『天国の日々』 テレンス・マリック監督 ☆☆☆☆★
日本版DVDで鑑賞。いやー、美しい。美し過ぎる映像だ。これは高性能レンズと高品質フィルムで捉えたクリアな美しさというよりは、絵画的な美しさである。つまり、ドラマと情緒ともののあわれをひたひたと、溢れんばかりに湛えている美しさ。それによって私たちはアンドリュー・ワイエスの、あるいはフェルメールの絵画の世界に誘われる。何でもこの映像を撮るために、夕暮れの場面はすべてマジック・アワー、すなわち太陽が沈んで直射日光は消えたが残照でまだ夜にはなっていないという、あの時間帯に撮られたと言われている。他の場面も、ほとんどが自然光で撮られているようだ。それにしてもきれいだなあ。この映像には酔えます。
舞台は一時代前のアメリカ、地平線まで麦畑が広がるテキサスの農場。まさにアンドリュー・ワイエスの絵画に入り込んだような、神話的なノスタルジーの世界である。そしてこれは、そこで繰り広げられる愛と葛藤の物語。
一人の若者、その恋人である娘、そして若者の幼い妹の三人は、シカゴからテキサスの農場にやってくる。来る日も来る日も続く過酷な労働。しかし農場のはずれには、地主である若い男が一人で住んでいる、夢のように優雅な屋敷があった。地主の青年は農場で働く娘に恋をする。それを知った若者は娘に言う。あの地主は病気でもう長くない。結婚してしばらくすれば死んでしまう。あの豪奢な屋敷も、財産も、あの男には使う時間がないんだ。それを俺たちがもらって、何が悪い…。
見渡す限りの麦畑。そこをわたっていく風。黄昏の光。胸を締め付けるようなノスタルジー。すべてがあまりにも美しく、はかない。その中でゆるやかに進行する愛と、欺瞞と、罪。何とシンプルで、原型的な物語だろうか。途中まではまさにパーフェクトだと思いながら観た。この手の映画に込み入ったプロットはいらない。さりげなく、シンプルな、人々の心の襞から隠された謎を拾い上げてくるような物語、それこそが似つかわしい。アビーが地主の青年と結婚し、アビーの兄ということになっている恋人ビル、その妹リンダと一緒に暮らすようになる。しかしアビーはだんだんと自分の夫を愛するようになっていく。一方で、地主の青年はビルとアビーが兄妹でなく、恋人同士ではないかと疑い始める。ビルとアビーの親密な愛撫を目撃した地主の青年が嫉妬と疑惑で苦しむあたり迄は最高で、芳醇なロマンの香りにただ酔わされた。
しかし、残念なのはその後の展開だ。これはあくまで神話的な物語であるべきだったと思う。ストーリーの核心となるべきは二人の男を愛したアビーの葛藤、そして農場主を苦しめる嫉妬だろう。勝手に断言するが、こうした人間心理が必然的に辿り着く宿命的な悲劇こそが、この映画のあるべき姿だったのだ。しかしそうした心理劇はアクシデントによる殺人、逃亡という、アクション映画風の展開によってうやむやになってしまう。それでもいい映画には違いないが、名作と呼ぶにはいささか弱い終盤だ。そこが惜しい。この映画は、テキサスの農場という小宇宙の中で完結すべきだったのだ。
アビーを演じたブルック・アダムスは『デッド・ゾーン』でジョン・スミスの恋人役をやっていた女優さんである。それほどきれいじゃないが、妙に記憶に残る顔立ちだ。表情にどこか哀しげな陰りがあるせいかも知れない。リチャード・ギアはとても若くてかっこいい。しかしこの映画の中では、若い地主を演じたサム・シェパードの方が光っているように思った。
日本版DVDで鑑賞。いやー、美しい。美し過ぎる映像だ。これは高性能レンズと高品質フィルムで捉えたクリアな美しさというよりは、絵画的な美しさである。つまり、ドラマと情緒ともののあわれをひたひたと、溢れんばかりに湛えている美しさ。それによって私たちはアンドリュー・ワイエスの、あるいはフェルメールの絵画の世界に誘われる。何でもこの映像を撮るために、夕暮れの場面はすべてマジック・アワー、すなわち太陽が沈んで直射日光は消えたが残照でまだ夜にはなっていないという、あの時間帯に撮られたと言われている。他の場面も、ほとんどが自然光で撮られているようだ。それにしてもきれいだなあ。この映像には酔えます。
舞台は一時代前のアメリカ、地平線まで麦畑が広がるテキサスの農場。まさにアンドリュー・ワイエスの絵画に入り込んだような、神話的なノスタルジーの世界である。そしてこれは、そこで繰り広げられる愛と葛藤の物語。
一人の若者、その恋人である娘、そして若者の幼い妹の三人は、シカゴからテキサスの農場にやってくる。来る日も来る日も続く過酷な労働。しかし農場のはずれには、地主である若い男が一人で住んでいる、夢のように優雅な屋敷があった。地主の青年は農場で働く娘に恋をする。それを知った若者は娘に言う。あの地主は病気でもう長くない。結婚してしばらくすれば死んでしまう。あの豪奢な屋敷も、財産も、あの男には使う時間がないんだ。それを俺たちがもらって、何が悪い…。
見渡す限りの麦畑。そこをわたっていく風。黄昏の光。胸を締め付けるようなノスタルジー。すべてがあまりにも美しく、はかない。その中でゆるやかに進行する愛と、欺瞞と、罪。何とシンプルで、原型的な物語だろうか。途中まではまさにパーフェクトだと思いながら観た。この手の映画に込み入ったプロットはいらない。さりげなく、シンプルな、人々の心の襞から隠された謎を拾い上げてくるような物語、それこそが似つかわしい。アビーが地主の青年と結婚し、アビーの兄ということになっている恋人ビル、その妹リンダと一緒に暮らすようになる。しかしアビーはだんだんと自分の夫を愛するようになっていく。一方で、地主の青年はビルとアビーが兄妹でなく、恋人同士ではないかと疑い始める。ビルとアビーの親密な愛撫を目撃した地主の青年が嫉妬と疑惑で苦しむあたり迄は最高で、芳醇なロマンの香りにただ酔わされた。
しかし、残念なのはその後の展開だ。これはあくまで神話的な物語であるべきだったと思う。ストーリーの核心となるべきは二人の男を愛したアビーの葛藤、そして農場主を苦しめる嫉妬だろう。勝手に断言するが、こうした人間心理が必然的に辿り着く宿命的な悲劇こそが、この映画のあるべき姿だったのだ。しかしそうした心理劇はアクシデントによる殺人、逃亡という、アクション映画風の展開によってうやむやになってしまう。それでもいい映画には違いないが、名作と呼ぶにはいささか弱い終盤だ。そこが惜しい。この映画は、テキサスの農場という小宇宙の中で完結すべきだったのだ。
アビーを演じたブルック・アダムスは『デッド・ゾーン』でジョン・スミスの恋人役をやっていた女優さんである。それほどきれいじゃないが、妙に記憶に残る顔立ちだ。表情にどこか哀しげな陰りがあるせいかも知れない。リチャード・ギアはとても若くてかっこいい。しかしこの映画の中では、若い地主を演じたサム・シェパードの方が光っているように思った。
「キングコング」のヒロインとしてただのアイドルのような扱いだったジェシカ・ラングの、女優としての才能の豊かさを発見し、発揮できるようにサポートした、というような人物だった記憶があります。
「天国の日々」のサム・シェパードはいいですね。
残り少ない命をどう輝かせるか、その哀しさ切なさをとてもうまく演じていたと思います。
名前を入れ忘れました。私です。