『もう一つの鍵』 ☆☆☆★
刑事コロンボ七つ目のエピソード。『二枚のドガの絵』の次である。派手だった『二枚のドガの絵』に比べると地味なエピソードだ。トリッキーな大技はなく、トラップもなく、最後の決め手も非常にシンプル。全体にこじんまりした印象。だけど私は結構好きなエピソードである。
まず、偽装過失殺人というのが珍しい。ベス・チャドウィックは専制的な兄ブライスに抑えつけられる生活に耐えられなくなり、過失に見せかけて兄を銃殺する。鍵をなくした兄が窓から家に入り、警報が鳴り、眠っていた自分は強盗と間違えて撃ってしまったという筋書きだ。相当にリスキーな殺人手段だと思うが、「過失でなく故意だった」という証明もなかなか難しいと思われる。実際にベスは過失の判決を勝ち取り、事件は終結する。しかしコロンボだけがベスの供述に疑問を抱き、一人で捜査を続ける。
この事件では殺人当夜にさまざまな番狂わせがあり、ベスに計画修正を余儀なくさせる。一つは、窓から入ってくるはずだったブライスがスペアキーを使って玄関から入ってくること。結局はこれが致命傷になるのだが、ベスはブライスを射殺し、その後偽装工作することで殺人を遂行する。もう一つの番狂わせは、恋人のピーターがブライスからの手紙に激昂し、抗議するために現場にやってくること。これによって事件の目撃者、というか音を聞いた証人ができてしまう。この二つが組み合わさることによって最終的にベスの破滅を招くことになる。
こういう番狂わせがあるので、視聴者に分かりやすいようにまずベスの空想の形で計画通りのバージョンが見せられ、その後実際の本番が見せられるという配慮がなされている。しかしこのベス、ブライス、そしてピーターの三者それぞれの行動が交錯する犯行シーンは非常にスリリングで、犯行時のスリルという点ではシリーズ中屈指だと思う。
さてブライスを殺害した後、ベスはどんどん変わっていく。おとなしく古風だった女性が派手で高圧的な女性に変貌し、婚約者のピーターを激しく戸惑わせる。このベスの変貌がもたらすドラマが本エピソードの肝だが、このピーターは脇役ながらほとんどベスと同等の重要性を持ったキャラクターで、存在感があって実にいい。ピーターを演じているのは『裸の銃を持つ男』のレスリー・ニールセンだが、あの映画とは打って変わって真面目な演技をしている。この頃はまだ普通の役者だったのである。あのおちゃらけの極致のようなドレビン警部役しか知らない人は違和感があると思うが、魅力的な恋人役だと思う。好人物だ。最初ブライスがベスに「ピーターは財産目当てでお前とつきあっている」というのでてっきりそういう奴かと思っていると、それはブライスの誤解で、ピーターは本当にベスを愛しているのだった。変わっていくベスに意見する彼の言動を見てもなかなかの硬骨漢だ。それに殺人の前に電話で会話するベスとピーターが実にいい感じのカップルなので、殺人後にどんどんベスが変わっていきピーターとうまくいかなくなる展開は痛々しい。
ピーターに対する態度だけでなく、ベスのコロンボに対する態度もどんどん強硬になっていく。女性でここまでコロンボに敵意をむき出しにしてきた容疑者は珍しい。怒り狂って電球を壁に投げつけ、ピーターに毒づいたりする。その高圧的な態度があまりに憎たらしいので、最後の逮捕シーンには爽快感がある。
さて、新聞、靴に芝生がついていないこと、切れた電球、などわりとスタンダードなコロンボ流突っ込みを行ったあと、最後の詰めとなる。コロンボは証人であるピーターにある確認をする。最後の決め手を提供するのがベスの恋人ピーターというところが、それまでの人間ドラマのアイロニックな帰結になっている。コロンボはベスに家に赴き、彼女の決定的なミスを指摘する。はっきり言って、今回の決め手に意外性はほとんどない。にもかかわらず私はこのシーンが結構好きなのだが、それはコロンボの指摘が実にシンプルで明快であること、この事実は最初からあからさまに視聴者にさらけ出されていること、にもかかわらずベスの犯罪の決定的な破綻を意味すること、などの理由による。考えてみるとこれは『二枚のドガの絵』なんかよりはるかに決定的な証拠(証言)である。日本語吹き替えで聞いていると今ひとつコロンボのセリフが散漫だが、英語で聴くと「○○がXXの前であったらのなら、どうして君がXXで目を覚ますことができるのか」とロジカルに詰めを行っている。
そんな明らかなことになぜ最初から気づかないのか、という意見もあるだろうが、ピーター本人さえ気づかなければ見落とされてしまうこともあり得る(特にアメリカの警察では)。順番というのは意外に盲点だ。
この詰めのシーンは地味だけれども、悪くない。この場面に漂う静謐さ、緊張感、コロンボの抑えた口調が渋いし、自信満々だったベスの傲慢な態度が一瞬にして崩れ去るのもいい。そして「いつものように美しく。いいね」(英語では「(着替えに)好きなだけ時間をかけていいんだよ」と言っている)なんてキザなせリフを言った後、一人葉巻をくゆらすコロンボもいいのである。
刑事コロンボ七つ目のエピソード。『二枚のドガの絵』の次である。派手だった『二枚のドガの絵』に比べると地味なエピソードだ。トリッキーな大技はなく、トラップもなく、最後の決め手も非常にシンプル。全体にこじんまりした印象。だけど私は結構好きなエピソードである。
まず、偽装過失殺人というのが珍しい。ベス・チャドウィックは専制的な兄ブライスに抑えつけられる生活に耐えられなくなり、過失に見せかけて兄を銃殺する。鍵をなくした兄が窓から家に入り、警報が鳴り、眠っていた自分は強盗と間違えて撃ってしまったという筋書きだ。相当にリスキーな殺人手段だと思うが、「過失でなく故意だった」という証明もなかなか難しいと思われる。実際にベスは過失の判決を勝ち取り、事件は終結する。しかしコロンボだけがベスの供述に疑問を抱き、一人で捜査を続ける。
この事件では殺人当夜にさまざまな番狂わせがあり、ベスに計画修正を余儀なくさせる。一つは、窓から入ってくるはずだったブライスがスペアキーを使って玄関から入ってくること。結局はこれが致命傷になるのだが、ベスはブライスを射殺し、その後偽装工作することで殺人を遂行する。もう一つの番狂わせは、恋人のピーターがブライスからの手紙に激昂し、抗議するために現場にやってくること。これによって事件の目撃者、というか音を聞いた証人ができてしまう。この二つが組み合わさることによって最終的にベスの破滅を招くことになる。
こういう番狂わせがあるので、視聴者に分かりやすいようにまずベスの空想の形で計画通りのバージョンが見せられ、その後実際の本番が見せられるという配慮がなされている。しかしこのベス、ブライス、そしてピーターの三者それぞれの行動が交錯する犯行シーンは非常にスリリングで、犯行時のスリルという点ではシリーズ中屈指だと思う。
さてブライスを殺害した後、ベスはどんどん変わっていく。おとなしく古風だった女性が派手で高圧的な女性に変貌し、婚約者のピーターを激しく戸惑わせる。このベスの変貌がもたらすドラマが本エピソードの肝だが、このピーターは脇役ながらほとんどベスと同等の重要性を持ったキャラクターで、存在感があって実にいい。ピーターを演じているのは『裸の銃を持つ男』のレスリー・ニールセンだが、あの映画とは打って変わって真面目な演技をしている。この頃はまだ普通の役者だったのである。あのおちゃらけの極致のようなドレビン警部役しか知らない人は違和感があると思うが、魅力的な恋人役だと思う。好人物だ。最初ブライスがベスに「ピーターは財産目当てでお前とつきあっている」というのでてっきりそういう奴かと思っていると、それはブライスの誤解で、ピーターは本当にベスを愛しているのだった。変わっていくベスに意見する彼の言動を見てもなかなかの硬骨漢だ。それに殺人の前に電話で会話するベスとピーターが実にいい感じのカップルなので、殺人後にどんどんベスが変わっていきピーターとうまくいかなくなる展開は痛々しい。
ピーターに対する態度だけでなく、ベスのコロンボに対する態度もどんどん強硬になっていく。女性でここまでコロンボに敵意をむき出しにしてきた容疑者は珍しい。怒り狂って電球を壁に投げつけ、ピーターに毒づいたりする。その高圧的な態度があまりに憎たらしいので、最後の逮捕シーンには爽快感がある。
さて、新聞、靴に芝生がついていないこと、切れた電球、などわりとスタンダードなコロンボ流突っ込みを行ったあと、最後の詰めとなる。コロンボは証人であるピーターにある確認をする。最後の決め手を提供するのがベスの恋人ピーターというところが、それまでの人間ドラマのアイロニックな帰結になっている。コロンボはベスに家に赴き、彼女の決定的なミスを指摘する。はっきり言って、今回の決め手に意外性はほとんどない。にもかかわらず私はこのシーンが結構好きなのだが、それはコロンボの指摘が実にシンプルで明快であること、この事実は最初からあからさまに視聴者にさらけ出されていること、にもかかわらずベスの犯罪の決定的な破綻を意味すること、などの理由による。考えてみるとこれは『二枚のドガの絵』なんかよりはるかに決定的な証拠(証言)である。日本語吹き替えで聞いていると今ひとつコロンボのセリフが散漫だが、英語で聴くと「○○がXXの前であったらのなら、どうして君がXXで目を覚ますことができるのか」とロジカルに詰めを行っている。
そんな明らかなことになぜ最初から気づかないのか、という意見もあるだろうが、ピーター本人さえ気づかなければ見落とされてしまうこともあり得る(特にアメリカの警察では)。順番というのは意外に盲点だ。
この詰めのシーンは地味だけれども、悪くない。この場面に漂う静謐さ、緊張感、コロンボの抑えた口調が渋いし、自信満々だったベスの傲慢な態度が一瞬にして崩れ去るのもいい。そして「いつものように美しく。いいね」(英語では「(着替えに)好きなだけ時間をかけていいんだよ」と言っている)なんてキザなせリフを言った後、一人葉巻をくゆらすコロンボもいいのである。
最後のほうの、バーのカウンターで
飲んでるシーンや
洋服の店の店内にもバーカウンターがあって、アメリカっていいですね。
最後のほうの、バーのカウンターで
飲んでるシーンや
洋服の店の店内にもバーカウンターがあって、アメリカっていいですね。
コロンボがニールセンに話をしたいから、ランチをご馳走しますよ、
といってシーンが変わると
ドライブインでの安そうな
ハンバーガー。
ニールセンがハンバーガーの中の
肉を少し見て、フッ っとこんなの食べれるか、の演技が好きです。