『饗宴』に登場するミュートス「人間球体説」は、わたせせいぞうのコミック作品『菜』の中で使われるほど現代では知られるようになっている。プラトンが『対話篇』において問答と並列させたりあるいは問答の代わりに神話を使う理由について、國方は著書の中で「対話の相手が、論理では納得できても情念ではまだ納得しきれていないとき、説得のためにミュートス(神話)が提起されるとしている」と述べている。國方栄二『プラトンのミュートス』、京都大学学術出版会、2007。
「人間球体説」は、プラトンが紀元前四世紀に書いた『饗宴』の中で、ギリシャ喜劇の作者アリストファーネスにエロスについて語らせる話の中に登場する。『饗宴』は、数人のソクラテスの弟子たちが「愛」について対話形式で議論する場面を描いている。
「人間球体説」のもとを辿ればギリシャ神話に端を発している。かつて人間は球体の形をしており、手足がそれぞれ二対、顔と局所も二対あった。この球体は、アンドロ(男/男)、ギュロス(女/女)、アンドロギュロス(男/女)の三種類の組み合わせにより構成されていた。転がるようにして移動するこの球体人間は、心臓も脳も二人分あったために極めて強力な生きものであるうえに、非常に高慢だった。これらのかつての人類は、反抗的でたびたび神々に歯向かった。この様子をみたゼウスは、球体人間を二つに切断してしまった。半身は本来の「完全」な姿になろうともう一方の半身を求める。この完全を求めることが「恋愛エロス」であり、完全無欠な愛が成立するのは、この分身同士が出会った時だとするのが人間球体説である
「洞窟の比喩」は、教育分野で重視されるプラトン哲学の「魂のふりかえ」説を喚起する。
『ある夢想者の物語』の舞台となっているシチリア(シケリア)は、40歳のプラトンが「アカデメイア」という学園を創設するために下見に行った地であり、当地の専制独裁政治の実態を観察する機会となった。さらにプラトン哲学に大きな影響を与えたピタゴラス派の霊魂不滅の思想や数学を知ったのもこの地シチリアであった。中野幸次『プラトン』清水書院。P.66-67.
「聖なるプラトン」は、プラトンを尊敬するサンドがルルーに初めて書き送った手紙の中で尊敬をこめて使用している表現である。1836年