アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

星からおちた小さな人

2007-08-07 21:12:20 | 
『星からおちた小さな人』 佐藤さとる   ☆☆☆★

 コロボックル・シリーズ三作目。一作目の『だれも知らない小さな国』がせいたかさんの一人称、二作目の『豆つぶほどの小さないぬ』がコロボックル・クリノヒコの一人称だったのに対し、今度は三人称小説だ。内容的にも、ファンタジー色が濃厚だった一作目、新聞社設立とマメイヌ捜索を軸にコロボックル小国の紹介篇的だった二作目に比べ、今回はいわばサスペンスもの。人間に捕まってしまったコロボックルの救出劇だ。

 というわけで、前二作と比べてプロットの進行が直線的でスリリングだ。飛行機械のテスト中にサクランボ技師がもずに襲われ、それを助けてもずに体当たりしたテスト・パイロットであるミツバチ坊やが墜落、行方不明となる。コロボックル達はただちに捜索を開始、やがて人間の少年にミツバチ坊やが捕まってしまったことを知る。ミチバチ坊やは足を痛めて動き回ることができない。コロボックル達は果たしてミツバチ坊やを救出することができるだろうか?

 コロボックルには掟がある。「なんじが不幸にして人にとらえられたるとき、なんじはこの世にただ一人となるべし」つまり仲間のことを絶対に知られてはならないし、仲間達の助けを期待してもいけない。人間に捕まったコロボックルは絶対的に孤独となる。

 この捜索から発見、そして救出の試みまでの展開はまさにアクション・サスペンスだ。読者はハラハラしながら読み進めることになる。ミツバチ坊やを発見し、鉛筆削りの中から助け出せばもう大丈夫、と先が見えたところで突然少年がミツバチ坊やを空き缶の中に入れてしまい、作業は振り出しに戻る、というか更に難しくなる。また、少年は知り合いの中学生にミツバチ坊やを見せて意見を聞こうとする。一難去ってまた一難。コロボックル達はうまいこと中学生に見られるのを防ぐが、その方法が面白い。

 ジュブナイルとはいえ、少年がミツバチの坊やの「ルルルッ」という聞き取れない声をテープレコーダーに録音し、その声がまた後で出てくるなど結構緻密なプロットになっている。伏線の張り方、活かし方がうまい。そういう意味で、前半にところどころ顔を出すせいたかさんとママ先生の娘、おチャメさんが大活躍する後半の意外の展開も見事。おチャメさんの登場でせいたかさんやコロボックル達もまったく予想していなかった展開になるが、それまでの伏線の張り方がうまいので唐突さを感じさせない。

 おチャメさんが登場して少年にからむことで、いってみれば少年がヒールだったそれまでのアクション・サスペンスから様相が変わり、少年側の物語へと移行していく。コロボックル達の作戦は失敗し、切り札のせいたかさんが動くことになるがもはや事態の進行についていけない。結局このエピソードは少年とおチャメさんの不思議な心の触れ合いによって決着がつくことになる。少年とおチャメさんが友達になり、二人ともコロボックルの味方になることが暗示されて物語は終わる。美しい展開だ。
 
 コロボックル側では双子のサザンカ兄弟と天才少女のおハナが新しいキャラクターとして登場し、なかなかいい味を出している。それから冒頭の足動式の飛行機械、足動式のヘリコプター、そしてテレパシー式の無線機など新しいガジェットも色々登場して愉しませてくれる。


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1 コメント

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本物はやっぱり違う件 (ひろゆき)
2007-08-09 02:33:48
やっぱり目の前で見る本物は違う!!
大胆あり、恥じらいあり、お手伝いあり!!
おれ当分やめれる気配がない(笑)http://giga-mix.net/love/303
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