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世界は分けてもわからない (福岡伸一)

2009-08-06 23:29:16 | 15:は行の作家

Sekaiha1 世界は分けてもわからない(講談社現代新書)
★★★★☆:90点

サントリー学芸賞・新書大賞をダブル受賞した「生物と無生物のあいだ」の著者・福岡伸一氏の最新作。「生物と~」は感想が書けずじまいだったものの2007年度のノンフィクション作品ではダントツの1位にしたのだが、本作もあっと驚く一気読みの面白さで、今年も1位の予感がしている。

****************** Amazonより ******************

60万部のベストセラー『生物と無生物のあいだ』続編が登場! 生命は、ミクロな「部品」の集合体なのか? 私たちが無意識に陥る思考の罠に切り込み、新たな科学の見方を示す。美しい文章で、いま読書界がもっとも注目する福岡ハカセ、待望の新刊。

顕微鏡をのぞいても生命の本質は見えてこない!?科学者たちはなぜ見誤るのか?世界最小の島・ランゲルハンス島から、ヴェネツィアの水路、そして、ニューヨーク州イサカへ―「治すすべのない病」をたどる。

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科学者・専門家の間では福岡伸一氏(の著書)に関する評価は色々あるようだが、新書での出版≒一般読者向けの啓蒙書と考えられ、学術書・専門書ではないので私は気にならない。それよりも前作同様に、あるいはそれ以上に分子生物学の世界をこれほど分かりやすく、面白く書かれたことを高く評価したい。書かれていることのどれが(どこまでが)正しいのか等は分からないが、大いに知的好奇心をくすぐられた。こういう感想を持つ本はあまり読んでいないので、大収穫である。

また、理科系だから、技術系だから、あるいは学者だから分かりにくい文章でも構わないというものではないと思う。難しいことをわかりやすく書くことの素晴らしさ、福岡氏の一般読者を引き込むその筆力は素晴らしい。詩情にあふれた文章も味わい深く、特に文系の人(?)の評価が高いというのもよく分かる気がする。本作ではあまり多くはないが、図や写真、例えの使い方なども絶妙。あえて私が感じた小さな疑問点を挙げると、この書名が本書の内容にふさわしいのかどうかということと、論旨が果たして首尾一貫していたのかなということである。これは私の理解不足かもしれないし、大した問題ではないであろうが。

特に良かった章をあげると、

まずは第4章「ES細胞とガン細胞」。再生医療にも大いに関係のあるES細胞とガン細胞が何と紙一重の差だという。

「生物と~」でも出てきたジグソーパズルを例えに用い、マップ・ラバー(地図好き)とマップ・ヘイター(地図嫌い)の考え方が実に興味深かった。ジグソーパズルでマップ・ラバーチームとマップ・ヘイターチームが戦えばどちらに軍配が上がるのか?果たして全体の絵柄を知る必要があるのか否か。では細胞の場合は?DNAは身体全体の設計図ではないのか?いやはや面白い。

第6章「細胞の中の墓場」。”消化は何のために行われるのか?”
吸収しやすくするためという一般的な回答も正しいのであるが、”前の持ち主の情報を解体するため”という考え方にビックリ!食物タンパク質はもともといずれかの生物体の一部であったもので、そこには持ち主固有の情報がアミノ酸配列として満載されている。これが身体の内部に侵入すると、身体固有の情報系との衝突・干渉・混乱が生じる。タンパク質レベルの情報のせめぎあい。これを防ぐためだとは!

そして、第8章「ニューヨーク州イサカ 1980年1月」以降の凄さには感嘆した。途中、理解できないことも多数あったものの、ここからエピローグまでのたたみかけるような展開は圧巻である。第11章「高らかな勝利宣言」と第12章「鳴り響いた警告音」この暗転は見事だった。まるで上質の科学ミステリー・科学サスペンスの趣である。ラッカーとスペクターが短期間の間に築いてきた偉業。あまりの見事さに、その底には何かが起こりそうな不気味な通奏低音が流れているような感触もあったのだが・・・。神の子・スペクターがしたことは・・・。そして、

   ”もし彼らが、天空の城の大伽藍をその構想だけにとどめていたと
   すれば、あるいは、それをあくまでも作業仮説として、地道な実験を
   継続していれば?たとえ実際の酵素発見、酵素精製の研究競争に
   負けたとしても、スペクターとラッカーの名前は生化学史上の偉大な
   天才として残ったはずなのだ。なぜなら、彼らは正しかったから。
   彼らの描いた星座は、そのとき皆が見たいと渇望した星座そのもの
   だったという意味において”

という箇所に込められた真実を発見することの困難さと運命の皮肉に唸った。

また、高名なデザイナーであるイームズ夫妻が作った実験的なフィルム「パワーズ・オブ・テン」(10のn乗)の描写には、たとえ言葉だけであっても、めくるめくような感覚を味わった。銀河系と素粒子の世界の共通性。”マクロを形作るミクロな世界の中に、マクロな世界と同じ構成原理が、無限の入れ子構造として内包されている”ことの凄さ!

などなど、感想が書けないままに終わった「生物と無生物のあいだ」のことを反省して、読了後1週間が経つものの何とか感想をアップすることができた。とりあえず、ホッ。。。


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