西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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シンポジウム:接触の表象文化論―直接性の表象とモダニティ

2014年10月03日 | シンポジウム

これはすでに終了してしまったシンポジウムですが,興味深いものがあります。

パネル8:匣のなかの科学者と少女──京極夏彦『魍魎の匣』による科学文化の試み

京極夏彦『魍魎の匣』を開く
奥村大介(慶応義塾大学)

京極夏彦『魍魎の匣』で描かれる科学者の哀しさ──『ルー=ガルー2』との比較から
西貝怜(白百合女子大学)

京極夏彦『魍魎の匣』における「少女」表象──人形と匣をめぐる欲望の関係性
鈴木真吾(学習院大学)

【コメンテーター】西原志保
【司会】金森修(東京大学)

本パネルは、京極夏彦の小説『魍魎の匣』(講談社、1995)について、〈匣〉〈科学者〉〈少女〉という3つの視点から考えようとするものである。

京極作品は従来の文学研究において、妖怪や怪奇についての問題に焦点化し、幻想文学の枠組みから論じられることが多かった。これに対して本パネルでは、多くの京極作品において重要なモティーフとなっている〈科学〉という切り口からテクストを読み直そうとしている。このようなケーススタディを行うことを通じて〈科学文化論〉という枠組みを構築し、最終的には京極夏彦だけでなく、近代以降の日本における小説テクストにおいて〈科学〉がどのように表象されているのかという問題についての考察に展開していくことを視野に入れた内容である。

【パネル概要】

京極夏彦の小説は、探偵=推理小説に妖怪という伝奇的要素を融合させた作品として知られる。それゆえ先行研究は、これを怪奇幻想の観点から論じるものが多かった。そこで本パネルでは、長篇『魍魎の匣』(1995年)を〈匣〉〈科学者〉〈少女〉という三つの観点から論じる。

1 京極夏彦はデビュー作『姑獲鳥の夏』以来、閉鎖空間のなかで怪事が起こるという推理小説の〈密室〉テーマを踏襲している。『魍魎の匣』の場合、〈密室〉は〈匣〉という特異なイメージに変奏されている。そして、そこで科学や性愛の欲望が展開するという体裁になっている。その意味で、この物語は空間論的に読み解くことができる。

2 京極作品において科学が重要なモチーフとなるということは看過されがちである。本作は、科学者が主要人物として描かれている点で、同様の科学表象が見られる『ルー=ガルー』共々、科学論的な視点で分析することが有効である。

3 本作を第二作とする京極の「百鬼夜行」シリーズは、一貫して作中人物たちの欲望の交錯を物語の駆動因としている。またその場合、多形倒錯的なセクシュアリティの横溢に特徴があるといえる。本作では人形愛と少女愛が中心モチーフとなっているので、クィア論的な読解をすることが可能である。

本パネルでは、複雑な〈入れ子状の匣〉ともいえるこの物語を多角的に読解するのみならず、現代における科学者の姿、科学の空間、そこに去来する科学の欲望も明らかにすることを目指す。そうすることで〈科学文化論〉とでも呼びうる、新たな切り口を提示したい。(パネル構成:西貝怜)

◆京極夏彦『魍魎の匣』における「少女」表象──人形と匣をめぐる欲望の関係性  鈴木真吾(学習院大学)

本発表では、『魍魎の匣』の冒頭に登場する、〈匣〉の中に詰められた「(少女)人形」を媒介に、〈匣〉の中身を羨ましく感じる男と〈匣〉を所有する男の間に構築される欲望の関係性、〈匣〉と「(少女)人形」を結び付ける接点としての科学(者)表象を分析する。

『魍魎の匣』においては、少女を人形のように愛する(女性)人形師が登場するなど、欲望を誘発する装置としての人形と、それを収納する〈匣〉が重要なモチーフにされている。 人形を介して生み出される欲望は、『フランケンシュタイン』や『未来のイヴ』に見られる人形の人間化や、本作に見られる人間の人形化(いずれも男性によって科学技術が用いられる)などがあり、〈匣〉は何かを出し入れする機能を持ち、隠された存在を覗き見たいという欲望を刺激する。

『魍魎の匣』の冒頭場面に登場する人形は「少女」であり、2人の男が対置されることで「欲望の三角形」が形成されるが、人形によって誘発される欲望には、人間を人形にする/人形を人間にする/自身が人形になるなどの多様性がある。科学と〈匣〉がそのような欲望と絡み合う本作における特徴のひとつに、多形倒錯的なセクシュアリティの充満があげられる。本発表では、横溢するセクシュアリティの一側面を分析する手段として、人形愛と少女愛というモチーフのクィア論的に読解し、三角形を異なる図式へと変形せしめる可能性を上記の2つの発表を踏まえて検討したい。


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