駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

一言では言えないのだが

2017年05月02日 | 世の中

          

 学びて思わざれば、則ち罔(くら)し、思いて学ばざれば、則ち殆(あやう)しと論語にある。呉智英さんがどのように解説しているか知らないが、物事を理解し発言する基本姿勢と受け取り心がけている。私はどちらかというと殆しの方に注意した方がいいのではないかと自省している。

 なだいなだは物事は一言では言えない、さらば三言でと試みられた。しかし浅学菲才市井の臨床医には三言では難しい。それに熟慮していては間に合わないことも多く、休むに似てしまうので、即興発言でもなにがしか伝えられるものがあるかもしれないとあれこれ書いてきた。

 しかるに、どうも世の中には高々三言にも耐えられず、一言を求める人も多い。一言では表わせない物事を一言で理解しようとする。

 患者さんはしばしば風邪を引いた言われる。確かに一言で多くのことを伝えているが、「寝てりゃ治るよ」とか「抗生剤を貰えよ」などが続くと医者としては「うーん」と唸ってしまう。糖尿病か「ヘモグロビンA1cを下げないとな」、「7以下」、「6.5以下」、「いや6以下だろ」と食事処の臨席で言葉が飛び交う。当たらずとも遠からずであるが、医者としては「えーっと」と言葉を挟みたくなる。それに困るのが血圧が200あっても、血糖が200あっても、LDLコレステロールが200あっても、何が病気なものか俺は私は何でもないという人達だ。取り敢えず、ご注意申し上げ、治療をお勧めしましたと申し訳をカルテに書いたりしている。

 学ぶももう一つ、考えももう一つというと偉そうに響くかもしれないが、それでいて、結論というか理解は一言で済まそうとする人が多い気がする。実際に、しばしば遭遇している。一刀両断のつもりかもしれないが、切れてはおらず単に叩いているだけですよと申し上げたくなる。 

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