アブソリュート・エゴ・レビュー

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必殺仕置屋稼業

2005-07-17 12:30:50 | 必殺シリーズ
『必殺仕置屋稼業』 ☆☆☆

 中村主水シリーズ三作目。

 殺しの実行部隊は例によって三名。主水(藤田まこと)、市松(沖雅也)、印玄(新克利)。サポートは捨三(渡辺篤史)、営業はおこう(中村玉緒)。全体の印象は明るく、華やか。髪結いであるおこうが客相手にお世辞を言ったり、主水と憧れの飯屋の娘とのやりとりなど、お約束の楽しいシーンも豊富。主水の手下となった岡っ引き(小松政夫)がせんとりつのスパイで、主水の監視をするというコミカルな設定もある。
 こういうバラエティ的な設定が多いため、『仕置人』や『仕留人』ほどのあくの強さは感じられず、普通の時代劇に近い雰囲気がある。そこが私にはちょっと物足りないが、まあそれは、あくまで他の必殺シリーズと比べればの話である。この華やかさ、愉しさが好きな人も多いだろう。

 さて、本作の売りはなんと言っても市松である。『仕置人』に続き沖雅也の再登板だが、棺桶の錠とはがらりと変わり、冷血な殺人マシーンとでもいうべき市松を演じている。必殺初の美形殺し屋だ。同じ俳優なのになんで必殺初なんだと思うかも知れないが、どことなく泥臭いキャラクターだった錠と比べ、市松の美しさは際立っている。小奇麗に髷を結い、着物もオシャレだ。表情まで違う。泣いたり怒ったりした錠と違い、市松は常に冷やかで端正な表情を見せる。
 そして市松はプロの殺し屋でもある。つまり恨みを晴らす仕置屋の一員というだけでなく、単純に金をもらって人を殺す殺し屋でもあるのだ。仕置屋の活動とは別に、一人で殺しを請け負ったりしている。だから別行動を取ることも多い。市松のポジションは、フリーの殺し屋が客員として仕置屋チームに参加している、というものだ。これはこれまでの必殺にはなかった新しい設定である。だから市松はどことなくよそ者的な空気を漂わせ、他の仲間となじもうとしない。仕置屋の打ち合わせでは、市松が小ばかにしたような科白を吐き、捨三が「なんだとこの野郎!」と怒る場面がよくある。

 市松の非情さは初回からこれでもかと強調される。主水を殺そうとするのだが、理由は殺しの現場を見られたので口を封じるため。『仕留人』の糸井貢のような(病気の妻の治療代)切ない事情はない。殺しのシーンでも、ニヤニヤ笑いながら、嫌味な口調でからかうように喋る。明らかに人を殺すことを何とも思っていない。更に初めての仕置きシーン、殺しの現場に子供がいたことに気づいた市松は、ためらわずに子供を殺そうとする(子供が盲目だったため結局殺さないが)。
 こうして非情さを強調しておいて、後のエピソードでその市松の内面が徐々に明かされていく、という全体の構成になっている。育ての親を殺す羽目になったり、幼馴染みが出てきたり、拾った子供を育てようとしたりする。無論、殺し屋として生きるしかない市松にはいつも哀しい結末が待っている。

 注目の市松の殺し技だが、細長いナイフ状に尖らせた竹串を首筋に突き刺す、というもの。市松は竹細工師なのである。従って面と向かって格闘することはほとんどなく、音もなく忍び寄って暗殺するスタイルである。このあたりも錠とはまったく違う。
 私はDVDを買うまで『仕置屋』を観たことがなかったので、市松の殺し技の華麗さを噂に聞いて、かなり期待していた。実際見ての感想は、確かにカッコいいけれど思ったほどではなかった。私は糸井貢のバチ殺しの方がしびれる。折鶴に竹串を差し、それを飛ばして殺すという有名な殺し技(殺した後白い折鶴が血で赤く染まる)も、ちょっと狙いすぎという気がする。そもそも、竹串というのがどうも気に入らない。なんかふにゃふしゃしているようで、あまり怖くないのだ。

 それから本作で最も気に入らないのは、印玄の殺し技だ。わざわざ屋根に連れて行って突き落とす。突き落とし方も決まっていて、「行け」といって背中をどんと押す。すると標的は「止めてタスケテ、止めてタスケテ」と連呼しながら屋根の端まで走っていき、落ちる。なんじゃこりゃ、である。必殺初のコミカルな殺し技だ。スカッと悪人を仕置きして欲しいのに、力が抜けてしまう。せっかく市松がクールな殺しを披露してくれても、ここでテンションが下がってしまうのだ。これはバラエティ色を出そうとして失敗した部分だと思う。やめて欲しかった。

 まあなにはともあれ、沖雅也ファンは必見のシリーズである。

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