アブソリュート・エゴ・レビュー

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壬生義士伝

2008-10-07 21:56:16 | 映画
『壬生義士伝』 滝田洋二郎監督   ☆☆☆★

 以前小説のレビューを書いたが、今回は映画の方。再見である。小説を読み返してから観たので、違いが良くわかって面白かった。

 まず映画版では吉村寛一郎と斉藤一の関係に絞って描いてあるが、これは正解だと思う。原作でもこの部分が一番面白い。というか、斉藤一というキャラクターが非常に魅力的だ(映画では原作よりドライさが薄れているが、もっと血も涙もない感じにしても良かった)。一方の吉村も田舎者で剣の達人で人格者のくせにドケチというキャラが面白く、この二人を対比することで物語が映えてくる。「おれはこいつが大嫌いだった」という斉藤の語りで入るのもいいし、エピソードも新撰組入団試験、斉藤一と吉村の対決、切腹の介錯、そして吉村のドケチっぷりと原作のおいしいところばかりを並べてあり、序盤の充実ぶりは素晴らしい。

 その後田舎のエピソードも交えて話は広がっていくが、重要な変更としてはまず寛一郎としずの結婚。原作では寛一郎がプロポーズするが、映画では次郎右衛門から逃げてきたしずが寛一郎にプロポーズする。私は原作で寛一郎がプロポーズする時のセリフが好きなので、この変更はちょっと残念だった。それから斉藤一の恋人であるぬいが大きくクローズアップされ、吉村も絡めて話を膨らませてある。これはまあ吉村+斉藤の映画としては正しいのかも知れないが、この二人の個人的な縁をあんまり強調して欲しくはなかった。斉藤はあくまで冷血、そして吉村が大嫌いというのがいいのであって、それによってクライマックスの「吉村死ぬなあー!」が生きてくるのである。

 中井貴一、佐藤浩一を始め殺陣も迫力がある。全体にはなかなかいい映画なのだが私見ではいくつか致命的な欠点があり、その一つは言うまでもなくラストの長たらしい愁嘆場である。吉村の独白が延々と続いて観客を泣かせようとするのだが、あれはまずい。饒舌に語って泣かせようとしてはいけないのである。中井貴一が熱演すればするほど観客は引いていく。しかもあきれたことに、その後続けて息子達の愁嘆場まである。たれ流しだ。泣かせどころは抑制が大切である。おそらく大部分の観客にとってこの映画の中で一番感動できるのは、寛一郎が官軍に突っ込んでいき斉藤が「吉村死ぬなあー!」と絶叫するシーンに違いない。

 そしてもう一つは、小説のレビューでも書いたが親友の大野次郎右衛門が吉村を切腹させるというストーリー展開。あれはどう考えてもまずい。冷血な人殺しである斉藤一でさえ吉村を助けようとするのである。必死に生き延びてきた吉村を「藩と引き換えにできない」というごもっともな理由で殺してしまうことで、物語の着地点がずっこけてしまった。さらに切腹を命じておいてすきっ腹を心配する、殺しておいて遺体にすがりついて泣く、という大野次郎右衛門の節操のなさ。なんだかあほらしい一人相撲を見せられている気分になってくる。

 それにしても次郎右衛門役の三宅裕司の存在感のなさは驚異的である。今回再見するまでまったく存在を忘れていた。次郎右衛門役は内藤剛志だと思い込んでいたのだが、これはテレビ版の次郎右衛門役だった。


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