平成細雪

2018年02月24日 01時51分07秒 | 京都
表題のNHKプレミアムドラマが、BSでは1月に、総合では先日深夜にまとめて放送がありました。
カテゴリ分けを迷いましたが、ロケ地に京都も含まれているので「京都」に入れておきましょう。(笑)

さて、原作は言わずもがな谷崎潤一郎『細雪』ですが、あちらが昭和大恐慌の後から太平洋戦争の開戦前までを描いているのに対し、ドラマの時間軸はバブル崩壊に始まり、阪神淡路大震災を目前に終わりを迎えます。
物語の構造もおおむね踏襲されており、船場の旧家に生まれた四姉妹を主人公としながらも、描かれる空間の多くは阪神間であるところや、四姉妹を取り巻く人間関係などもおおむね原作を尊重したもの。ただ、時代はまったく違いますから、昭和初期を描いた原作からなるほどこのように置き換えられるのかと、毎度驚きと楽しみの連続でした。

ロケ地もほとんど関西で、とくに1話と4話に登場した宇治の興聖寺は新緑も紅葉も美しいですね。映像(画面の切り取り)の美しさ、緩急のつけ方は見事なもの。と言うのも、エンディングを見ていると、今もコンスタントに新作が放送され、再放送も盛んな「京都人の密かな愉しみ」と、どうやら同じ制作陣のよう。美しい四季の風物を織り交ぜながら、家や職業、ひいては土地に(ある意味で)縛りつけられながらもそれぞれの立場で生きていく人々、そして彼らが住まう〈京都〉を描いた実績は流石のものです。

「平成細雪」を底流するのはおそらく「喪失」。
人間や財産など、去っていくもの、失われていくもの、それでも乗り越えていかなければならないものは現代でも同じで、それに翻弄されるばかりでなく、受け容れて前に進んでいくことが一つのメッセージであったように思います。美しい四姉妹のキャスティングもぴったりで魅力的でした。「ごりょうさん」「こいさん」といった呼び方は平成初期であってもいまいちそぐわない気がしますが、姉妹の位相を示す重要な表現なので仕方ないでしょう。

並行して、平成初期という時代も私にとっては懐かしく映りました。まだ携帯電話が普及しておらず、連絡が行き違ったり手間取ったりした時代。結婚について旧来の「家」制度が大きく絡んでいた時代。良くも悪くも、まだまだ昭和の遺風を残していた平成初期が見事に描写されており、久々に幼少の頃を思い出すきっかけとなりました。
反対に言ってしまえば、モノがありふれてしまったこの平成末年、つまり現在の物語として『細雪』を再現することはもはや不可能に近いのでしょう。そうした点では、この30年という時間での大きな変化を認めざるを得ませんし、この時代の始まりにはまだまだ色々なものがなくて、同時に色々なものが残されていたのだということを実感させられます。まさに平成の夕暮れ時にぴったりのドラマだったのではないかと思います。

ところで、ドラマでも何度か出ていた〈夙川の土手〉は、昨年4月の桜の時期に訪れました。


この上流、阪急の線路から少し離れたところにある古民家カフェがドラマでは四女・妙子(こいさん)の工房として登場していましたが、その時は入ろうかどうか迷い、結局は苦楽園の喫茶店に収まった覚えがあります。(笑)
気付けば2月も終わり。また季節が一巡りしようとしています。気温も上がって徐々に春めいてきましたから、久々に原作を片手に阪神間へ足を延ばしてみましょうか。

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