崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

敵を愛する

2008年10月13日 06時25分14秒 | エッセイ
 イエスは‘敵をも愛しなさい’といった(ルカ6章27節~36節)。ただの皮肉ではない。旧約聖書にはない、否その隣人への愛を深化して彼が確立した倫理でもある。彼は実行して、殺された。われわれは無数の敵に囲まれている現実である。そのわれわれの人間関係からみるとそれは大変無理な倫理であろう。敵とはスポーツにおいて相手のような敵から競争相手や不倶戴天(この世に一緒に生きることさえ嫌な)の敵まで様々である。愛人でも敵に変わり、たまには憎らしい人も愛することがある。
 このようにわれわれは多かれ少なかれ敵をもっている。敵に対する態度は主に感情に任せている。文学や芸術があまりも感情的な熱愛ばかり強調しているように感ずる。しかし愛は感情だけではない。知的な愛が必要である。われわれは意識せずして人をきずつけたり、人から傷つけられたりする。それでもその人と今までの人間関係を総合的に検討し、感謝すべきことを思うといやな感情を抑えることができる。私は子供の時「林巨正」(洪命喜作)という小説を読んだことがある。父親が自分の子供の夜泣きに我慢できず殺して後悔して泣く場面を読んで深く考えたことを思い出す。今、世の中にはこの子供じみた犯罪が多い。
 初めは敵を憎み、次に考え直して、人間関係を改善、最後には「敵を愛する」段階に至るように私も努力しようと心を新たにする。