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アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

座頭市鉄火旅

2009-03-29 11:18:04 | 映画
『座頭市鉄火旅』 安田公義監督   ☆☆☆☆

 座頭市シリーズ15作目。英語版DVDで再見。

 これはシリーズの中でもかなりの傑作だと思う。個人的には一作目の『座頭市物語』の次に好きである。始まってすぐ市が旅芸人達と出会い、水前寺清子が「ぼろはきーててーもこーころーはにしきィ~」という例の歌を歌うので、これもまたゲスト頼りの企画モノかと一瞬不安になるが、その後の展開は全然問題ない。

 旅の途中で庄太郎と名乗る男の最期を看取った市は足利の町を訪れ、そこで庄太郎親分に代わって町を支配し、暴利を貪る岩五郎一家の非道を目撃する。市はいかさま賭場を荒らし、襲いかかってきたちんぴらを斬り捨てる。しかしそこに居合わせた元刀鍛冶の仙造は市の仕込みを見て「この刀はもう寿命だ。あと一人斬れば根元からぽっきり折れる」と警告する。市はヤクザから足を洗う気になり、仕込みを仙造に預け、按摩として旅籠で働き始める。しかし性懲りもなく岩五郎一家が旅籠に乗り込んできて乱暴狼藉を働き、岩五郎と手を組んでいる役人の桑山は旅籠で働く美しい娘・お志津を手篭めにしようと狙う。このお志津は亡くなった庄太郎親分の義理の娘にして仙造の実の娘なのだった。ついにお志津を誘拐され、仙造を殺された市は仕込みを手に桑山の屋敷に赴く。「この仕込みはもう一人斬れば折れる」という仙造の言葉を思い返しながら…。

 なんといっても市の仕込みに寿命が来た、という設定がいい。無敵の仕込みが折れる! これまで縦横無尽に斬りまくり、もはや超人と化している市も仕込みが折れてはどうしようもない。この設定によってぐっと緊張感が高まった。それに仕込みを仙造に預けてしまうので、物語の中盤市は仕込みを持たず、無敵の居合いは一切封印される。従って終盤、市が仕込みを手にしてからの殺陣の爆発力とカタルシスは最高、その爽快さはしびれるほどだ。

 それから仙造を演じる名優・東野英治郎が実にいい。落ちぶれた刀鍛冶が最後の力を振り絞って一振りの刀を完成させ、それが市とお志津の命を救うことになる。「おれはただ筋を通してえんだ」という仙造が最後に選んだのは、市の仕込みを蘇らせることだった。そして仙造は市に看取られて死んでいく。合掌。

 他の役者たちもいい演技をしている。お志津役の藤村志保は『座頭市喧嘩旅』でもヒロインを演じているが、明らかにこっちの方が生彩がある。単なる清楚なお嬢さんでなく気丈なところがいい。悪役たちも岩五郎をはじめ全員実に憎たらしい。旅籠にきて勝手に賭場を立て、「やめて下さい」と頼みにきた主人に怪我させたりする岩五郎がとっても憎たらしいので、市が賭場に行ってかき回すシーンは最高に痛快だ。「このどめくらが」「きいた風なこと抜かしやがって」などと凄んでいた岩五郎が途中で座頭市と知り、急に低姿勢になる。市はもうやりたい放題で「ここはてっきりめくらばかり集まる賭場かと思ったよ」「お前さんおれの肩を叩くほど貫禄のある男かい」しまいに岩五郎に酒をぶっかけて「すみませんね、すっかり酔って目が見えなくなっちまった。わはははは」
 岩五郎の最期も非常にすっきりする。市に仕込みで突き刺され、よろけて階段の手すりを掴む。すると市が早業でその手すりまで切り落としてしまう。岩五郎は手すりの破片を掴んだまま「ああ!」と言って背中から階段を真ッ逆さまに転がり落ちていく。因果応報である。

 アクション面の注目はクライマックス、あの桑山を斬る殺陣である。ほんの一瞬の間に、市の仕込みは一体何度回転しているのか。どうしたら目をつぶったままあんなことができるのか。お見事としかいいようがない。殺陣の前の緊迫感もタメも申し分ない。市がお志津に「こっちに来て下さい」と言ってもお志津はその場の空気に呑まれて動けず(お志津はある件で市に腹を立てていた)、市が今度は凄むように「来いっつったら来るんだよ!」するとさすがに気丈なお志津も「はい」と蚊の鳴くような声で返事する。ここもいいなあ。

 その他、夕日に染まる障子に映る市のシルエットや雪の夜の決戦など映像も美しい。最後の決戦で樽や畳を真っ二つにする殺陣もかっこいいし、ラストシーンで市がお志津にかんざしを残していく演出もいい。細かい部分に工夫が凝らされ、丁寧に作られている。座頭市の魅力がたっぷり味わえるお薦めエピソードである。


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