思いました。
今もまた、たまたま百田さんの「影法師」を読んでいるのですが、今度は時代小説で、これもなかなか面白いです。
先ほどかわさんのブログも拝見しましたが、”祖父の事を調べる姉弟と姉の彼氏のジャーナリストの現代のエピソードはなんだかなぁ・・・”という感想に、なるほどなあと思いました。ふり返ってみると、私は現代のエピソード部分について全く触れていませんでしたね。宮部久蔵という人物とその生き方に強くひかれ、現代の部分のことは吹っ飛んじゃったのかもしれません。
またそちらのブログにも遊びに行かせてもらいます。
まず出版社の人物が特攻隊をテロと同じに考えているところで違和感を感じました。しかも元兵士の話を聞いて後悔して号泣したとは出来過ぎです。そもそも特攻隊員の遺書が報国、忠孝ばかりというのは間違いです。知覧の特攻平和記念館へ行ってみて下さい。確かに「天皇陛下万歳」という遺書もあります。しかし多くが自分の親兄弟、自分たちより若い子どもたちを守る為に死んでいくという内容です。軍部批判ととれる遺書もたくさんあります。見学者に説明している人たちも、「このように俺たちは軍部や政治家の偉い人たちのために死ぬのではない。自分たちより若い世代の命を守る為に死ぬんだ、という遺書がたくさんあります」と話していました。ですから「男が守るのは家族というのはおかしい」というのもどうかと思います。それでいて関大尉が「国のためでなく妻のために死ぬ」と言ったのがおかしいとは述べていません。 実際に元兵士の書いた戦記物を読むとこのような記載は多々あります。
また、艦上爆撃機や艦上攻撃機の説明、太平洋戦争の作戦など、当時のミリタリー用語の説明が冗長に感じます。NHKの元兵士のインタビューを放映した「証言記録 兵士たちの戦争」を見た方はわかると思いますが、実際のインタビューではあれほど詳しく解説しながら話す方は少ないです。祖父の話の理解を深める為になのでしょうが、やり過ぎだと感じました。これも現実感を減じさせました。
機銃の故障で引き返した話がありました。一緒に飛ぶだけでいいのにということでしたが、これはいくらなんでもないでしょう。
真珠湾で一緒だった元海軍中尉の話で山本長官は「アメリカ人は天皇陛下に命を捧げるような気持ちはないから緒戦でたたいて意気を阻喪させようとした」とも読める内容ですが、全くの間違いです。むしろ駐米武官の経験のある山本長官はアメリカ人は戦意も旺盛で侮ってはならない。だからこそ緒戦で意気を阻喪させようと真珠湾攻撃を考えたのです。
宣戦布告が遅れたのは私の知識では機密を保つ為にタイピストを使わずに書類を作成したためというのが通説だと思うのですが。また、大使館といえども開戦のことはごく一部しか知らないし、知っていてもパーティをやめたら怪しまれますからわかっていてもパーティをしたと思います。
海の主役が戦艦でなく航空機だという象徴的な戦いになぜイギリス軍のイタリア・タラント空襲を挙げないのか?。山本長官が真珠湾を考える大きな要因の一つです。
日本の将官は弱気なんて何を根拠にしているのでしょう。そもそも例に挙げられた作戦の失敗も後ではなんとでもいえます。どの国にも強気な将官、弱気な将官はいたはずです。どの国に弱気な将官が多いかまで私は知りませんが。そもそも「弱気」と「慎重」、「強気」と「無鉄砲」とどう評価しているのでしょうか?。ミッドウェーで孤軍奮闘して最後に空母飛龍と最後をともにした山口多門は闘将として有名です。レイテ海戦で小沢艦隊の囮にまんまとひっかかったハルゼーは強気で有名なことを見越してたてた囮作戦にまんまとひっかかったのです。それに全滅を前提に指揮をした小沢司令を弱気と言えるでしょうか?。真珠湾で第二次攻撃隊を出さなかった南雲長官を弱気と評価することはできますが、これも結果論であり、当時アメリカ空母の所在は不明であり、それを無視して攻撃を続行したらこのときにミッドウェーと同じことが起こったかもしれません。そもそも山本長官は真珠湾やミッドウェー作戦はいずれも博打にすぎる、つまり強気すぎるとして大本営から反対されていた将官です。
特攻隊員は「皆」自ら軍人となることを希望したというのも当時は徴兵制度でしたから間違いです。希望しなくても軍人にさせられ、半強制的に特攻隊員にさせられた人たちも多いのです。
戦記物の初心者には感動を呼ぶとおもいますが、ちょっと誤りが多すぎます。これで読者が戦時中のことがわかった気になってしまったら亡き英霊には本当に気の毒だと思います。これは私が常連のミリタリーサイトでもほぼ同意見です。
コメントありがとうございます。
私自身は戦争を知らない世代ですが、父が戦争の末期に学徒動員で中国方面に出征したこともあり、多少の知識はあります。
>まず出版社の人物が特攻隊をテロと同じに考えているところで
>違和感を感じました。しかも元兵士の話を聞いて後悔して号泣
>したとは出来過ぎです。
この小説で、現代の部分の人物像や考え方・行動の仕方(の描写ですね)は”やや”弱い気がしますし、”特攻隊をテロと同じに考えているところ”については私も同様に違和感を覚えました、ただ、現代にはそういう人物もいるのかなとは思います。
小説の細部についてはかなり忘れてしまっているのですが、私はこの小説を戦記物というよりもむしろ、宮部久蔵という人物と、妻と娘を想うその家族愛と生き様の物語として読んだので、G党H党さんの印象とはちょっと異なります。
本文にも書きましたが、戦争に疑問を感じる主人公といった観点では、横山秀夫の「出口のない海」とも共通点があり、家族への強烈な愛情といった点では、淺田次郎の「壬生義士伝」との共通点があったと思います。また、特攻隊を舞台にした小説では、大昔の高校時代に読んだ阿川弘之の「雲の墓標」なども戦争に疑問を感じつつも大空に散るしかなかった時代の青春群像がきちんと描かれていたと思います。あるいは、梯久美子「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」などとも共通項があるのではないでしょうか。
”宮部久蔵。人から何と思われようが、何と言われようが自分の信念を曲げることなく家族のために生き抜こうとした男。本書はそんな人物を見事に描ききったといえよう。”という評価は変わらないですね。多少粗い面も感じますが、私は戦争を題材にしたフィクション小説としては、出色の作品だと思います。戦記物と考えるかどうかで評価は異なるのでしょうね。
私はこの本を「戦記物」と「宮部久蔵とその人間ドラマ」の二つの面を持った作品として読んでいました。簡単に言えばどっちつかずになっていると思います。ストーリーは確かに感動的ではあります。ただ、リアリティは別にしても元軍人のインタビューが長過ぎて、しかも太平洋戦争の解説のようになってしまって本文との隔離感が生じてしまいます。結果的に感動的なストーリーを描く部分が少なくてこれが私に現実感を喪失させ、ご都合主義のようなラストになってしまったと思うのです。ラストへの現実感を膨らませるには描き方が少ないと思います。本文に坂井三郎氏の話が出てきますが作者が引用した「大空のサムライ」に眼を負傷した坂井氏が視力を回復した日に母親が視力障害を起こしたというエピソードがありますが、現実には偶然の一致というかラストのようなエピソードの重なりというか、そうそうあるものではないでしょう(戦記物でなくても)。
単なる一つの物語としても出来過ぎです。それに現実感を与えるには前振りが短くてあまりに単純で、解説のような戦時中のエピソードが長過ぎてしかも非現実的なのでご都合主義に感じてしまったのだと思います。
私はこの作者の他の作品を知りませんが、ひとつのフィクション作品としても単純で読む気がしませんでした。
再度のお越しありがとうございます。
>「戦記物」と「宮部久蔵とその人間ドラマ」の二つの面を持った作品として
>読んでいました。簡単に言えばどっちつかずになっていると思います。
>・・・(中略失礼)・・・太平洋戦争の解説のようになってしまって本文との
>隔離感が生じてしまいます。
なるほど、二つの面を持った作品として読まれましたか。素晴らしいですね。本作は百田尚樹さんのデビュー小説なので、粗削りな面はあると思いますし(私は現代の部分に違和感あり)、確かにご指摘のような隔離感もありますね。ただ、普段あまり戦記ものを読まない私にとって太平洋戦争の解説的な部分は背景が分かりやすかったようにも思います。手元にこの本がないので、再確認できないのですが。
すぐに再読はできないのですが、いずれまた読んでみたいと思います。
百田氏の作品は他に「ボックス!」(青春スポーツ小説)、「影法師」(時代小説)を読みました。「永遠の0」とは全くジャンルやテイストが異なりますが、私はとても面白く読みました。