崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

ボストンからの電話

2013年04月19日 05時11分35秒 | エッセイ
 昨日ボストンから電話があり、圧力釜爆弾テロのところからなので安否の電話かと思った。So Far from the Bamboo Groveなどの作家のYoko Kawashima Watkins川島擁子氏からであった。彼女の本が東京で日本語訳で出版されることになったという。記憶にも新しく、彼女が10歳ころ北朝鮮からの引揚の体験に基づいて書いた小説がアメリカで学生向けの推薦図書に指定されたが、韓国系アメリカ人の学父兄たちによって反発され、大きくバッシング、日本での出版も難しくなったのである。当時韓国のマスメディアは口を揃えて彼女の「父親が731部隊のメンバーだ」とか、「嘘」であるとか激しく非難を浴びせた。
 私は嘘ではない「虚構」であると思い、彼女を日本に呼んで研究会もし、出版を進めた。結局出版できず今に至ってしまったが、出版できるという話は嬉しい。私は作品を精読して、アメリカの韓国人父兄たちと韓国のマスメディアの非難が正しくなく、まったくいじめのように思っていた。数年過ぎた今その作品を「反反日」的作品と思う人は少ないだろう。この本が日本で今出版されることは安全であり、遅すぎると思う。彼女の電話は夫のダンさんの「僕の死ぬ前に訪れて下さい」という伝言を伝えながら最後の挨拶は「ごきげんよう」であった。昨日は4月18日であり、彼女からのファックスは時差によって4月17日になっている。
 今日は4月19日。韓国で1960年、学生革命の記念日である。反政府デモに参加したことを思い出す。人によって社会を変えたという自負心をもっている。私もその一人である。韓国では多くの人が政治や社会を変えることが出来るという信念を持っている。それが韓国社会を民主化する低力であろう。