西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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19世紀パリの男装

2010年05月09日 | モード ファッション 風習

ジョルジュ・サンドといえば男装の麗人として知られていますが、19世紀パリで女性の男装が許されるのは、原則として健康の理由による場合であり、警察の許可が必要であったことをChristine Bard の研究が明らかにしています。

パリ警視庁の19世紀の古文書によれば、異性装に関する1800年の政令 は、資料シリーズD/Bのデータn° 58に記載されている。最も古いデータは1806年のもので、Mlle Catherine-Marguerite Mayer が馬に乗るために異性装の許可を申請し、これが認められている。
傑作なのはMlle Foucaudの場合である。倒産した産業家の娘、フーコー嬢は1830年にパリに出て様々な仕事に就いたが、印刷工として働き始めたところ、彼女の日給は2フラン50だった。ところが、彼女は自分とまったく同じ仕事をしているのに、男子の仕事場では男たちは彼女より遙かに高額な日給4フランが支払われていることに気づいた。そこで、彼女は工場主に職場を男子の仕事場に変えてほしいと頼んだが、工場長は「絶対に駄目だ。男女は一緒の職場では働かせない」と言い張った。
それではと、彼女は、それまで働いていた女性だけの工場で働くことを辞め、何日か後には、髪を切り男装をして、男子の工場で雇ってもらうことに成功。その後、節約して暮らし、遂には金持ちの地主になったという。
この話は、1911年に 当時の新聞 Le vieux papier が掲載しているものだが、同紙は、男装をして男の仕事をしている女性たちの例として、印刷工、錠前屋、馬丁、屋台商人(八百屋)などが挙げられると記している。

1850年から1860年の間の異性装の申請に対し、許可が降りたのは12件だけであったそうである。


多くの女性たちは、このような規則があることを知らないか、知っていても知らないふりをしていた。この政令自体が波及効果を恐れて目立たないように扱われていたこともあり、女性の男装禁止法令は、抑圧的というより抑止的な機能を果たしていたようだ。

サンドがこの法令を知っていたかどうかは定かではない。
意外に鷹揚なところがあって、法律の細則は気に留めていなかったかのような節も見受けられる。例えば、この時代に養子を育てることができたのは、女性の場合には、確か、既婚者でありかつ50歳以上という条件があった筈だが、「捨て子フランソワ』のマドレーヌがフランソワを養子にするのは、ずっと若い年齢の時なのである。
たとえ、サンドがこの法令を知っていたとしても、警察に許可を申請する必要性を感じていなかったのではないだろうか。男装が成功し、見破られることがなかったからだ。サンドが男装をして歩いていると、本物の若い男性と勘違いして流し目を送ってきた女性がいたと、後年、書き残していることから、サンドの場合には男装を見破られることがなかったことが幸いしていたといえるかもしれない。

-Toute femme, désirant s'habiller en homme, devra se présenter à la Préfecture de Police pour en obtenir
l'autorisation.
- Cette autorisation ne sera donnée que sur le certificat d'un officier de santé, dont la signature sera dûment
légalisée, et en outre, sur l'attestation des maires ou commissaires de police, portant les nom et prénoms,
profession et demeure de la requérante.
- Toute femme trouvée travestie, qui ne se sera pas conformée aux dispositions des articles précédents, sera
arrêtée et conduite à la préfecture de police.
- La présente ordonnance sera imprimée, affichée dans toute l'étendue du département de la Seine et dans les
 communes de Saint-Cloud, Sèvres et Meudon, et envoyée au général commandant les 15e et 17e divisions
 militaires, au général commandant d'armes de la place de Paris, aux capitaines de la gendarmerie dans les
 départements de la Seine et de Seine et Oise, aux maires, aux commissaires de police et aux officiers de paix,
 pour que chacun, en ce qui le concerne, en assure l'exécution. »

                                    Le Préfet de Police Dubois

http://clio.revues.org/index258.htmlより

Christine BARD, « Le « DB58 » aux Archives de la Préfecture de Police », Clio, numéro 10-1999, Femmes travesties : un "mauvais" genre, [En ligne], mis en ligne le 22 mai 2006.
URL : http://clio.revues.org/index258.html. Consulté le 28 avril 2010.
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