アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

合い言葉は勇気

2006-09-18 20:20:08 | 
『合い言葉は勇気』 三谷幸喜   ☆☆☆★

 三谷幸喜のテレビドラマが好きだ。『古畑任三郎』が好きだし、『王様のレストラン』が好きだし、視聴率が悪かったらしい『総理と呼ばないで』も好きだった。特に好きなのは『振り返れば奴がいる』で、あのドラマでの織田裕二のワルかっこよさは最高だった。さて、一部のファンによれば三谷ドラマの最高傑作は『合い言葉は勇気』らしい(やはり視聴率は悪かったらしいが)。私は観たことがない。DVDは出ておらず、ビデオは昔出ていたようだが今では入手できない。そこで仕方なく、文庫で出ていた脚本を購入した。

 これはこれで面白かったが、やはり脚本だけでは物足りない。実際のドラマでは演出や役者の演技で盛り上げたり、細かいニュアンスが付くのだろうが、脚本だけ読んでいると淡々としていて大雑把な印象がある。例えばテレビドラマでよくある、次のシーンの最初のセリフが前のシーンの映像にかぶさるというテクニックだが、脚本では前のシーンの最後に次のシーンのセリフが入っているので、慣れるまで変な感じだった。いわゆる戯曲を読んでもこういうことを感じたことはないので、テレビドラマの脚本特有のものなのだろう。ここは主人公の熱弁で盛り上がるところだな、という場面でも、セリフが短くてすぐ終わったりする。芝居だともっと長セリフで盛り上げそうなものだが、これもテレビドラマのテクニックなのだろうか、それとも三谷幸喜独特のものだろうか。

 法廷シーンなどもあるが、かなり無理のある設定でやっていて、脚本だけだと音楽や演出でごまかしがきかず、不自然さがバレバレになってたりする。法廷シーンのある小説などと比べるとかなり雑だ。まあ、読んで楽しめるようには書いてないわけだからそれはしょうがない。しかし脚本を書きたいと思っている人なんかは勉強になるだろう。

 話そのものは面白いし、面白いセリフもいっぱいある。声を出して笑った部分もあった。なんといっても設定がいい。大企業に自然破壊されそうになった村を救うため、弁護士を探しに行く。見つからないので、落ち目の役者に弁護士のフリをさせる。村人を説得して訴訟をやめさせるつもりが、どんどん盛り上がってやることになる。しかしニセ弁護士なのにどうやって法廷シーンをやるのだろうと思っていたが、意外な方法で実現させる(かなり無理はあるが)。法律的にはこういうことって本当に可能なのだろうか。

 あとキャスト表がついているので、それぞれのキャラクターに役者を重ねて読むとイメージがつかめて面白い。なんといってもピッタリはまったのは、ゲストで初回だけに出演する唐沢寿明である。弁舌さわやか、誠実なエリート弁護士として登場し、ぬか喜びさせておいて逃げ出すといういかにもなキャラクターである。唐沢がこれやったら面白いだろうな。

 鈴木京香も好きな女優さんなので、ヒロインの犬塚信乃を演じているところを見てみたい。清楚さと色っぽさを同時に漂わせる稀有な女優だと思う。ところで実は一番イメージが合わなかったのは、主人公の暁仁太郎=役所広司だった。仁太郎は基本的にちゃらんぽらんな自分勝手な男で、喋りも「ちょうど床の境目になってんじゃねえかよ」みたいな、ちょっとべらんめえ調のヤクザな感じだ。つかこうへいの芝居に出てきそうなキャラクター。まじめで実直、というのが私の役所広司イメージなので、これをどんな感じで演じたのかいまひとつイメージが湧かない。

 とにかく、実際にドラマを観てみたい、という話である。なんでDVD出ないんだろう。やっぱり視聴率が悪かったからだろうか。


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2 コメント

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Unknown (伏姫)
2006-09-19 09:49:50
初めまして。私、これ、ビデオで見ました。役所さん、サイコーでした。こういういい加減なキャラクターもはまります。さすが! 京香さんと共演の、よしもとばななさんの「アルゼンチンババア」も今から楽しみです。
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うらやましい (ego_dance)
2006-09-20 09:21:29
伏姫さんこんにちは。

うらやましいです。昔ビデオを見かけたことはあるのに、もうどこにもないです。役所広司はまってましたか。まじめ人間のイメージが強いですが、そういえば伊丹十三の『たんぽぽ』ではやくざの役をやってたなあ。



『アルゼンチンババア』というのは知りませんでしたが、チェックしてみたらなかなか面白そうな映画ですね。しかし鈴木京香のメイクはすごい。

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